教師をしていた補助魔法士は学園を追放されましたが、どういう訳か教え子の公爵令嬢たちが着いてきました~彼女たちと冒険者パーティーを結成したので毎日幸せです~

紫水肇

第1話 クビになる!

「レオン君、キミは明日からクビだ。せいぜい今日の授業を楽しんできたまえ」


「なっ! クビとはどういうことですか!」


 突然沸き起こった理不尽な要求に思わず抗議する。僕の名前はレオン・マーシャス。

 軍事魔法学校であるこのサンタリア学園で補助魔法士として教師をしている。


 補助魔法とはバフをかけることによって味方を強化できる魔法のことだ。


 いつも通りに出勤した僕は校長から呼び出された。何事かと思い、校長室に入っていったところ、冒頭のように仕事をクビにするぞと宣告されたのだ。


 一瞬自分がなにを言われたのか分からなかったけれども、当然僕は抗議する。当たり前だ。なんの前触れもなくいきなりクビにされるなんてどう考えてもおかしい。


 校長は机の上で腕を組む。


「レオン君もこの学園の経営状態が悪化していることは知っているだろう?」


 そんなことは一介の教師である僕も知っている。ここは軍事魔法学校と呼ばれるだけあって兵士や冒険者など、戦闘に特化した魔法士の育成に特化している。


 ところが、近年は王国と周辺諸国の関係が良好になり、大規模な戦争は発生していない。そればかりか、500年に1度起きると言われている魔物の大量発生スタンピードが20年前に終結したことによって魔物の活動も穏やかだ。


 平和なことはいいことなのだけれど、おかげさまでわざわざ危険な戦闘職に就きたいと考える若者の数は減っていた。


 差し迫った脅威がないため、王国や領主たちが戦闘職の人間に払う給料を減らしているのだ。そんな状態であるから、近年では錬金術など技術職を目指す魔法士が増えている。


 なので戦闘職を育成するサンタリア学園の入学者は減っており、学園の財政もかんばしくないのだ。


 それは理解している。


「しかし、私がクビになる理由が分かりません。無駄な出費を控えれば赤字を解消することは容易でしょうに」


「ほう、君は自分がその無駄な出費に含まれていることに気づいていないようだな」


 校長は眉間にシワをよせた。


「いいかね、補助魔法士など戦闘においては所詮脇役にすぎん。だからこそ、補助魔法をこの学園で学んでいる学生はいまやたったの3人しか居らん。そんな不人気な学科など、さっさと廃止してしまうのは当然のことだ! 異論はあるかね?」


「うっ……」


 これは事実だ。魔法士の花形である魔剣士や、遠距離から比較的安全に攻撃をおこなう狙撃魔法士と比べると補助魔法士は地味だ。


 おまけに前衛職ににバフをかけるには彼らと同じ前線まで足を運ばなければならない。なので補助魔法士の死亡率は高い。


 危険な上に地味な補助魔法士を目指す人が少ないのは当然のことであるといえた。


「ですが、今いる3人の学生たちはどうなってしまうのですか?」


 この際、自分がどうなってしまうのかはどうでも良い。だけれど不人気な科目を選択してしまったことで教え子たちが不利益を被るのは許せないことだ。


 彼らの成績に影響するようなら、どんな手段を使ってでも何とかしたい。レオンはそう考える。


「安心せい、彼女らの専攻はそれぞれ魔剣学、狙撃魔法学、白魔法学じゃないか。必修ではない補助魔法学が廃止されたところで大して困らんだろうよ。おまけに前期に受講した補助魔法の単位は彼女らに付与される。更に後期には補助魔法学の授業が廃止された分、特例として他の楽な授業に彼女らを参加させる予定だ。これでもまだ不満をいうかね?」


「いいえ、分かりました。私は退職させていただきます。これまでありがとうございました」


「うむ。これまでご苦労だったな。それでは最後の授業を行ってきたまえ」


「はい」


 僕は肩を落としながら校長室を去った。


 ◆❖◇◇❖◆


「――というわけでみんなすまん! 補助魔法学は今日で最後なんだ」


 机の上に両手をつき、深深と頭を下げて謝罪する。生徒たちには申し訳ないが、今の僕にはこれくらいしかできなかった。


「あらら、先生も大変だね〜」


 ゆったりとした話し方の生徒に慰められる。彼女の名前はエマ。クリーム色の髪をストレートに伸ばした黒目の白魔法士だ。緑色のローブを身にまとっている。


「うん、居なくなってしまうのは寂しい」


 淡々とした口調のクラリッサも相づちを打つ。彼女は透き通るような水色の髪をした金眼の狙撃魔法士だ。白銀のレザーアーマーに身を包んでいる。


「僕もこのような結果になってしまいとても残念だ。だけど、もうこれは決まってしまったことだからどうしようも――」


「…………いかない」


「えっ?」


「納得いかないわよそんなの!」


 つややかな赤髪をセミロングにし、黒いゴスロリ風のバトルドレスを身にまとった少女が大声を上げて立ち上がる。


 彼女の名前はミア。ランバルト公爵家の3女である。どこかあどけなさの残る顔つきだが、代々多くの魔剣士を排出してきたランバルト家の人間だけあって目付きはまるで猛禽類もうきんるいのように鋭い。


 そんな彼女がルビーのように透き通った赤い瞳をこちらに向けてくる。


「どうしてあなたがクビにならなきゃいけないのよ!」

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