お寺の中

「では、ワシは汝らと住む精霊を呼んでくる。その間にこの家の中を見ておくとよい。道具の位置も確認しておくのじゃ。ではの」

「えっ、ちょっと」


 おじいちゃんはそれだけ言うと去って行ってしまった。突っ込む時間まで与えてくれなかった。ここは寺じゃなくて家だったのか。


「行っちゃったね」

「そうだね、私達は家の中見て回ればいいのかな」

「おじいちゃんはそう言っていたね。行こっか」


 アレクシアは左手を私に差し出してくる。私は右手を出して手を繋ぎ、一緒に家の中を見て回った。家の中はやっぱりお寺みたいな内装だった。縁側から外に出ると広い庭が広がっている。庭には盆栽が植えられていた。他には井戸もある。木のバケツがあるので水は井戸からとるのだろう。試しにやってみたちゃんと水がとれた。見た目はきれいだが飲めるかは分からないので後でおじいちゃんに聞こう。

 庭から戻って次に見つけたのはお風呂場だ。私達なら泳げそうなくらい広い。大人数で共同生活をするために作られた家のようだ。お風呂場から出た私達は次に台所を見つけた。こっちもとても広い。大きい食堂の厨房くらいの広さがある。私たちが使うのは一部分だけだろう。


「ボク達ここで料理するんだよね」

「うん、そうだね」

「台所届かないよ?」

「あ、ホントだ」


 ここの家もやはり家事は大人がするように建てられているので、私達の身長ではまともに家事も出来ないのだ。


「台作るか」


 私は錬金術で台をいくつか作り、床全体を埋め込んで私達が作業しやすい高さまで上げた。そういえば錬金術以外の魔法を使っていない気がする。他の魔法の使い道が思いつかない。というか錬金術が便利すぎる。


「これでいいかな」

「うん、やっぱエマは凄いね!」

「これくらいお母さんでもできるよ」

「それでもエマは凄いの!」

「うん、ありがとね」


 こうやって純粋に褒められるとやっぱ照れくさい。こういうところではアレクシアには絶対適わない。キッチンの床を台で埋め尽くした私達はそのまま棚など、高くて届かないものがある場所に台を作りつつ一階を一通り見て回った。

次は階段を上って二階へと向かう。二階の廊下は短く部屋も一つしか無かった。私達はその部屋のドアへ向かい、ドアを開け部屋の中を見て固まった。

その部屋は寝室だが、一階とは雰囲気がかけ離れていた。その部屋はとても


メルヘンチックだった。


 見渡す限りのピンク、ピンク、ピンク。

 ゴージャスなピンクのドレープカーテンが広がる寝室に大きなベッドが置いてある。ヘッドボードはハートの形をしていて、ベッドの上には天蓋まで設えつけられている。ベッドの横には化粧台がありハート形の大きな鏡が備わっている。他にもソファやクローゼットまで可愛いもので統一されている。どこかのお姫様の寝室の様だ。


 私はいきなり雰囲気の変わった部屋に困惑した。「?」が4個くらい浮かんで消えなかった。また違う世界に飛ばされたのかと思って後ろを振り向く。後ろの廊下や階段はさっき通ったものだ、別の世界に飛んだわけでは無いらしい。


「ふぁあ……かわいい……」


 私の横で固まっていたアレクシアが復活した。このメルヘンチックな寝室が気に入ったようだ、目が凄くキラキラしている。


「エマ、ボク達ここで寝てもいいのかな?」


 アレクシアが期待したような目で私を見つめてくる。そんなこと言われても私にも分からない。どう答えればいいのだろうか。

 でも一回にはベッドも布団も見当たらなかったから多分ここで寝るのではないだろうか。


「おじいちゃんに聞いてみないと分からないけどここで寝ることになるんじゃないかな」

「ほんと!? 早くおじいちゃん戻ってこないかな」


 アレクシアがそわそわし出した。おじいちゃんが居なくなってから大分経つ、そろそろ戻ってきてもいいと思う。どこに行ったかは知らないが。


「ね、ね、おじいちゃんくるまでこの部屋に居よ」

「うん、ソファ座って待ってよっか」


 あまり寝室ではしゃぐのもよくないと思いアレクシアを落ち着かせ一緒にソファに座る。アレクシアはキョロキョロと辺りを見回していた。


「ボクね、一度でいいからこういう可愛いお部屋に住んでみたかったんだあ。ずっと村の人から聞いたお話の世界だけでしか知らなかったから今が夢みたい」

「私もそうだよ、こんな部屋を生で見るのは初めて。この部屋のドア開けた時はびっくりしたよ」

「ね~、ボクも驚いちゃった。一階とは全然違うんだもん」


 この部屋の話をしつつおじいちゃんを待つ。アレクシアはやがてソファの横にある化粧台の引き出しを漁りだした。そこには高級そうな化粧品がたくさんしまってあったが、どれも使われた形跡は無かった。

 暫くして一回から物音がし出した。おじいちゃんが戻ってきたようだ。


「どこにも居ないわよ? もう逃げだしたのではなくって?」

「おかしいのう、逃げ出すような器には見えなんだがのう」


 おじいちゃんとは別に気の強そうな女の人の声がする。二人で私達を探しているようだ。女の声の人が試練で一緒に住む人なのだろう。

 二人の話声が聞こえたので、私達は慌てて出しっぱなしの化粧品をしまいだした。化粧品を漁っていたことがばれたら流石に怒られそうだ。

 少しして二人の音が二階に来だした。ギリギリ化粧品をしまい終わった。ソファに座って二人が来るのを待つ。ドアに手がかかる音がした、ゆっくりとドアが開く。


「ここにいらしたのですね。ワタクシのお部屋で何をしているんですの?」


 お姫様みたいな人がそこにいた。

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