第百三十八話 反転対談
ニヤつく青ノ鬼に、俺が本能的に苛立ちを覚えてしまうのは自己防衛本能だ。
それでも『翡翠ノ森』の捜索の前に貴重な時間を割いてまで、綾人を隣の俺の部屋で待たせ、顕現した青ノ鬼と向かいあっているのは……問いただす事が山ほどあるからだ。
「随分弱々しくなったもんだ。
「色欲
黒髪をひと房に纏めた青ノ鬼は
痒くなるような苛立ちが割増しになるから何時もの嘲笑の方がマシだ……と思ったが、嬉しそうに再びニヤつくんじゃない!
「僕の事を心配するなんて、智太郎は中身まで甘ちゃんになったみたいじゃないか。で、改めて僕に聞きたい事って何かな? 対価はメロンクリームソーダだから」
ルンルンと楽しそうな
思い出した俺の『前世』は半欠けだ。己穂に直接会った事のある
しかし、腕を組んだ青ノ鬼が告げたのは予期せぬ答えだった。
「それは、
冷静な青ノ鬼に神経を逆撫でされた俺は、反発が沸騰する! 何故前提から崩そうと言うのか!
「ふざけんなっ!! あんなに色鮮やかな唯の夢があってたまるか!! 大体、
「知っているからこそ、だ。君が思い出したのは
俺の知らない本当の
「『
綺麗に『笑顔』を作る青ノ鬼に吐き気がする。やはり、
「
「えぇ!? 未来視を持つ僕に予言!? 新感覚……いや、二度目かな。兎も角、君は幸せな夢だけ覚えとけばいい。これ以上の望まぬ憎悪なんて、眠らせておきなよ」
「まるで前世で俺が恨んでる奴が居たみたいな言い方だな。……前世の俺を殺した鴉か」
青ノ鬼は正解、と言うように双眸を細めた。
鴉が『雪』を殺したのは『崩壊した過去夢』だけでは無かったようだ。雪原での戦闘時、俺と戦う鴉に躊躇いが合ったのは罪悪感からかもしれない。鴉がまだ『雪』を恨んでいるのなら、本気で俺を殺しにきていただろう。
「
「ムッカー!! 社会人の
頬をむくらせる青ノ鬼は、可愛らしい『愛の妖』でも追求する気なのだろうか。
「拗ねてる場合じゃないんだが」
我に返った青ノ鬼は気まずそうに咳払いする。
「……君が、前世の自分を殺したはずの鴉に憎悪を抱かないのは、
胸に針を刺されたような気がしたのは、根源に刺さる紫電の欠片のせいだけでは無いだろう。
「前世の俺を助ける為に
弱った雛鳥が食い殺される直前を眼前にしたような、嫌な気分に襲われて俺は膝の上の拳を握る。
「炎陽の話だと、恐らく逆だね。千里が鴉の魂を隷属させた。……嘆いていいのか喜んでいいのか、僕には分からないけど。千里が主でも、僕の魂は僕の物だけど……鴉はそうじゃない。千里が命じれば、鴉は君の敵として立ちはだかるだろうね。今の君は弱くても、千里にとっては脅威だから」
「……千里は半不死になったんだろ。何で俺なんか恐れるんだ」
炎陽のもたらした、『
「不完全な不死の千里は、君に憎悪されていると思ってるからだろう。救い続けたい君に殺される事は、彼女の願いが死と共に絶たれる事を意味する。
「千里と
「真実を知った今も言いきれるんだ? ……まぁ、人の心なんて
「
炎陽が拾ってこいと言った『案内役』は、『翡翠ノ森』に居るらしいが……どちらも辿り着くヒントなし。会ってもいないのに、猫耳を掻くのが目に浮かぶ怠惰な
「んー、そうだなぁ……。それっぽいとこは何ヶ所か知らないでも無いけど……確証するにはやっぱりホレ」
わざとらしく考える振りをしながら曖昧に言葉を継ぐ青ノ鬼に、イライラする。
「方位磁針は
嘲笑と共に、妖力の根源たる魂であり心臓を指さされる。やっぱ何時か殺す……と顔が引き攣るのを抑えきれない自分は、青ノ鬼と相性はやはり最悪だと確信した。
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