何十年経っても幼馴染の君は私のヒーロー

佐倉涼@10/30もふペコ料理人発売

第1話


「泣くなよ。ほら、俺のチョコやるから」


 そう言って君は、うずくまって泣いている私にポケットから取り出したチョコをくれた。

 

「ありがとう」


「おう」


 もらったチョコの包みを開いて口に運ぶと、甘い味が広がる。その味に思わず笑みを漏らすと、君も笑ってくれた。


「嫌なことがあったら、俺に言えよ!」


「うん」


 力強い言葉にどれだけ助けられたのか、君は知っているのかな。

 隣に住む君は小学校、中学、高校と同じ学校に進んで、大学で別々の道を行き。それでも困った時はいつでも話を聞いてくれた。

 泣き虫な私の一番近くにいて、励ましてくれたり、笑わせてくれたり、時には怒ってくれたり。

 いつでも、私のヒーローだった。

 


 そして今ではーー。


「泣かない泣かない。ほら、チョコ一個だけあげるから」


 小さな娘の手のひらに、包装紙を解いたチョコを一つ握らせてから抱き上げた。


「パパ、ありがとう」


「うん。ママに怒られるから一個だけだよ」


「うんっ」


 チョコを頬張る娘の顔は先ほどの泣き顔から一転して、ニコニコしている。

 振り向いたあなたは、後ろにいた私の顔を見て眉を少しだけ下げて言った。


「どうしても泣き止まなくて……」


 「おやつで釣らない」と口を酸っぱくして言っている私の言葉を思い出して少しバツの悪そうな顔をしている。私は苦笑してから小さく首を横に振った。

 隣に移動して、横を歩く。

 あなたは器用に片手で娘を抱っこすると、もう片方の手で私の手を握った。


「チョコ、いつも持ち歩いてるの?」


「うん? だってこれ、君も好きだろ?」


 言ってくしゃくしゃになった包装紙を見せる。透明な、ありふれた一口サイズの小さなチョコの包み紙。

 私は片眉を少し釣り上げてからあなたに言った。


「わかってないなぁ」


「何が?」


 困惑する顔を見ながら、言う。


「私が好きなのは、チョコじゃなくて……」


 その時娘があなたの首にしがみついて、満面の笑顔で言った。


「パパ。だーいすき!」


「よしよし、パパも大好きだよ」


 娘をそっと抱きしめながら言うあなたの横顔を見て、心の中でつぶやいた。


ーーーー私が好きなのはチョコじゃなくて、あなたのその優しさだよ。


 ごくありふれた普通の日常に、小さくてかけがえのない幸せを与え続けてくれるあなた。

 私だけのヒーローは今、娘にとってのヒーローにもなっている。

 ずっとずっとこれからもこの先も。

 あなたは私たちのヒーローだよ。

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何十年経っても幼馴染の君は私のヒーロー 佐倉涼@10/30もふペコ料理人発売 @sakura_ryou

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