本の中のヒーロー達ヘ

直接伝えられないけど、ありがとう

 私が通っていた小学校は、地域の過疎化が進み全校生徒が100人いかない学校だった。


 当然クラスは学年毎に1つずつなので、クラス全員友達。上級生も下級生も全員知り合いで、大規模校のように同じ学校に通っているけど知らない、という人間が存在しない。


 そうなってくると、自分のしたことは一瞬で全校に広まってしまう。


 絵のコンクールで賞をとった、下級生の面倒を見てあげた、なんて良い行いなら全く問題ないが、そういう話は何故かあまり広まらない。反対に、学校の窓ガラスを割っただの、ニワトリを追い回しただの、悪い話は面白いくらい広まる。


 私も小学3年生くらいのとき、通学路にある木の実を勝手に食べていたことが下級生から先生に伝えられ、クラスの学級会で断罪されたことがあった。


 木が誰の所有物かわからないし、下級生が真似するから、という理由で実を食べることは禁止になり、先生にも母にもそこそこ怒られたことは今でも思い出したくない。


 川に生えてる木って誰かの所有物とかあるの!?と、小学生ながら必死に繰り出した反論虚しく、よくわからんが木の実を食べて怒られたやつ、としてその日には学校全体に話が広まっていた。


 そんな狭い世界だから、悪い話が広まっている間は学校に居辛い。


 下級生に見つかれば質問攻めに合うし、上級生からは、ああ、あいつが、という目で見られる。


 人数が少ないせいで顔と名前が一致しているので悪目立ちしていたし、あいつがこんな田舎でやらかしたワルだぜ…という空気になっている気がした。


 何よりものすごく恥ずかしい。


 みんな顔見知りだが別に全員仲良しというわけでもないし、何より異様にプライベートがないしで、あまり学校は好きではなかったが、1つだけ、大好きな場所があった。


 学校の一番上の階にある図書室。そこが私の居場所だった。


 広い図書室だったが、いつ行っても不思議と人は少なく、しんとして、静かな場所。人気の少ないその図書室にいるときは、何故か友達も私を探しに来なかったので、誰にも見つかりたくないときは逃げ込んでいた。


 運動が好きで、友達と山を駆け回ることが日常の私であったが、運動と同じくらい読書が大好きだったので、図書室は天国みたいな場所であった。


 一人で静かに本を読んでいると、不思議と心が落ち着く。


 あるとき、図書室にある好みの小説を大体読み尽くし、あまり見たことがなかったジャンルの本棚を物色していたときのこと。私はそれから小学校を卒業するまでお世話になる、ヒーローに出会った。


 それは、本棚の一番下の段に収納された、小学生向けの偉人伝記漫画。


 あ、図書室に漫画置いてあるんだ、と興味を持って手に取った、最初の本は源義経。なんか聞いたことある名前だし、義経がイケメンに描かれていたことからとりあえず読みすすめると、面白いのなんの!五条大橋での弁慶との出会いや一ノ谷の戦いでの逆落とし、壇ノ浦の戦いでみせた八艘飛び等、ほんとかよ!?と驚く伝説の数々に、夢中でページをめくった。


 昔の人ってこんなに面白いんだ、と気付いた小学生の私は、偉人伝記シリーズを次々に手に取り、日が暮れるまで読み漁った。


 卑弥呼の予言、真田幸村と十勇士の活躍、エジソンが蓄音機を発明するまで等、図書室にある分を全て読み切り、また最初から読み直すということを繰り返していたので、特に好きだった義経等は今でも鮮明に思い出せる。


 本の中の偉人たちは、ページをめくるたび、小学校という狭い世界にいる私を広い世界に連れていってくれた。


 小学生ながらになんやかんや辛いこともあったが、図書室に逃げ込めば私は大丈夫だと思えることが、ものすごく支えになっていたことを、今でも時折思い出す。


 本の中で出会った彼等は、紛れもなく私だけのヒーローだった。


 今でもあの図書室の、風を浴びながら窓際に座って読んだヒーロー達の物語は忘れられない。


 小学生の私を助けてくれたヒーロー達、届かないかもしれないけど、ありがとう。


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