第百六十四話 その牙を剥け
―_-◆_+★_*+-【 千里 目線 】-+*_★+_◆-_―
「この俺の白い太陽の心臓があれば、お前達の望みは叶う。俺の命を欲する者、愛を欲する者は無論。安寧の地を求め、自らの『隠世』を創造したい者達も。先祖である俺の根源を継げば、脆弱な『人の器』に寿命を脅かされる子孫を、強靭な『妖の器』にする事も可能だろう」
炎陽が望んだ『宴』は隠匿を解いた。彼が語る可能性に、おぞましさで私は臓物が混ぜられるようだ。智太郎をこれ以上、私のように『妖』に近づけさせるものか。智太郎は『人』として、
「但し、俺の心臓は一つだけだ。叶えられる望みも……一つ」
緋色燃える白銀の
「何故ですか、炎陽様! 御身を犠牲になさるようなことをっ……! 」
叫んだのは、翡翠の双眸を潤ませた翠音だった。炎陽は張り詰めた『隠世の
「
炎陽は緋色の双眸に強靭な光を宿す。瞬くことの無い彼の意思は、誰にも変えられない。
「炎陽様への私の愛は……穢れていても、偽物なんかじゃありません」
「ならば、証明してみせよ。
翠音は猫耳を伏せて項垂れる。沈黙は嵐の前の静けさ。私と同じ『穢れた愛』を抱くはずの彼女から、意識が逸らせない。同じ想いである『友人』であって欲しいからか。
「ええ、証明して見せます」
偽りから受胎した花嫁は、
問いに答えるように翠音が立ち上がれば、血脈を思わす鎖はシャナリと鳴り、長い
――舞うように踏み出した翠音の足先から生じた影の輪は、波紋を『宴の間』に広げ平衡感覚を奪う! 『紅色の花嫁』の翠音は牙を剥いて咆哮した!
「だから私は……私の神を脅かす貴方達を消し去る!! 」
足元が沈む感覚に肌が粟立つ。異能『
我に返った私が紫電を発動する前に、誰かに抱えられ
「黒曜っ……」
「先程の
苦々しく語る黒曜に眼下を見れば、影沼と化した『宴の間』は正に混沌。翠音が操る『折紙影絵』は炎陽と彼女を除いた全てを、今正に呑み込もうとしていた。
「そんなん、アリかよっ! リアル底無し沼! 」
「ふざけてる場合か、掴まれ馬鹿! 」
体を半分呑み込まれた『綾
険しい顔で、影沼に銃を打つ智太郎も同じ……! 翠音に銃口を構え直した彼の名を叫びかけたその時。
「馬鹿な
翠音と呼応させるように翡翠の猫目を爛々と底光りさせた紅音は、その美しき唇で『歌』を紡ぐ。
『 影の
緋色を反射した影沼は
「『
「お褒めに預かり恐悦至極。お高く先制攻撃してくれちゃって。
目を細めた紅音の言葉に、何故か翠音は
「私はっ……」
頼りなく翡翠の瞳を彷徨わせた翠音は、
「千里……貴方は私の『友人』ですよね? 」
私は少々冷めた目で翠音を見つめる。先に私達へ攻撃して来たのは彼女だ。だが……今智太郎達を捕らえているのは翠音であり、一部を除いて
「『友人』の
私の施しに、翠音は直ぐに縋りついた。
「そうなんです、私が千里を本気で襲う訳がありません! 貴方も下賎な輩から、炎陽様を守ってくれますよね? 」
「当たり前でしょ? 翠音は『友人』。
彼女はかつての私と同じく『孤独』に怯えているのだろう。翠音は私の思った通り、陶酔すら浮かべて見せた。
「客人と
「分かりました。紅音以外は
黎映と誠が居ない。
「……つまらんな」
傍観していた炎陽が、緋色の陽炎纏う白銀の大太刀を下ろしたと思った瞬間……『折紙影絵』で拘束されている智太郎へ疾走した! 花緑青の
「翠音に守られるべきの
「なら、濡羽姫が
雄々しく牙を見せて髪をかきあげる炎陽を、私は冷え冷えと見下してみせる。炎陽は波乱を望んでいる。だが、
「浮気性もそこまでいくと立派だけど。地獄で珠翠が泣いてるわよ? 」
「愛しい女に嫉妬で殺される地獄だなんて狂おしいな」
骨の髄からぞっこん、て訳ね。翠音の本当の恋敵は、死んでいるからこそ厄介だ。
隣に降り立った黒曜に、私は告げる。
「黒曜、私が目覚めた『孤独の部屋』にある
「『金の稲妻』を放つ生力由来術式は、今の千里には扱えない」
「掌が焼かれようが、ただの刀としてでもいい。私……あの刀じゃなきゃ駄目なの」
白銀の大太刀を構える炎陽を殺さずに、行動を掌握しなくてはならない。だが未知数の紫電の妖力だけでは、覚束無い気がする。 過去夢で掌に馴染んだあの白い刀が……
「
冷静を装っていても、針のように細められた黒曜石の瞳孔から殺意を感じるから、私を心配してくれているのは知っている。
「私、炎陽と
黒曜はふいを突かれたように瞠目し、瞬く。丸く緩んでいく瞳孔と、麗しい
「……すぐに戻る」
あれ。苦笑されると思ったのに、すれ違いざまに顔を逸らされてしまった。もし照れているのだとしたら……貴重だから見たかった。
「
緋色の双眸を底光りさせる炎陽に、
「ええ。折角の『宴』だから、私も愉しみたいの。それに私……
炎陽が智太郎を狙った理由は何なのか。それを知らねば『白い太陽の根源』を奪い合う、この『宴』……行き着く先が見えない。
「
私の背後。袖を強く掴んだ智太郎の叫びに、私は眉の端を下げる。切実な衝動に振り向くと、強い風に髪が払われた。
儚い『雪華の少女』の殻の奥………滅びぬ花緑青の瞳には、虹の
「ごめん、智太郎の言う事は聞けない。……それに、私も
痙攣する唇を噛んで俯いたとしても、智太郎自身は弱くなんか無い。いつも守られていたのは
「お願い。私に智太郎をずっと救わせて」
翼耳の私は掴まれた色打掛の羽織を肩から脱いで、羽化する。濡羽色の着物に
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