【KAC20228】お題「私だけのヒーロー」 影のヒーロー

テリヤキサンド

影のヒーロー

 「ねえねえ、あの子があの事故の生き残り?」

 「そうよ、病院倒壊事故でのね。」

 「なんであの子生き残ったの?」

 「何かあったんじゃない。」


そんな声が私の耳に届く。

突然、病院の一部にヒビが入り、その棟にいた患者、病院関係者がすべて、閉じ込められた。

懸命な救助活動のおかげか、数名の生き残りと一人の少女だけが救助されたのだ。

その少女は救助の際、ガレキの中なのに違和感がしかわかない大きな空間の中に無傷でいたというのだ。

人々は恐れ、こういった。


あの子には悪魔がついている。


長い黒髪のから除く、きつめの瞳もその噂に拍車をあたえていた。

それから一か月ののち、病気は完治しており、検査結果も問題ないとしてその少女「影山雫」は学校生活へと戻った。

が、回りの人間は少女を気味悪がって近付かない。


(まあ、当然よね。)


少女は独りで過ごす。そして、放課後になると、他のクラスから来たのだろう。ボブカットの小柄な少女が教室の中を覗き込み、雫を見つけるとかけてくる。


 「雫ちゃん、帰ろう。」

 「またきたの日向。」


彼女は「朝川日向」。雫が入院する前からの親友である。


 「私とはあまりつきあわない方がいいわよ?」 

 「そんなこと言わないでよ。親友でしょ。」

 「はあ、嫌がらせ受けても知らないわよ。」


遠巻きに雫を見る連中は雫自体には嫌がらせはしない。

していた時期もあったが、した後に何かしらの不幸、たとえば物を失くす、躓くものもないのに躓き転んだりと気味の悪いことが起こり、いまでは誰も近付かなくなったのだ。

なので、唯一近付く日向にはなにかしらの嫌がらせをされる可能性があることを言っているのだが、本人は気にせず、ドンドン絡んでいくのだ。


 「今日はどうするの?」

 「今日は私が晩御飯当番だから、買い物してから帰る。」

 「じゃあ、私も一緒にいく。」


退院したものの、両親はすでに他界しており、保護者である叔父に面倒をみてもらっている。

雫の叔父は今回の病院倒壊事故があった病院に勤務しており、責任があるとして、退院後は自分の家に招いている。

男との二人暮らし、そんな状況で・・・。

というような展開は無く、節度を守った生活をしている。

ちなみに叔父の好みは同僚の看護師らしい。


二人で、晩の買い物をしにスーパーに向かう。


 「今日は何にするの?」

 「カレー。」

 「雫ちゃん、カレー、ビーフシチュー、肉じゃがくらいしかレパートリーないよね。」

 「だって、具材考えなくても同じだから、味変えるだけですむし。」

 「そんなじゃ、いいお嫁さんになれないぞ。」

 「お嫁さんか・・・。別になれなくてもいい。」

 「まだ、事故のこと引きづっているの?」

 「そんなことはない。ただ、結婚は必要かなって。」

 「その年で枯れないでよ。」


そんなコントを展開しつつ、買い物が終わり、分かれ道へとさしかかる。


 「じゃあ、また明日ね、雫ちゃん」

 「じゃあね、日向。」


二人は別れ、それぞれの道を歩く。

日向は工事現場の近くを通り帰っていく。

すると、頭上に影が差した。

気になって上をみてみると、何かが落ちてくる。

建材かと思って、身をかがませ、頭をかばう。

落ちてきたそれは辺りに砂ぼこりを発生させ、私達の視界をさえぎった。

視界が晴れた時、そこにいたのは異形の化け物。

全身が黒く、爬虫類のような顔をしており、その口からはギザギザの歯が見える。

体は筋肉質な人間のようであって、腰には太い尻尾が生えていた。

これは人間なのだろうか?

化け物は私を視界にとらえて、ゆっくりと近付いてくる。

その口からは長い舌を出し、自身の口回りをベロリとひとなめしている。

ガクガクと震える足で、その場から動けない私はエモノにしか見えないらしい。

せめて、雫ちゃんにはこの化け物が遭遇することがないと祈ることしかできない。

ついに私の目のまえに大きな口を最大限開いた化け物が迫ってきた。

ああ、ここで終わるんだなと思ったとき、私の影からヌッと何かが出てくる。

それは化け物の顎をとらえ、その口を閉じさせ、化け物の体が後ろ向きに空中を舞う。

化け物の顎をとらえたものは私のよく知る背中。


 「雫ちゃん。」

 「ごめん、巻き込んだ。ここからは絶対に手を出させない。」


なぜ、私の影から雫ちゃんがでてきたのかわからなかったが、化け物を殴ったその右手には黒い篭手がついていた。


 「雫ちゃん、あなたは一体・・・。」 

 「今は聞かないで、さあ、行くわよ、闇喰あんく。」

 『うん、やろうか』


誰もいないはずなのに、男の子の声が聞こえる。


「『変身』」


二人の声が重なり、雫の影が彼女の体に喰らいつくように絡む。

食べられてしまったのではと焦ってかけよろうとしすると影が形を変え始めた。

形が安定した後、そこにいたのは2mほどになった黒いライダースーツのような姿をして、顔にはフルフェイスよりも顔の形にフィットしたマスクをした男の姿。

男は変身が終わると、化け物の倒れた場所に顔を向ける。

化け物は首を上げると、その目を大きく開く。

まるで、失ったものを見つけた子供のような反応だった。

化け物は地面を殴りつけ、その勢いで起き上がりながら、雫ちゃんへと迫り、その口で噛みつこうとする。


 「『寄るな、化け物。』」


雫ちゃんの足元の影が動き、ばけものの足元へと伸びるとその影から無数の影のとげが飛び出す。


 ズッ!


とげは化け物の足をその場に縫い付け、化け物は叫び声をあげるように震えていたが、声帯がないのか声は出ない。

その隙に雫ちゃんは化け物の懐に飛び込み、全身になんべんなく殴打を叩き込む。

化け物はその攻撃で、皮膚がひしゃげ、その傷から黒い血を出しながら、抵抗しようと尻尾を前へと振る。


 「『無駄。』」


雫ちゃんはその攻撃に対して、手を手刀するように伸ばし、その形態を黒い小太刀のように変化させ、尻尾を断ち切る。

尻尾は断ち切られるとその場でボロボロと崩れていき、消えていく。


 「『このくらいでいいかな、トドメといきましょう。』」


雫ちゃんはバックステップして、10mほど離れると足元から影を放出させる。

その放出した影で前向きに大ジャンプ、さらに影を右足に集中したことで、黒い輝きを放つ光となり、そのまま化物へと降下し、キックを放つ。


 ドッパーン!


化物にキックが命中すると水風船の割れた時のように化物がはじけ飛んだ。

化物が黒い血して、辺りに散らばり、地面につくと蒸発するように段々と消えていった。


化物が消えて、雫ちゃんの体から影が離れていき、元の雫ちゃんの姿が現れる。

少し疲れた様子の雫ちゃんはこちらを見て、あきらめを顔ににじませながら言う。


 「ごめん、迷惑かけた。」

 「え、う、ううん。助けてくれてありがとう。」

 「私のせいで襲われたようなもんだよ。もう、ここにはいられないかな。」

 「え、嫌だよ、雫ちゃん一緒にいてよ!」

 「でも、これ以上日向を危ない目に合わせられない。それに私、怖かったでしょ。」

 「そんなことない!雫ちゃんはかっこよかったよ!親友がこんなヒーローなんて自慢しかならないよ。」

 「でも、これからも危ない目に合うかもしれないよ。」

 「それは雫ちゃんが離れても同じだと思うよ。なら、雫ちゃんが守ってよね。」

 「・・・。わかった、改めてよろしくね、日向。」


その後の帰り道で雫やんの変身姿の名前の案を出しながら、雫ちゃんがそれはないと突っ込まれ、以前のような関係にもどったように感じた。

ううん、雫ちゃんは親友というだけでなくて、私のヒーローにもなった。

いい名前を絶対につけてあげるからね!


-雫回想-


入院中のこと。その日、突然、私の入院している棟が崩れた。

その時の私は病室の外にいて、動ける状態だったのですばやく、ストレッチャーにしがみついたおかげか、崩れたがれきに埋もれずにすんだ。

でも、出口が見つからず、しかもがれきの下からは潰されたと思われる人の悲鳴が聞こえてくる。

助けたいけど、私にはその力がない。

心の中で謝りながら、光を求めて、進んでいく。

ふと、一室から光が漏れているのを見つけ、その部屋に入っていく。

そこにあったのは大きな水槽のようなもので、その中には黒い影のような人間がいた。


 『君は誰?』


声が聞こえた、多分、この目の前の人間?だろう。


 「私は影山雫。あなたは?」

 『僕は・・・闇喰あんくと呼ばれている。君はなんでここに?』

 「病院が崩れて、助けを呼ぼうとしたら、ここにたどり着いたのよ。」

 『ここにかい?ここには通常の手段では入ってこれないはずだけど。まあ、いいか。で、ここから出たい?』

 「ここから出れるの?」


彼がいうには彼を解放し、協力すれば、ここから脱出でき、ガレキに取り残された人も助けられるとのこと。

しかも、私の病気に侵された体も彼の能力で治せるとも言った。

決断ははやかった。

私は彼の支持に従い、彼を解放。

彼との約束を果たしてもらう。

彼が私の影の中に入り込み、同調という作業を行うこと10秒ほど。

私の体に変化が出る。

体が軽い。


その後はガレキの除去のために彼自身が影となり私の体を覆っていく。

窒息すると思い、大きく深呼吸して、息をとめようする。

が、むしろ、さわやかな空気を感じる。

しかもその影のスーツは力が強く、大きなガレキも片手で持てるほどの強さを発揮した。

そこからはできるだけ、ガレキをどかし、救助していく。

ほとんどの人は意識がなく、私の姿をみられることはなかった。

意識もいる人はいたけど、私の姿を見ると悲鳴を上げて気絶した。

そんなに怖い外見なのかちょっと落ち込んだ。

その後、ある程度のところで限界が来た。


 「もう、動けなさそう。眠気が来たわ。」

 『おつかれさま、寝ている間は僕が影を使って君を守るよ。』

 「よろしくね、私だけのヒーローさ・・・ん・・・。」


そのまま、眠りにはいる雫。

 

 『私だけのヒーローね。君も僕にとってのヒーローさ、これからよろしく相棒。」

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