英雄が世界を変える

NOTTI

第1話:大人になったよ ①

都内某所、今日はある会社の入社式が行われている。


時間になり、司会者が「これから2022年度入社式を始めます」とアナウンスした。


 すると、今年度の新入社員300人が入場してきた。


 新入社員は緊張した面持ちで、1人1人がこれから始まる新社会人としての1歩を踏み出した。


 その新入社員の中に死の淵から復活した男性がいた。


 その男性の名は“片淵太一”というすらっと背が高く、笑顔が素敵な人だ。


 彼は未熟児で生まれたため、生まれつき身体の筋肉が十分に発達せず、なかなか身体が大きくならなかった。


 また、肺などの呼吸器などの臓器類も発達が遅く、生後2ヶ月まで人工呼吸器を付けて肺を大きくしたことや母親の母乳を注射器の中に入れて飲ませるなど何とかして彼の命の火を消さないように小児科医や外科の先生たちが奮闘していた。


 今はそんな面影を強く感じない子に育ったが、今でも当時の話を求められると無意識のうちに泣いてしまう事も多い。


 だからこそ、両親は彼がここまで大きく成長し、これから社会人として新しい体験や経験を積み上げることに繋がっていることが奇跡としか思えていなかった。


 そして、この中にもう1人持病で生死をさまよった新入社員がいる。


 その子は“細野瑠里奈”という新入社員の女性の中では小柄で、明るい性格の子だった。


 彼女は生まれつき心臓が弱く、血圧も低かったため、激しい運動をするとすぐに息が上がってしまうことやめまいや貧血を起こして倒れてしまうなど他の子たちと同じ事が出来ない、同じように動けないことが彼女にとっては劣等感に感じていた。


 そのため、友達が出来ても遊ぶのはゲームやショッピングなど運動を伴わないものが多かった。


 しかし、彼女の周りには彼女の考えに賛同してくれている人が多く、いろいろな場所で友達を作ることが出来ていた。


 ただ、彼女はすぐに貧血を起こすため、保育園や幼稚園の時は友達と遊んでいて、いきなり倒れると他の子も同時にパニックになってしまい、先生たちが対応に追われるという事態に発展することも多かった。


 今でも両親が「彼女を見ているのが辛かった」という出来事があった。


それは、彼女が小学校2年生の春休みに友達の家に遊びに行った帰りだった。


 彼女の家と友達の家は学校の西側と東側だったこともあり、学校の前にある大きな幹線道路を渡らなくてはいけない。


 当時は歩道橋が設置されておらず、横断歩道を自転車で渡るためには自転車を押しながら歩いていかなくてはいけなかった。


 その日は平日の退勤ラッシュと重なったため、多くの人が行き交う交差点の途中でいきなり倒れてしまったのだ。


 すると、周囲の人たちが「大丈夫?」と彼女の元に駆け寄り、学生さんが交差点の所にある交番へ警察官の人を呼びに行き、若い会社員の女性が救急車を呼ぶなど連携して寄り添い、救急車が到着し、彼女を救急車に乗せ、彼女のリュックサックにあった緊急カードに書いてある病院に搬送された。


 その後、彼女の自転車を交番で預かり、両親のところに連絡が行った。


 その連絡を受けて、いつも通っている病院に行くと「娘さん、大事に至らなくて良かったですね。」と処置を担当した医師から言われた。


 両親は訳が分からなかったが、先生の説明で分かったのだ。


 先生は「瑠里奈さんの心臓の弁膜が突然弱ったことで体内に血流も酸素も十分に届かなくなったことが今回倒れた原因だと思います。」と言った。


 先生は続けて「今回は通行人のみなさんの迅速な対応があったことで弁膜の状態が悪化することなく搬送されてきたため、必要な処置が最低限で済み、今は少しずつ安定してきています。」と言った。


 その日は両親だけが家に帰り、帰宅途中に交番で預かっている自転車を引き取った。


 それから15年後、このように社会人として新たな1歩を踏み出せた姿を見た両親はこれまでの苦労が一瞬にして吹き飛んだ。


 この2人を救ってくれたヒーローはたくさんのお医者さんであり、優しい人たちの心だった。

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