クズチャラ男に幼馴染な恋人を寝取られたけどクズさで僕に勝てると思ってるの?

西基央

第1話


「彩夏ちゃん、一緒に帰ろ?」

「……ごめん、ちょっと用事あるの」

「そ、そうなんだ。じゃあ今度の日曜日、久しぶりにウチに来ない?」

「だから、ごめん。忙しいの。じゃあね」


 最近はいつもだ。

 登校は一緒にだけど、下校や休みの日は全然時間が合わない。

 一人残された僕は溜息をついて学校を後にした。


 僕の名前は西古虎雄(にしふる・とらお)、高校二年生。

 オタク趣味はないけれど学校では目立たない、地味な奴だ。

 そんな僕に自慢があるとすれば、違法取引での収益と、学年でもトップクラスの美少女が恋人だという点だろう。


 篠井彩夏(しのい・あやか)は僕の大切な幼馴染で、誰よりも大切な恋人だった。

 僕の父親は仕事で忙しく組事務所で生活し、母親も別宅で暮らしているから殆ど顔を合わせない。

 彩夏の親も共働きであまり家にはいないようだった。

 家が隣同士だったし、お互い寂しい思いをしていたから、僕達はすぐに仲良くなった。


『トラちゃん。あそぼ』

『うん、あやかちゃん』


 幼い僕たちはいつもいっしょだった。

 小学生も高学年になると、男女の仲をからかうヤツも出てくる。

 でも僕は「うん、僕は彩夏ちゃんが大切だよ。それがどうしたの?」と、決して傍を離れなかった。

 それは彩夏ちゃんも同じだった。


『恥ずかしくなんてないよ。だって、トラちゃんは私にとって一番大切な人だもん』


 僕はそれがすごく嬉しかった。

 中学生に上がると、やっぱり異性を意識してしまう。

 彩夏ちゃんはすごく可愛いから人気が高く、親しくなりたいって男子はいっぱいいた。

 ちょうど中学一年の終わりくらいだ。僕がお小遣い稼ぎに人身売買を始めたせいで、少し二人の距離が離れた時期があった。

 それを好機とばかりに彩夏ちゃんに告白する奴まで出てきてしまった。


 そうなって僕は初めて気づいた。

 彩夏ちゃんの隣に他の男が立つなんて嫌だ。僕の好きは友達や幼馴染、商品や肉奴隷に向ける好きじゃない。

 僕は彩夏ちゃんが女の子として好きなんだ


『僕は……僕は彩夏ちゃんが好きです! えと、どうか、付き合ってください!』

『……トラちゃん。嬉しい、私もね? ずっとトラちゃんが好きだったの』


 ああ、彼女の言葉がどれだけ嬉しかったことか。

 こうして僕たちは恋人同士になり、同じ高校に進学。

 これからも二人はずっと一緒だと思っていた。

 なのに……。




 ◆




「虎雄さん、帰らないのですか?」


 彩夏ちゃんに断られて呆然としてしまっていたらしい。

 僕は声をかけられて、ようやく意識を取り戻した。 


「響子。いや、うん、帰るよ」

「でしたらご一緒させてください。今日はお仕事の方は?」

「暇になっちゃったから、現場に顔くらいだそうかな」


 風祭響子(かざまつり・きょうこ)はクラスメイトの、長身スレンダーなキレイ系の女子だ。

 性格的にはクールな感じだから友達は少ないみたい。モテてはいるみたいだけど。

 何でこんな美人さんが僕みたいな地味な奴と親しいかというと、実は仕事の同僚……というか僕の補佐役みたいなことをしてくれているのだ。

 もともとはお父さんの紹介で知り合った。

 債権者から借金のカタとして奪った娘で、初めは僕の玩具にするつもりだったみたい。

 でも僕はもう彩夏ちゃんと付き合っていたし、響子は頭もよかったから仕事を手伝ってもらうことにした。

 今では相棒、みたいな感じになれたと思っている。

 

「では、一緒に行きますか?」

「あ、本屋によりたいから先に事務所行っててもらえる?」


 恋人がいるから女子と二人での下校は気を遣う。

 一応時間をずらしてから職場に向かうことにした。

 欲しい本があるっていうのも本当で、僕は商店街に足を運んだ。


「えーっと、あった」


 本屋に寄った僕は漫画の新刊を購入した。

 超能力で戦うバトル物で、彩夏ちゃんもはまってるやつだ。

 これをきっかけにまた誘ってみようかな、なんて考えながら店を出ると、商店街の脇を歩く彩夏ちゃんの姿を見つけた。


「あやかちゃ……」


 でも、声をかけられなかった。

 だって彩夏ちゃんの隣には、茶髪で背の高い男性がいたからだ。

思わず僕は隠れて彼女達の後をつけた。

男の方はうちの高校の制服を着ている。たぶん、三年生だろう。

 チャラそうだけどイケメンな感じで、女性相手にも手慣れている印象を受けた。


「でさぁ、俺のダチが……」

「ふふ。もう、涼介さんってば」


 彩夏ちゃんは楽しそうに笑っている。

 嫌がっているのに無理やり付き合わされた訳ではないと分かってしまう。

 それだけに僕の胸は締め付けられた。

 ねえ、彩夏ちゃん。用事って、その男の人と会うことだったの?

 日曜日に忙しいのは、涼介さんと一緒にいるから?

 耐えられなくなった僕は思わず飛び出していた。


「彩夏ちゃんっ!」


 二人は驚いて振り返る。 

 

「と、トラちゃん……?」


 彩夏ちゃんは見るからに動揺していた。

 そんな彼女を隠す様に、ずいと涼介が前に出てくる。


「ああ? なにオマエ」


 チャラついた格好で筋肉も薄い。

暴力には慣れていないようで、凄んでもあまり迫力はなかった。

 

「彩夏ちゃん、用事ってこれ?」

「……その、あの」


 涼介を無視して問い詰めても答えは返ってこない。

 てめえっ! とかイキリ立って胸ぐらをつかんできたから、手首をひねってやった。

 すると「い、いてえ?!」とか言って簡単に離れた。


「トラちゃん、暴力はダメだよ!」

「どう見てもされようとしたの僕だけどね?」


 なのに、彼女はキッと僕を睨む。

 どうして、そいつの方を庇うの?


「はっ、はは。そうかお前、アヤカの恋人の地味男か」


 軟弱チャラ男は勝ち誇るように口の端を吊り上げる。


「悪いなぁ? こいつ、俺が食っちまった」


 そう言って彩夏ちゃんの肩に腕を回し、弱チャラは彼女の大きな胸を揉みしだいた。


「ん……」

「おまえっ!」

「や、やめて、トラちゃん! 涼介さんは外見だけで中身ないから喧嘩ゴミみたいに弱いの! 殴ったら私許さないから!」


 胸を揉まれているのに抵抗せず僕を責める。


「どうして、そんなやつを……」

「高校になってから、トラちゃん忙しくてあんまりデートできなかったじゃない。そんな時に涼介さんが、色々と慰めてくれて」


 なんだよ、それ。

 寂しかったからっていうのか。君は、僕が寂しくなかったとでも思っているのか。 


「それに、涼介さん病院の院長の長男さんなの。大学に行けないかもって悩んでたら、それも助けてくれるって言ってくれたの」

「なんで…僕に相談してくれなかったの……?」

「だって、トラちゃんには、頼れないよ」

  

 どうして。

 君が望むなら、二人三人と女をさらって適当に売り飛ばしたのに。


「お前じゃ頼りにならねえってよ、なっさけねぇなぁ! もうお前の恋人は俺のもんだって認めろ、クソ雑魚くん! お前みたいなやつのチ〇ポじゃ小さくて満足できないってよ!」

「涼介さん、大きさだと涼介さんの方が小さいです。半分くらいでしたし、テクニックも、その……」

「う、うるせぇなっ!」


 何で大きさを知ってるんだよ。

 そいつと、寝たのかよ。僕は目の前が真っ暗になるのを感じた。


「ともかく、こいつはもう俺のオンナだっ。根暗クソ雑魚はもう近寄んなよ!」

「……ねえ、彩夏ちゃん。そうなの? 僕はもう、君の恋人じゃないの?」


 彼女は視線をそらしてしまう。

 答えは返ってこなかった。

 それが何よりも雄弁な答えだった。


「ったく、時間とらせやがって。おい、さっさとホテル行こうぜ」

「はい、涼介さん」


 最後に見えた微笑みの意味を僕は知っている。

 幼馴染で恋人で、誰よりも傍に居たから分かってしまう。

 彩夏ちゃんの目にはしっかりとした熱情の色があった。




 ◆




 確かに高校になってから、僕はあまりデートに誘えていなかった。

 でもそれは彼女のために仕方ないことだったのに。


 彩夏ちゃんには父親がいない。

 中学三年生の頃、仕事で忙しいと言いながら隠れて浮気をしていた父親はそのまま失踪した。

 彩夏ちゃんの母親は悲しまなかった。

 たぶん浮気に気付いていたんだろう。いなくなって清々した、唯一の無念は慰謝料を取れなかったことくらいだと語っていた。

 彩夏ちゃんも、浮気するなんて最低だと怒っていた。


 この一件に関して、僕には少しだけ負い目があった。

 彼女の父親が浮気していたのは本当だし、愛人に夫婦共同の貯金を貢いでいた最低の男だというのは事実だ。

 でも失踪に関しては僕が関わっている。

 もちろん悪気があったわけではないけれど、責任の一端は僕にあった。

 

僕の父親は広域暴力団・西古組の組長で、僕はそれをいずれ継ぐことになる。

 その研修として新しいシノギの開拓を求められた。

 そこで僕は中学二年生の頃から、自分のお小遣い稼ぎも兼ねて人身売買を始めた。

 字面は悪いけど、そこまでひどいことはしていない 

せいぜい女性をさらって調教し有力者の情婦や肉奴隷として売るとか、容姿が悪い男の臓器と血液を売る程度の軽めの違法取引だ。

嫌がる女の子は薬漬けにして辛くないよう配慮もしている。

 当時はもう彩夏ちゃんと付き合ってたから商品にも手を出していないし、自分で言うのもなんだけど結構誠実な仕事ぶりだったと思う。


 で、仕事を始めてから一年、当時中学三年生だった僕は課金ゲーに凝っていた。

 そのせいで懐が寂しく、そんな時に彩夏パパさんと顔を合わせた。

 この人は今まで散々彩夏ちゃんを放っておいて、浮気だってしてるくせにいきなり父親面して「お前みたいな馬の骨にうちの娘はやらん!」なんて言ってきた。

 だから僕もイライラして、そのまま彩夏パパをさらって業者に流した。

 あんまり高く売れそうにないけど、課金分くらいにはなるかなーと思った。 


 僕ははっきり言うとこの人が嫌いだった。

 だって、あんなにやさしいママさんを裏切って、彩夏ちゃんを傷つけたクソみたいな男だ。

 少しくらいひどい目に合わないと割に合わないじゃないか。


『あっぐあ、はぐはひゃあ、もう、やへてぇ、くだはぁい……』


 だから僕は臓器を抜いた後、ある程度血液は残してパパさんにお仕置きすることにした。

 まぶたを切除し瞬きできないようにしてから頭部を固定して、仕事場のみんなで眼球ダーツ大会を開催。

 眼球ダーツは読んで字のごとく、ダーツを投げてパパさんの眼球の中心に当たったら勝ちの単純なゲームだ。

 賞金一万円分を付けたら大盛り上がり!

 こぞってパパさんの顔にダーツを投げた。僕は下手で全然眼球に刺さらなくて、十回くらい違うところに突き刺さって皆に笑われたっけ。

 優勝は響子。彼女は五投して全部眼球に刺さるっていうすごい腕前だった。

 賞金で何するのって聞いたら「ピザを頼んでみんなも食べましょう」って返されて、ほっこりしたのをよく覚えている。

 大した稼ぎにはならなかったけどパパさんの臓器も売れ、おかげでピックアップSSRが当たったからこれはこれでよかったのかもしれない。

 でも、彩夏ちゃんはやっぱり辛い思いをしているようだった。


『本当、パパ最低。家の貯金、ほとんど愛人に貢いでたんだって……』

『そっか……辛いね』

『私、高校に行けないかも……』


 あるはずの貯金が無くなり、稼ぎ手も一人亡くなり、彩夏ちゃんの生活は困窮していった。

 本当に彼女の父親は迷惑をかけてばっかりだ。

 だから僕は早急に愛人だったという女を探しだして売り飛ばす。

 その代金を彩夏ちゃんには内緒でママさんに渡した。


『虎雄君、これは……』

『僕、実はアルバイトというか、ちょっと仕事をしてて。それなりに稼ぎがあるんです』

『でも』

『彩夏ちゃんも、ママさんも、僕には大切な人なんです。だからどうか、援助させてください』


 お金を払う方が土下座で頼み込む、すごく奇妙な光景だった。

 さんざんお願いして、ようやく折れたママさんは渋々ながらに受け取ってくれた。


『ごめんなさい、虎雄君。あなたにまで、迷惑をかけて』

『そんな、迷惑だなんて! それにほら、将来結婚したら家にお金を入れるのは普通かなー、なんて。あはは』

『ふふ、そう、ね。じゃあ義息子の、優しさに、甘えようかしら』


 ママさんは泣きながら、それでもぎこちなく笑ってくれた。

 茶化した言い方をしたけど本気だった。

 いつか彩夏ちゃんと結婚して家族になれたらって、僕はそう思っていた。




 ◆




 弱チャラと彩夏ちゃんが去っても僕は動けず、ただ商店街の脇で立ち尽くしていた。

 デートの回数が減ったのは援助するためだ。

 高校生になったら出費が増えるから、苦労しないように金額を大きくしようと思った。

 そのためにロリコン警察署長にわからせ用未調教幼女を売ったり、猟奇趣味の政治家に首なしホカホカ死体姦向けオナホールを宛がったり、色々仕事を頑張った。

 そうやって稼いだお金で、彩夏ちゃんは浮気をしていたんだね。


「ははっ、ぼく、バカみたいだ……」

 

 本当に好きだったのに。

 君との未来を願っていたのに、こんなに簡単に僕達の積み上げてきた時間は崩れ去ってしまった。

 僕は涙を流しながら、見えなくなった君の背中に視線を送る。


「ああ、そうだ。確かこういう時は」


 小説なんかでも定番だ。

 恋人を寝取られた情けない男は、間男や元恋人に対して“ざまぁ”を仕掛けるのだ。

 無様な僕も、それに習おうじゃないか。


「まずは、涼介さん、だったな。頑張って、ざまぁするからね」


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