当事者―●●た女の独白―
――どうすればよいのか。私は考えた。
そして暫くの間、博隆さんを調べる事にした。お姉ちゃんを狙っている、なんていうのは私の勘違いかもしれないし。
だから、毎日私は博隆さんを観察した。お姉ちゃんのバイト先の中と外から、博隆さんがどういう行動を取るのかを、ずっと。
苦痛ではなかった。やはり、私は博隆さんが好きなんだ。愛しているんだ。だから、彼の事を考えるのが苦痛なわけが無かった。
お姉ちゃんがシフトに入っている日は外で待機。入っていない日は、変装して店内から。その為に最初は眼鏡とウィッグを買った。お姉ちゃん、私の事好き過ぎるところがあるから、バイト先の人に写真とか見せてたらちょっと面倒だからね。
あ、この間誠也さんにお姉ちゃんの送迎について頼んでおいた。ちょっと博隆さんの事をそれとなく話してみたら、次の日から。大事にしてるんだね、誠也さん。お姉ちゃんも驚いてたけど、喜んでたよ。
それで、2週間くらいだったかな。お姉ちゃんがシフトに入っていなかった日。私はいつもの外を確認できるカウンター席を利用していた。暫く待つと、外に博隆さんを確認できた。店内に入ってこないけど、この店を窺っているのは解る。
――いいな、お姉ちゃん。私もあんなふうに見られたい。
溜息を吐いていると、ふと博隆さんと目が合った気がした。気のせい、と思ったが、向こうも慌てたように目を逸らしたのだ。
――今、私を見ていたの? なんで?
不思議に思っていたが、ふと横を見てその疑問は解決した。隣に、男子が居た。調べた限りでは、何時も見かける同じ学校の制服を着た男子。よくよく考えてみれば、私が店内で博隆さんを観察しているといつも隣に居る気がする。この席がお気に入りかなんかなのだろう。カウンター席は椅子が少し離れて固定されているので、隣同士になっている事に気付かなかった、というか気にしなかった。
――あれ、今勘違いされた?
位置からして、私とこの男子が隣り合っているように外からは見えるかもしれない。外から見た私とこの男子、どのように見えるのだろうか。
親しい関係――恋人関係のように見えたのではないだろうか。
――これだ、と私は思った。これを、利用すればいい、と。
調べる事が増えた。この男子についても、だ。場合によっては
結論から言うとこの男子――牧田悟君に関しては大丈夫だった。同じ学校の同級生で、ちょっと探ってみたらすぐに分かった。
牧田君は異性に関して、興味が無い――いや、これだとおかしな意味になっちゃうか。もう既に好きな人がいるようで、その他の異性は一切興味が無いようだった。その好きな人――一ノ瀬和希さんもついでに調べてみたが、見ていて微笑ましくもじれったい感じだった。なんか小さい頃からの幼馴染みたいだし、お姉ちゃんと誠也さんを見ているようで、この2人も幸せになって欲しいと思ったよ。お店で見ていた感じだと2人共、凄い楽しそうで。あ、知らない人から見たら男同士かもしれない。一ノ瀬さん可愛いのに、いっつもジャージなんだもん。
一ノ瀬さんもあの店を利用していたが、毎日ではなく特定の日のみ。その一ノ瀬さんが居ない日は、お姉ちゃんのシフトが入っていない日でもあった。流石に変装したとしても、お姉ちゃんにはわかっちゃうかもしれないし。ここまで来るともう神様が私の味方をしているんじゃないか、なんて思ったりもした。
博隆さんの観察から変わった私の行動。わざわざ恋人同士に見える様に、色々やった。大体牧田君が先に席を立つから、その後を目で追う様に見せたり、時には少し遅れて私も席を立ったり、牧田君に気付かれない様にちらちらと視線を送ったり……外から見ても私達は恋人同士に見えたんじゃないだろうか? 変装した私の見た目から、大人しめの性格っていう子の設定で。牧田君も私の存在は解っていただろうが、別に話しかけてくるような
そんな私の行動が、報われるのにそう時間はかからなかった。その日、偶々牧田君が何か用事でもあったのか帰るのが早かったのだ。私は博隆さんの観察もあったので、少し店に残ってから帰る事にしたのだ。
「ねぇ君、この店によく彼氏といるよね?」
笑みを浮かべた博隆さんが、店を出た私に声をかけてきたのだ。
「ふぇ? え、は、はいっ!」
唐突の事で、変な声が出た。今思い出しても、アレは恥ずかしい……でもしょうがないじゃない。ずっと好きな人に、初めて異性を見る目で見られたのだから。
警戒させないような笑みを浮かべているけど、解る。博隆さんが私をイヤらしい目で見ている事に。もう嬉しくて、失神するかと思った。そういう目で、やっと見てくれたのだ、と。
今すぐにでも押し倒してしまいそうな気持ちをぐっと堪えて、博隆さんと話す。夢のような一時だった。
流石にすぐ手を出すようなことは無かったけど、何度か声をかけられるようになり、何度目だったろうか。ホテルへ連れ込まれることになった。
牧田君との身体の関係を聞かれて「ない」と
――その後、私は博隆さんに初めてを奪われた。
涙が出た。嬉しくて嬉しくて。ずっと捧げたいと思っていた相手に、奪ってもらえたのだから。
博隆さんはその涙の意味を知らないと思う。多分、罪悪感からのものだろうと思っているはず。全然違うのにね。でも教えてあげない。
その後連絡先を交換し、何度か呼び出されて私は全てに応じた。その何度目の後か、愛してくれた後に博隆さんはこう言った。「俺の女になれ」って。即答を我慢するのに苦労したよ。「もう既に貴方のモノです!」とか言いそうになったよ。
ただちょっと困った事に。牧田君に、寝取った宣言をすると博隆さんは言い出したのだ。これはまぁ、割とあった話だし、牧田君なら
問題は、その宣言をする日がお姉ちゃんのシフトが入っている日だったのだ。
私が変装している事がもしばれたら面倒な事になる。だから、お姉ちゃんにはちょっと用事を入れさせてもらってバイトを休んでもらう事にした。
後ついでに一ノ瀬さんの背中を押す事にした。牧田君は気付いていないけど、ちょっとお手伝いしてもらったから、私もちょっとしたお節介ってやつをプレゼント。
――博隆さんの宣言は、私が思った通りになった。牧田君は戸惑って
ああ、そうだ。ちょっとしたお節介の件に関しては後日、一ノ瀬さんから御礼された。どうやら無事結ばれたようで、良かった良かった。顔を真っ赤にして牧田君の事話す一ノ瀬さんは魅力的で可愛かった。牧田君は見る目あるね。私が言うのも何だけど、この2人に変な邪魔が入らない事を祈っておく。
――と、まぁ。色々あって私の初恋は無事成就する事となった――いや、まだ成就しきったとは言い難いか。
私はまだ、牧田君に心が残っているように演じている。身も心も博隆さんのモノになってしまうには、まだ早い。他のカップルを見つけてしまえばそちらに目を向けてしまう。何かの拍子で博隆さんがお姉ちゃんや一ノ瀬さんを見つけてしまっては、そっちに行ってしまう可能性がまだ残っている。
これからだ。博隆さんが、私から離れられなくなってからが、本当の成就だ。
さて、どうしようか。博隆さんが知らない内に私にズブズブと溺れていってくれるのが理想だ。妊娠は……最後の手段か。
そんな事を考えると、博隆さんから連絡が来ていた事に気付いた。内容は、また私
「ふっふふ、うふふ……」
思わず、笑い声が漏れた。
もう10年以上の時間を想いつづけて来たんだ。博隆さんが私のモノになるまでかかるのは、もっと短いはず。
「愛してますよ、博隆さん……」
いつか訪れるであろう、愛する人と本当に結ばれる事を夢想し、私は呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます