“しょぼさ”の果ての--邪悪

これは教育の敗北か政治の失敗か

あるいは国民性の問題か

はたまたインターネットの欠点か

いやいや、そんな御大層なものではない

それは“しょぼさ”の果ての--邪悪


自分が恵まれている、なんて思わない

自分がたまたま幸運だっただけ、なんて思わない

だって自己責任だもの

だから、“うまくいってる”のは自分の功績


いつかどこかで間違えるかも、とは、本気では思っていない

自分も駄目になる危険性を持っている、とは、本気では思っていない

だって自分次第だもの

だから、何があっても努力で解決

…が、できると思っている


しかしその一方で己の人生を波乱万丈だと思う

そして自分は弱者の側の人間だと思っている

それなら今まさに何かに困っている人を助ければ

巡り巡って自分の悩みも解決されるはずなのだが

あなたには“困っている人を助ける”という概念が、ない

だって自己責任だから


でもま当たり前

誰だって何かを抱えてるもので

この世に真に恵まれた運のいい人間なんていやしないもの

だって誰もが--

“なんかあいつマジムカつく!”みたいな悩みを抱えてるから


それはしょぼく、あまりにもしょぼい闇

世界中のありとあらゆる問題は人間の持つ闇が原因で

だがそれが圧倒的存在感のあるものである必然性はないんだ

だって僕ら人間はみんな薄っぺら

薄っぺらなものから生まれ出ずるものなんて薄っぺらなものでしかあり得ない

そして、その“しょぼさ”の果てに--邪悪がある


誰もが何かを抱えてるわけだから

持てる者は持たざる者を救うなんて思うわけがなく

あるいは、思ってはいるけど余裕がない、とか

別に積極的な意志のもとほっといてるわけじゃなくて

誰もが何かを抱えてるわけだから

だが、そこに拒絶が生まれたことには変わらない


スタート・ラインがそもそも違う

生まれつき他人に迷惑をかけざるを得ない人がいる

他人に迷惑をかけることを悪いことだと思ってる

ゆえに彼は悪人になる

あなたにとって


世の中お互い様なんだけど

あなたは自分が彼に救われていることに気づかない

どうしてスロープが存在するのか?

別に“人々の優しさによって”と誤解したって構わない

つまり、あなたは自分が優しくない人間であることは認めるね


これは教育の敗北か政治の失敗か

あるいは国民性の問題か

はたまたインターネットの欠点か

いやいや、そんな御大層なものではない

それは“しょぼさ”の果ての--邪悪


誰もが何かを抱えてる

誰もが何かを悩んでる

それはつまらない怒り、ささやかな哀しみ、ちっぽけな憎しみ、

わずかばかりの苦しみ、大したことのない絶望


絶体絶命の肉体的苦痛の中でも

人は看護師の些細な失敗にイラつくし

戦争の真っ最中であっても

靴擦れの違和感が気になるものだ


それはしょぼく、あまりにもしょぼい闇

世界中のありとあらゆる問題は人間の持つ闇が原因で

だがそれが圧倒的存在感のあるものである必然性はないんだ

だって僕ら人間はみんな薄っぺら

薄っぺらなものから生まれ出ずるものなんて薄っぺらなものでしかあり得ない

そして、その“しょぼさ”の果てに--邪悪がある


けれど人を救うにも技術が要る、訓練が要る

それもまた事実

だから、世界は平和にならない


ちょっとしたすれ違いが

取り返しの付かない失敗に繋がり

そして人は死ぬ

そして、それはとてつもなく穏やかな世界の終わり

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