あの子に注目して欲しくて、私は精霊飛行機で空を駆ける

オーバエージ

今は亡き精霊飛行士の父と、愛する少年のために、私は今日も七色精霊を装備して精霊飛行機を操縦し、帝国主催のレースへと向かってゆく!


幼馴染のフロイドが、幼馴染から恋愛対象に変わっていった時はいつだろう。

キラキラと輝く銀髪の紙、吸いこまれそうなブルーの瞳。そして彼は私にとても優しかった。ただフロイドは『誰にでも』やさしいのだ。

私だけに注目して欲しい。あなたとの時間をできるだけ共有していたい。

そんな事を考えて『精霊飛行機学校』に通うため、飛行機を操りながらそう思っていたのだけど。

そんなフロイドが、お弁当を上に掲げて待っている。私は大きく旋回すると、180度飛行機、つまり真っ逆さまになり。フロイドが作ったお弁当を地面すれすれで乗りながらお弁当をキャッチして持ってゆくのが嬉しくてしょうがなかった。フロイド特製のお弁当…。

そのまま私エマは飛行機で通勤にし、空に消えていった。



精霊飛行機学校から帰ってきた。飛行機を倉庫にしまい、自宅へと戻ってくる。

隣に住んでいる6歳の少年は、ここ一体に生息ているしるスライムに枝で何度も突っついている。

「だめよイタズラしゃ可哀そうでしょ」

「だっけヒマなんだも~ん」

そう言うと自分の自宅まで走りだした。 

夕食の時間。私とフロイドはとなり同士で色んな意味で嬉しさが込み上げてくる。

今晩のシチューを食べている時である。

ドンドン!とドアを乱暴にノックする。誰かと思いドアを開けると、小父様であるジャージーが現れた。

「一体どうしたの急に」

私の母慌てて言うと、ジャージーは私を呼び差し、咆哮する。

「お前、今回の試合に出るんだってな?」

「そうよ、私は学校でもいつもナンバーワンだからね!」


ジャージーは息切れしながら話を続けた。

「馬鹿が!死ぬぞ!」

フロイドは私を見て事の成り行きを慌てて見ていた。

「今すぐ倉庫へ来い」

そう言うとおじさまのジャージーが扉を閉めた

「何なんだったんだろうね」

フロイドは私を見つめた。



「これから言う事に一切口を出すな、いいか。質問は最後に聞いてやる」

コホンと息をして、ジャージーは語りだした。」

「エマの飛行機は名称まあ、どこにでもあるサボイアS.21試作戦闘飛行艇だ。

こんな飛行機でよくもまあアクロバチックな乗り方してるよな」

ジャージーは続けた。

「今の飛行機に一番必要なものは何だかわかるか?」

「分からなーい」

「後部座席に設置する精霊の事だ!どんな精霊を乗せるかで、飛行機の性能はぐっとあがるって寸法だ」

「私はスライムの精霊を付けてるよ。耐久性は落ちるけどスピードが上がるの」

「スライムはダメだ。話し合いにもならん。もっと上級な精霊をはめ込まないといかんな」

そう言ってジャジーは呟いた。

「お前の父親は七色の精霊を持って大会に挑んだが、死んだ。」

「どうして?どうして死んだの?」

あえてジャージーは沈黙をつらぬいた。

数秒静かになってから、試合の地図を広げて見せる。

「相手に対し、攻撃を仕掛けるのは自由とされている。いままで何人の飛行機乗りが亡くなったことか」

「私が…1位になる可能性はないの?」

ジヤージーは嘆息した。

「お前は何も分かってないようだな、いいかよく聞け」

私とフロイドは耳を掲げた。

「全大会もずっと優勝はガレリア帝国の皇太子だろう?この大会は帝国の強さを皆にしらしめる為開催している、ただそれだけの為にだ」

「なるほどー」

私とフロイドは同時に関心して笑みがこぼれた。

「一番大事な事を話す」

ジャージーの目が鋭くなった・

「最後に普通の回り道と、ショートカットの2種類があるが、ショートカットの道は絶対使うな」

「面白そうね!」

「馬鹿言うな!お前の父親はこのショートカットで死んだんだぞ!」

そう言わると、ちょっと心苦しくなってしまう。

「狭い亀裂だから飛行機を常に180度の縦飛行状態を保ちつつ入らにゃいかん。障害物もあるが詳細は不明」

フロイドは興味深々で訊ねた。

「ショートカットに成功した人はいるの?」

「いない。だからエマ、ショートカットを選んだらワシはお前と2度と口を聞かん」


冷たくなったシチューを食べながら私とフロイドは、食べ終わった時に私は聞いてみた。

「ねぇ…お父さんの精霊、どこにあると思う?」

フロイドは即答した。

「倉庫に埋めた、父親のお墓の中、ショートカットの場所の中」

「ショートカット中に爆発したからそれが一番リアリティーがあるわね。でも…」

「何だい?」

「墓場は怖いし、ショートカットの中に入るのは帝国側が許さない。でも当時、父親の飛行機の残骸は回収されたと思うの。だから…うちの倉庫を掘ってディグみたいの。」

「そうかい、じゃあ僕も手伝うよ」

「本当?嬉しい」

フロイドは本当に優しい。早く恋愛してみたい。褒めたい部分はたくさんある。素直にそう思える魅力を彼は持ってる。


4


次の日、倉庫から飛行機を出して、倉庫内の至る所を2人で掘って回った。しかし中々てこずり出て来る気配すらない。

「無いね…」

「そうだね」

と、外から1匹の精霊スライムがピョンピョンやってきて、倉庫の一定の奥で跳ねている。

「なんだろ?」

「ひょっとしたら、ここを掘れって言ってくれてるんじゃないかな」

2人がかりで精霊スライムがいる箇所を掘ってみる。すると!

七色の光が舞い込んできたの。やっぱりあった!父さんが長年使っていたガレージに誰かが埋めたんだと思う。

七色の精霊を高く掲げながら、2人ははしゃいだ。これで勝てる!

叔父のジャージーは狼狽しながら、

「これはすげぇな…普通ならドラゴンを倒して1個出るか否かの逸品じゃぞ」

七色の背中を飛行機の後部座席に装着すると、飛行機自体が七色のオーラを発した。

「これは2位確実じゃないか。おめでとう」

「いや!」

「は?」

「わたしは絶対1位を取りたい!」

「それは昨日説明したじゃろ!2位が壁なんじゃ!」

そう言うと、怒ってジャージーはガレージから出ていった。

七色の精霊飛行機を見ながら、我慢できずにポロっとつぶやいてしまう。

「ねぇフロイド。私がレースで1位になったら、デートしてくれる?」

フロイドは突拍子のない言葉に思わず頬を赤らめたが、

「何位だろうと構わないけど…1位は無茶すぎて心配だよ」

「私は絶対1位がいいの!お父さんができなかったショートカットをやって、みせつけてやりたいの!」

フロイドが髪をかきながら、

「エマの操縦はアクロバティックだもんね。でも無理はしないでほしい」

「ミサイルも4つも入ってるし、何とかなるわよ!」

そう言ってエマはフロイドと一緒にガレージを出て言った。


5


今日の朝も機体を真っ逆さまにして、地上にいるフロイドが掲げたお弁当を受け取り、精霊飛行学校にフルスピードで向かってゆく。

学校では徹底的に、縦飛行を重点的に訓練していた。学校の先生も

「なんなのかしら、あれ」

と不思議がっていた。縦飛行を続けながらのカーブは恐ろしいほど難しく、1週間ほど飛行を続けた。

七色の精霊はスピード、耐久性、攻撃力、防御など7つの能力を強化してくれる最強の精霊。

(絶対に負けない。そしてフロイドと…)

夕日が落ちても私は操縦を続けていた。


6


帝国軍本拠地内にある皇太子専用の部屋。

兵士がそのドアまで辿りつくと、2回ノックした。

「入れ」

ドアの向こうから声が聞こえると、ドアを開けて中へと入っていく。

皇太子のドレイクはだるそうに椅子に座っていた。

兵士は紙を一枚持ちながら、皇太子に語りかける。

「皇太子様」

「なんだ?」

「3日後に開催される飛行機レースなのですが」

皇太子は神経質そうに言った、

「要点を言え」

慌てた兵士は持っていた紙を、皇太子に渡した。

「3日後の飛行機レースなのですが、皇太子さまと同じ七色の精霊を持つ者がエントリーしております!」

ドレイクは紙を一瞥して言い放った。

「ふん。例え持っていても、雑魚は雑魚。俺に勝てっこない」

「さようでございますが、念のため伝達した次第であります」

「誰も俺には勝てない。皆俺の為に死んでくれるんだよなぁ…!あっはっは‼」

笑い声が部屋に響き渡った。用事が終わった兵士は皇太子様の部屋から退出した。



3日後。とうとう帝国軍ガレリア主催の飛行機レースがはじまった。観客ははちきれる程に溢れている。

花火が轟き、帝国軍の飛行機が空にハートを描いてゆく。

搭載する精霊によって飛行機の色が違うので、並んでいる飛行機も実にカラフルだ。

光の精霊が4匹、四角の点となってできた四角形により、レースの映像が大きくモニタリングされている。

熱狂的な観客はさらにボルテージがアップしている。

カラフルに染まった機体に乗っている私は、フロイドの姿を探したが観客が多すぎて分からない。

(最高のパワー見せるから見てて…絶対頑張るから!)

観客席にいるフロイドと叔父のジャージーは観客席の中程に陣取って、モニターを見ながら

「エマ―‼がんばれー‼」とフロイドは精一杯の声で叫ぶ。叔父はふんぞり返っていた。

エマの乗っている機体は最後列にいた。もちろん帝国軍皇太子ドレイクは先頭にいる。

そして実況がはじまる。

「さぁ24機の飛行機が一斉に並びました。あとはカウントダウンを待つのみです!」

旗を持った帝国軍がカウントダウンを始める。

「3・2・1・ゴー‼ゴー‼」

一斉に飛び立つ機体。私の隣にいた機体は全く動かなかった。

「おおっとスタートから棄権者がでたか!」

早くも脱落者が出たが気にせず、空中に急上昇し、フルパワーで1機また1機と抜かしてゆく。

皇太子はそのままトップを独走している。そして最初のカーブがやってくる。

ほとんどの飛行機乗りはカーブ時に速度を下げる。

しかしエマはカーブ中アクロバットな動きでどんどん抜いてゆく。

皇太子の機体を両横の機体が抜かしていった。

「雑魚が」

先頭を走る2機にミサイルを発射し、羽根の部分に当たり撃墜、パイロットはパラシュートで脱出した。

「ハハハ!ミサイルはまだ8発もあるんだ、俺の前へ出んじゃねーよ‼」

エマは撃墜された2機を視認しながらどんどん先を目指す。

「1位は皇太子殿下、後ろに12機、七色機体のエマ・ストーンが凄い勢いで追い上げてます‼」

レース空路が直線になる。通常ならここでミサイルを恐れて下降したりするが、スピードが落ちる。

エマはあえて降下せずに猛スピードで直線を突き進んでいった。そこで2機ほど追い抜いていく。

皇太子の機体の下から潜り込んだ機体がいる。

「うぜぇんだよ‼」

皇太子はスピードをやや下げ、やや降下して敵機の後ろにつき、1発ミサイルを放つ。

無残にも撃墜された機体はパラシュートを使う前に爆発した。

エマの前に2機走っている。

「ごめんなさいっ」

そう言うと誘導ミサイルを2個使用し、前にいた2機を撃墜する。

「いいぞエマ!でもショートカットは使わないで!君が消えたら僕は…」

フロイドは言葉を詰まらせた…

実況が伝える。

「残り9機!1位は皇太子、2位はエマ・ストーン!七色同士の戦いになりそうです‼」

皇太子の姿がやっと見えたエマは、最後のコースに全集中させた。

「見えてきましたラストの2つ!両方はショートカットするか見物です‼」

「ふん!」

皇太子は通常コースを選び、ブースターボタンを押し、全速力でカーブを進む。

エマは縦型飛空状態になったその時、観衆は一瞬静かになった。

叔父のジャージ―は

「見ておれん!」

「エマ‼君は…」

そのままショートカットコースに突入すると観衆は沸いた。もしかしたら皇太子より上にいけるんじゃないのかと思っていたのだろう。

「なにこの障害…」

ショートカットコースには亀裂の狭間に上下に障害の岩が挟まっている。私は縦型飛行を続けながら、上下に飛行機を稼働させた。

それをクリアした時。ショートカットの終わりには隙間が全部岩で埋められていた。

ミサイルを撃つと岩は崩れ去り、その隙間へと走っていった。

皇太子が進んでいくと、前方に爆風の中現れた機体が飛び出てきた。その瞬間、フロイドがボードを手に持ちコースへと駆けていった。

「何だこいつ‼」

エマは皇太子の前を走らせた。

「怒られる…怒られるぞっ‼」

そうしてエマは1位の座を勝ち取る事ができたのだ。

ウィニングランをしていると、銀髪の少年がパネルを掲げていた。フロイド…。私は180度真っ逆さまになってボードを受け取った。毎日お弁当をそうやって取りに行ったように。

受け取ったボード。父親の遺影だった。

「お父さん…私はショートカットできたよ…」

涙が溢れだし頬を伝う。

それからフロイド。デートする約束、忘れないでね!

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あの子に注目して欲しくて、私は精霊飛行機で空を駆ける オーバエージ @ed777

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