まいにち三題噺season2

エコエコ河江(かわえ)

(1) 『野生の子犬』


(1)【学園モノ】台風/橋の下/無敵のメガネ (1460字を/43分で)


 スクール学園で三人組と言ったら、有名な二年生を誰もが思い浮かべる。災害や事件のたびに偶然にも関われる場所に立っていたおかげで案内や復興に尽力し、表彰式の様子は新聞にも載った。切り抜きが下駄箱前の掲示板に貼られている。特に直近の台風では、学園の生徒も多くが助けられていて、身近なヒーローとして人気者でもある。


 彼らも普段は普通の少年だが、周囲からは決してそう思われていない。中心的なセンタが面白そうな出来事を見つけては首を突っ込んでまわり、無敵メガネことライトが一歩引いた意見で軌道修正を要求し、太っちょのレフトが両者の意見をアウフヘーベンして落とし所を出す。完璧なコンビネーションで意思決定が早く、すなわち成果につながっている。


 食欲の秋だ。商店街を歩けばあちこちからの匂いがレフトの食欲を刺激し、こちらへ来るよう手招きしている。匂いが強い揚げ物やカレーはもちろん、控えめな和食レストランの匂いもレフトなら見逃さない。ライトが引き止めるにも限度がある。同じ理由を連続で使えば説得力がどんどん下がっていく。商店街を突っ切る道を選んだのは失敗だった。距離が近いとはいえ、こうも足止めを受け続けるなら、遠回りした方がきっと早い。


「おっトリオか! どうだい、今日の卵綴じささみカツ!」

「うっへえ、うまそう!」

「すみません、今は用事がありまして」


 二人は今、センタからの連絡にあった橋へ向かっている。捨て動物を見つけたそうで、せっかくだから学園で飼おうとしている。ライトの返事を待たずに電池が切れたとと言うので、こうして現場へ向かい、どんな動物かを確認する。保健所とかジビエ料理店とかの適切な者へ連絡するためだ。


 橋が見えてきた頃、それまで引っ張られていたレフトが本気を出した。橋桁の隙間に鳥が巣を作っている。ライトにはよく見えないが、こうまで本気を出すほど美味しい鳥か。疑問は後にして、センタの姿を探す。草むらひとつの陰の先にすぐ見つかった。しゃがみこんで、段ボール箱を覗き込んでいる。動物とは小さいようで、ライトは脳内で保健所ポイントを加算しておく。


 ライトも覗き込むと、中にいたのは仔犬だ。産まれたてのように小さく、身体中に傷と汚れがあり、目を閉じたままほとんど動かない。今にも死にそうな様相をしている。タオルの陰になった脚はきっともっとひどい怪我がある。白いはずのタオルにその色はよく目立つ。


「ここに転がってたんだ。寒そうだったから、タオルと段ボール箱を近くで拾った」


 センタの言葉に力がない。きっとすでに分かっていて、しかし諦め切れない。こんなときライトは、普段ならば最善を尽くす。それも今回に限っては何も言えずにいる。この街に動物病院はなく、遠くへ運ぼうにもこの弱り方では先に力尽きる。それを抜きにしても三人のお小遣いではとても賄いきれない。野生動物だ。死ぬべきになれば死ぬ。その摂理をねじ曲げるのは人間の欲望であり、欲望の捌け口として動物を利用する結果になる。望もうと、望むまいと。


 ライトの沈黙から読み取れるものがあった。言葉にせずとも読み取れるもの。三人の間にある信頼関係だ。夕陽が沈むまではまだ時間がある。三人は暗くなるまで、仔犬を見守った。


 ひとつだけ言えることがある。帰る直前に、二人への警告だ。


「二人とも、特にセンタ。エキノコックスの危険がある。少なくとも検査は受けてくれよ。早ければ手を打てる」


 短い言葉に、友人を失いたくない意思が詰まっている。


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