第1話「最下級兵士が王になる」

「どこまで向かえばいいんだ? ソルド」 

 

 黒崎は少し、おののくほどの風の抵抗を感じた。


「分からない、ただこれから俺たちは、死ぬだろう……」


 黒崎は決意を固めたような顔で、小さく拳を上に突き上げた。


「俺たちは、最下級兵士だ……。だから、これから大軍勢に押しつぶされて”水たまりのような血”だけしか残らないだろう」


 ソルドは、鼻にしわをよせて、咳払いをした。黒崎は続けた。



「だから俺たちだけでも独立して軍を発足しよう」



 黒崎はまるで空気が満タンのボールを、地面に思い切りたたきつけたような弾んだ声だった。


 ソルドは頭をかき回した。


「まあ、どうせすぐに昇天するんだから、そういうことをしてみても悪くないかもな」


「そうと決まればこの家畜勢から抜け出すぞ」


「おいおい、それは本当かい!?」と同じ最下級兵士であるシュワンが食いついてきた。


 ソルドは、深い溜息をつきながらゆっくりと目を閉じた。


 

 黒崎は息切れしながらシュワンに軍を発足することを伝えた。


 シュワンはゴクリと唾を飲み込んで、一段と甲高い声で言った。



「おめぇら、ここで死にてぇか?どうせ死ぬならよ~、軍を作って俺らの戦場の中で死のうぜー」



 ソルドは、今にもになり、どっと嘔吐感が押し寄せてきた。


 しかし、他の最下級兵士は、目を輝かせながら周りの兵士たちとアイコンタクトを交わした。


 この群集を率いている中級兵士は立ち止まり、剣の柄に手をかけ、後ろを振り向き、こわばった視線や表情を最下級兵士らに向けた。



 黒崎は胸を張って、今にも耳がちぎれそうなくらい大声で言った。



「貴様ら~、この俺についてこい、俺は闇の能力の持ち主だ 」


 そして、黒崎は後ろに目をやらず、全力疾走で逃げた。



「ハァー、ハァー、ハァー……」


 立ち止まり、ふと後ろを見てみるとソルド、シュワンや他の最下級兵士らがついてきているではないか!!


 ソルドは大きな息を吸い込み、言葉を発した。「おい、黒崎、お前が俺たちの王だ。皆もそれでいいな?」


 他の最下級兵士らは、軽くうなずいた。


 黒崎は首をかしげて、ソルドの腕をつかみ「なぜお前らは、俺についてこようと思い、俺を王に立てた?」


 シュワンは、やれやれという表情で、「お前は、ゲルヴォン主|(あるじ)にはない闇の能力を持っている。だから唯一の力を持つお前にかけてみようと思ったんだ。まあ今は体力を消耗するだけの使えない能力だがな」と言った。


 ソルドはシュワンの話しを遮って言った。「王に選ばれた理由は、人を動かす資質があるからだろう」と。


「そうか……しかし、中級兵士は追ってこないな……」

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