第2話

 ※注意!


 主人公はドクズの上イカれているので、間男を苦しめるためなら罪のない人もヤッちゃいます。

 正当性がないと許せない、猟奇的なのはムリ! という方は続きを読まないでください。

 

 西古虎雄君は主人公だけど、

 それは『十三日の金曜日』の主人公がジェイソンって意味合いでの主人公。

 しかも退治されない。









 徳宮涼介。

 高校三年生。市内でも有名な徳宮病院の院長の長男。

 両親と妹が四人家族。

 成績も運動もそこそこだが、親が金持ちで高校に多額の寄付をしているため、教師陣も素行の悪さをある程度見逃している。

 外見も金払いもよいため女子からの人気は高く、複数人と肉体関係を持っている。

 男に対しては見下すような態度をとり、カップルから女を寝取ることが趣味。




 ◆




 翌日、僕は独りで登校した。

 迎えに行ったけれど、彩夏ちゃんはもう家を出ていた。

 

「取り急ぎ調べられたのはこの程度でしょうか。病院と自宅、妹の通う中学の住所はこちらになります」

「ありがとね、響子。引き続いて交友関係も調べてもらえる?」


 昨日の一件の後、まず僕は徳宮涼介について調査を始めた。

 こういうのは響子が得意だ。

 情報はすぐに集まったが、報告書を見ると嫌な気分になる。女を寝取ることが趣味。つまり彩夏ちゃんは徳宮涼介の娯楽で目をつけられたのだろう。

 それなのに簡単になびいてしまった。彼女が憎々しいやら、自分が情けないやら、複雑な気分だった。


「おい、西古! 篠井さんどうしたんだよ?!」


 報告書を受け取ってから教室に行くと、クラスメイトの男子がいきなり食って掛かってきた。


「ど、どうしたの?」

「そんなもん俺が聞きてえよ! 篠井さん、三年の徳宮先輩と一緒に登校してきたぞ! しかも、別れ際にキスまでして! お前ら付き合ってたんじゃなかったのかよ?!」


 僕たちは幼馴染からの恋人だったから、その関係を知っている人は多い。

 それだけに彩夏ちゃんと徳宮涼介が並んで登校する姿は衝撃だったようだ。

 クラスの好奇の視線が集まっているのが感じられた。


「浮気された」

「は?」

「だから、浮気された。僕はもう恋人じゃないんだって」


 今さら隠すことでもないから素直に吐けば、教室は一瞬静かになった。

 その後すぐにざわめき出す。

 嘘だろ? マジかよ……。反応はいろいろ。うるさい、「嘘だろ」だなんて僕が一番言いたいんだ。


「おはよう」


 ちょうどそのタイミングで彩夏ちゃんが教室に入ってきた。

 僕より早く登校したのに今来たのは、きっとギリギリまでアイツと一緒にいたのだろう。


「ね、ねえ彩夏っ! 今日、あの、徳宮先輩と登校してた、よね?」

「うん、そうだよ」

「どうして? いつも、西古と一緒だったのに」


 彩夏ちゃんの友達、名前は確か肉袋……だったっけ。大人っぽい顔立ちで、肉付きのいい女の子だ。

 肉袋さんがおずおずと問うたけれど、答えはあっけらかんとしていた。


「西古くんと別れて、涼介さんと恋人になったの」


 もう隠す気もないらしい。

 彩夏ちゃんはこっちを見もしなかった。


「な、なんで?! 彩夏、西古と仲良かったじゃん! 同じ大学に行くって……なんで、浮気なんてしたの!」

「浮気じゃないよ。ただ、西古くんより涼介さんを好きになっただけ」


 ああ、浮気した事実も誤魔化そうとするんだ?


「だって涼介さんは中身ないけど外見はカッコいいし、勉強も運動もできないけど優しいし頼れるところもあるんだ。それに大病院の委員長の息子で、私を院長夫人にしてくれるんだって。ふふ、自分の頭で医者になれるつもりなんだよ、可愛いでしょ?」

「あんた何言ってんの?! 徳宮先輩の噂知ってるでしょ?!」

「うーん、遊んでるっていうのは聞いてる。でも、もう私一人だけにするって言ってくれたから。恋人だし、カレシのことは信じないとね」


 頬を染め、えへへ、と可愛らしく微笑む。

 それは今まで僕のために浮かべられていた表情だった。


「そりゃあ涼介さんは情けなくて弱いところもあるよ。でもそんなところも魅力だって思うの。あっ、これ彼には内緒にしてね?」


 僕に聞こえていると分かっていて、わざわざそんなことを言う。

 なんだろう。幼い頃から知っているはずだったのに、たった二日で君の知らない一面をたくさん知ってしまったよ。


「虎雄さん……」

「ごめん、響子。早退するから先生に言っておいてくれる?」


 響子が心配そうに僕に声をかける。

 耐えられなくなって、僕は教室から逃げ出した。

 廊下に出ると、もうすぐ授業だというのに何故か徳宮涼介の姿があった。


「よぉ、地味男くんじゃーん」


 にやにやと不愉快な笑みで僕を見下してくる。


「……なにか用ですか」

「ばぁか、お前に用があるわけねえだろ。俺のアヤカと約束するのを忘れてたから来たんだよ。昼にでもどっかの空き教室でヤろうってな」

「……っ!」

 

 そんなのスマホでメッセージを送れば済む。

 なのにわざわざ来たのは、僕を馬鹿にするためだろう。


「いやあ、でも俺も同情してんだぜ? バイトで大変でカノジョとデートする暇もない貧乏人だもんなぁ、地味男くんは。そりゃあ愛想も尽かされるって」

「彩夏ちゃんに、聞いたのかよ」

「不満たらたらだったぜぇ? まあ、お前が貧乏で甲斐性がないからイイ女食えたんだ。これでも感謝してるんだ。ほら、その証拠にお小遣いやるよ」


 そう言って徳宮涼介は百円玉一枚を廊下に放り投げた。


「どぉした、拾えよ負け犬! ひゃっはっはっはっはっはっは!」


 僕は必死に怒りを堪えた。

 殴ることはできる。この男は弱いから簡単に殺せる。

 でもそれじゃあ腹の虫がおさまらない。ちゃんと、ざまぁしてやる。


「彩夏、目ぇ覚ましてよ! あんなクソ男のために西古を捨てるとか、あんたどうしちゃったの?!」


 背後で肉袋さんの叫びが聞こえた。

 でも僕は振り返らず、学校を後にした。


 明言する。

 ここから先は一瞬たりとも徳宮涼介の攻勢はない。

 お前からすべてをはぎ取るまで、ずっと僕のターンだ。




 ◆




 そうして五日が経ち、僕は今、徳宮病院の院長室にいる。

 思ったより準備に時間がかかってしまった。

 僕はあんまり体力がないから雑事をこなしてもらうために組員の中でも趣味の合う人たちについてきてもらった。

 院長室の天井からは首吊り用のロープがだらんと垂れ下がっている。


「や、やめてくれぇ! わ、私がなにをしたって言うんだ?!」


 この人が院長の徳宮泰造(とくみや・たいぞう)。

 つまり弱チャラのパパさんだ。


「え? 涼介っていうクソ息子を作ったじゃないですか。そりゃあ死んで償わないとダメですよ」


 屈強な黒服に抑えられたパパさん。いくらもがいても脱出なんて出来るはずがない。

 とりあえず勉強も運動もそこそこの涼介がモテる理由はお金持ちだということ。

 まずは大病院の院長の息子という肩書から剥ぎ取ろうと思う。

 有り体に言うと、パパさんにはここで首を吊って死んでもらう。


「そ、それだけで?! それだけで私は殺されるのか?! ふざけるなぁ! こんなことをして、警察がすぐにでもくるぞ!」

「あ、大丈夫です。僕、政治家さんとも警察署長さんとも懇意にしてるので」

「……は?」

「ですから、警察署長さん僕の大事な顧客なんです。重度のロリコンで、10歳以下の女の子にしか反応しないから、僕がいっつもお相手を準備してるんですよー」


 しかも好みにもうるさいから結構大変だ。

 それだけに期待にこたえ続けた僕は、署長さんから絶大な信頼を得ている。


「だから警察も最初から今回のことは知っていますよ。というか、病院内の幾名かも事態は把握していて、監視カメラ等の防犯システムもすべて切ってあります。乗っ取らせてあげるっていったら簡単に食いついてくれました」


 まあ、そこは西古組の肩書があってこそだけど。

 多少の悪事には目を瞑っても甘い汁を吸いたい人種はどこにでもいるのだ。


「だいたい悪いことをしたのは院長さんじゃないですか。それなのに、見苦しいですよ」

「そんなっ! 息子が何をしたかは知らないが、アレに責任を取らせればいい話だろう?!」

「そうじゃなくて、病院で人体実験をするなんて非道すぎます」


 僕がそう言うと、院長さんは目を点にした。


「この市ではね、毎年結構な数の失踪者が出るんです。中には臓器や血液がない死体が上がることも……。でも、まさかその犯人が大病院の院長さんだったなんて。この病院で行われた非道な実験の証拠がいくつも出てるんです。中には、首がない状態で犯された女性の死体まで。その罪を隠そうなんて」

「知らない、私は知らない……」


 パパさんは必死に誤魔化そうとする。

 でも僕は追撃を緩めない。


「それに、僕の幼馴染のお父さんも、貴方の実験のせいで死にました。許せませんよ」

「本当にそんなことしてないんだっ! 頼む、話を聞いてくれ!」

「隠された真相を暴いたのはここの副院長さんと、この地区の警察署長さんです。人の道を外れ過ぎた現院長の犯罪を見過ごせず、副院長さんは立ち上がりました。危険だと彼を心配しつつも、市民を守るのが警察だと署長さんも協力したんです。二人の勇敢なる男の手によってあなたの悪行は突き止められたんです」


 視線で合図をすると、黒服がパパさんを担ぎ上げて、首を吊り下がったロープに通した。


「そして逃げられなくなった院長さんは、首を吊って自殺してしまいました。まったく、卑怯です。本来なら裁かれなければいけないのに、死んで逃げるなんて……」


 そこまで言って、パパさんはようやく気付いたようだ。


「副院長が、か? 彼がこの病院を乗っ取るために証拠とやらを偽造したのか! 警察署長とも手を組んで、私に無実の罪を着せて処分しようとしたのか!」


 まあ罪は僕のやったこともあるけど、ちょっとくらいはいいよね。


「もう、往生際が悪いですよ。さ、死んでください」

「いやだぁ! 頑張ってきたんだ! 普通の家庭から医者になって今の地位についてお金を稼ぐまで! ガリ勉だと馬鹿にされても頑張ってきたんだ! それなのに、こんな最後嫌だぁぁぁぁぁぁ!」

「恨むなら息子さんと彩夏ちゃんを恨んでくださいね。せめて、最期まで見ててあげますから」


 そうして黒服たちの手が離れる。

 自重で首が締まり、逃げようと暴れ回るが、腕は黒服に押さえつけられる。

 

「ぁっ、かっふ、く、ぐふ」


 なんかよく分からない声を上げてる。ちょっと楽しそうに見えるから不思議だ。

 もがいてもがいて、それがしばらく続いて、顔色も変わっていく。

 さらに待つとぐったりとなって、今度はおしっこと大きい方も漏らしてしまった。


「おーい、泰造さん? 大丈夫?」

「………………………」


 反応はない。

 うん、どうやらちゃんと死んでくれたようだ。


「悲しいな。涼介さんと彩夏ちゃんのせいで、こんなことになってしまった……」


 寝取られなんて軽く言うけれど、そのせいで失われる命もある。

 僕は現実の不条理さに思わずため息を吐いた。


「さて、と。これで彼は院長の息子の肩書を失った」


 ことを終えた僕は響子にスマホで連絡を取る。


「あ、ごめん。僕だよ。こっちは終わったから、そっちも手筈通りお願いできる?」

『はい、分かりました』


 これで彼のお父さんは死んだ。

 残るママさんと妹は僕の人身売買チームで確保してもらっている。

 とすると、彼が頼れるのは親戚筋か友人かくらい。


「とりあえず今はお友達も親戚も監視に留めといて。もし接触するような気配があったら順次事故に見せかけてやっちゃっといてね。あーでも、母方の親戚は一人攫っといてもらえる? ママさんのご飯準備しなくちゃいけないから」

『すでに手はずは整えています。お父様への報告は?』

「僕からもするけど、そっちの経過もしておいてもらえると嬉しいな」


 こういう時警察と繋がったやくざ屋さんは便利だ。

 犯罪なんて簡単に隠蔽できちゃう。


「さあ、忙しくなるぞ。僕も頑張らなきゃ」


 まず僕所有のビルに監禁している徳宮ママさんと妹ちゃんのご飯の準備だ。


「やっぱり、焼肉かなぁ。タレはお高いのにしてあげないとね」


 今日の晩御飯は焼肉にしよう。

 涼介さんを直接産んだママさんの罪は重い。だから彼女の親戚をさばいて焼肉にして、食べてもらおう。

 誰のお肉か分かるように首から上は壊さないようにしないと。

 妹ちゃんは……罪の度合いはそこまでだしなぁ。かわいそうだけど焼肉じゃなくてデリバリーにしておこうかな。

 お値段ランクは大分下がるけど、チャーハン・ラーメン・から揚げと餃子くらいだね。


 親を殺した程度じゃ逃げられる。

 友達も親戚も皆ダメにして、逃げ場のない状態にしないと。

 徳宮涼介と関わった時点で彼らの命運は尽きたのだ。




 ◆




 夕方のニュースで、あまりにも恐ろしい報道が行われた。

 某市にある徳宮病院に関連する非道な事件についてである。


 院長の徳宮泰造は市民を誘拐し、なんと彼らに対し凄惨な人体実験を繰り返していたのである。

 近年稀にみる大スキャンダルが明るみに出た背景には、副院長である○○氏の尽力があった。

 ○○氏はもともと泰造氏を疑っており、独自に調査をしていた。

 当然泰造氏は妨害の手を打ち、○○氏は追い詰められてしまう。

 しかし彼はこれ以上の被害を見過ごせず、同地区の警察署長の助力もあり、決定的な証拠を掴んだ。

 出てきたのは三年にも及ぶ長い期間行われた、あまりにも残酷な実験の数々。

 この市の失踪事件のほとんどは泰造氏によって引き起こされたものだったのだ。


 証拠を掴まれて、もう逃げ場がないと悟ったのか、泰造氏は首を吊って自殺した。

 傍らには直筆の、全ての罪を認める内容の遺書が残されていた。

 妻の美奈、長男の涼介、妹の麗奈の行方は杳として知れず、情報が求められている。


「な、なんでこんなことに……」


 徳宮涼介は偶然にも自宅に帰っていなかった。

 セフレとヤるように契約してあるマンションにいたおかげで、大量のマスコミから逃れることができたのだ。

 しかし状況が好転するわけではない。

 彼はわずか一週間足らずで自身を支えていた基盤を失った。


「親父が、あんなことを」


 言えばすぐに金を出してくれる上に、何か問題を起こしても揉み消してくれるいい親父だった。

 なのに、今は違う。

 親父は大半の人から非難されるような悪党だった。

 なら、それに頼り切っていた自分は?

 それを考えるのが恐ろしくて、涼介はマンションに引きこもっていた。


 ちょうどその時、インターホンが鳴った


「ひぃっ?!」


 何度も鳴らしているが涼介は出ない。恐ろしくて出られない。

 すると焦れたのか、がちゃがちゃとドアノブを回し始めた。

 鍵がかかっているから大丈夫だ……そう思っていたのに、何故かガチャリと鍵が開く。


「な、なんで?!」


 それでも、チェーンもかけてある。

 しかし鎖が鳴った後、「ブツッ」という断ち切る音が響いて、扉は頼りなく開いてしまった。

 誰かが入ってきた。

 人の気配が近付いてくる。

 涼介は怯えて壁際まで後ずさる。

 そうして侵入者は彼の前に姿を現した。


「せーんぱぁい、あーそびまーしょぉ」


 西古虎雄とかいう地味男は、朗らかな笑顔を浮かべていた。


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