私のヒーローは悪役だ

あーく

私のヒーローは悪役だ

「マスクド仮面!参上!」


「ふん!また来たかオジャマ虫め。ワガハイが出る幕などないわ!キサマら、やれ!」


「キィーッ!」


 結果はヒーローの圧勝。悪の秘密結社は今日も幹部で反省会を開いている。


「くそぉ~!ワガハイの作戦は完璧だったはずなのに!」


「まったくですな!人類全員に猫耳を着けさせて世界征服なんて、ボスしか考えられませんよ!」


 バカなの?あとそれって褒め言葉じゃなくて皮肉じゃないの?


「やっぱりお前もそう思うか!しかし、猫耳で失敗するとは……」


 逆になんでそれで世界征服できると思ったの?


「もしかしたら人類は犬派だったかもしれん。今度は犬耳でチャレンジしてみよう」


 そこじゃねえよ。いい加減耳から離れろ。


 とまあ、私たちは日々、あのヒーローを倒すための作戦を練っているわけだが、この調子だから当然うまくいかない。


「まてよ?うさ耳でもワンチャンあるな」


 うるせえよ。ワンチャンねえよ。


 私たちはただそこらへんの秘密結社とは違う。世界征服と銘打ってはいるが、世界征服すれば争いのない世界が実現できると信じて目指している。夢のある活動なのだ。


 私たちは巷で言われているヒーローとは正反対だ。私たちには目的があるが、ヒーローには目的がない。目的がないから私たちがすることに批判することしかできない。


 それは、SNSで他人を批判する人と何も変わらない。自分の人生に目的を見いだせないから、他人の人生に口出ししているんだ。もし自分の人生に目的があったら、他人の事なんか構っている暇はない。


 しかも、話を聞かなかったら武力で解決。そんなのはヒーローと呼べるだろうか?


 それだけじゃない。私たちとヒーローの決定的な違いはもう一つある。


 そう、私たちはバカ……じゃなかった。タフなのである。


 世の中、一度夢を批判されたぐらいで立ち直れなくなる人は多い。しかし、私たちは違う。何度打ち砕かれても立ち上がるタフさを持っている。


 何度挫けてもいい。たった一度成功すればいいのだ。たった一度成功するためにはたくさんの失敗が必要だ。


「おいレディ」


 昨日の失敗を反省して、次に活かそうと日々努力をしている。こんな努力家は探してもなかなか見つからない。


「おいレディ。聞いてるのか?」


 ……私?


「何かいい案はあるか?」


 そうですね。部下が「キィーッ!」としか言わないから意思疎通しづらい、とかはありますけど。


「あー。確かになー。でも予算の都合上、高度な言語能力はつけられないんだ。あいつら生産型だからコストがかかるんだよ。そこは勘弁してくれ」


 ボスはどんな批判でもまずは受け入れてくれる。


「ボス、いっそ巨大マシンでも開発しちゃいませんか?」


「ダメダメ。維持費が莫大だと経費降りないんだよ。大きすぎると固定資産税もかかるだろうし……」


 ちゃんと理由もつけて判断してくれているし、しかも微妙に計算高い。


「じゃあレディのいつもの巨大化魔法を使ってくれればいいのでは?」


「それいいね!じゃあ次はその作戦でいこう!」


 ちゃんと部下も頼ってくれる。


「というわけで、頼むぞレディ。何かあったらワガハイに任せろ」


 私はこれまで、人に頼られることなんてなかった。自分なんて生きてる価値がないとも思えた。


 そんな私を救ってくれたのがボスだった。


 私にかけてくれた「ワガハイがいつか世界を征服したあかつきには、世界の半分をやろう」という言葉は今でもよく覚えている。


 ちゃんと私たちのことも守ってくれる。


 私にとってはボスこそがヒーローだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私のヒーローは悪役だ あーく @arcsin1203

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ