連なる世界

燐裕嗣

旅立ち


 人も森も、全てのものが眠りについて闇と無音が広がる中、手元の小さな灯だけで夜道を進む人間が一人。しばらく歩くと少し開けた場所に出た。

 月は無い。手元の光が消えて、星明かりだけが光源になる。

 星降る小さな広場に出て照らし出された姿は、暗い中でも分かる明るい髪色。エメラルドの瞳。

 緩い空気を纏った人物は、ポケットの中からガラスの小瓶を取り出した。一見空のようだが、軽く揺らすと何かちらちらと光るものが見える。

 栓を抜き、中身を周囲に撒くと、足元が淡く輝きを放つ。


「《三つの太陽、二つの月

 閉ざされた匣、開かれた扇

 空は誘(いざな)う、繋がれた世界》」


 唄が進につれて、足元の光が強まる。

 鍵の束を取り出してさらに続ける。


「《我が旅は鍵と共に》」


 光はやがて扉の形をとった。壁とも思えるほど大きな扉だ。

 一本の鍵を扉へと向ける。


「《開け》」


 巨大な扉がゆっくりと開かれ、向こう側からは知らない風の匂いがする。

 風に髪を揺らしながら鍵を降ろし、私の方を見た。

「行くよ」

 静かに告げて歩き出す。

 私も後を追って扉をくぐった。


 扉は静かに閉じられ、光に還る。


 これは、一人と一匹の旅物語。


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