ここがディストピア

ふさふさしっぽ

本文

 私はここで、ずっと待っている。「彼」が来るのを待っている。


 もうすぐだ。計算上、もうすぐこの場所に「彼」はやってくるはずなんだ。


 私の計算に狂いはない。何せ、私は遺伝子操作で生まれた地球で一番の天才なんだから。


 もうすぐだ。

 もうすぐ……5・4・3


 2・1……、


 計算通り、私の前に「彼」が突如現われた。


 突如現れた「彼」は私を見て、びっくりした顔をした。


「何で博士がここにいるんですか」


 私は苦笑いしながら答えた。


「調子に乗って、不老不死の薬を作ったら、このざまよ」


 私の答えを聞いた聡明な彼は、すぐに合点がいったようだった。あきれたように、私に聞き返す。


「それで、今の今まで、僕を待っていたわけですか」


「そうだよ。正確には、君が今乗っている、タイムマシンを待ってた」


「彼」はある乗り物に乗っていた。地球一の天才博士である私が、何百年も前に発明した「タイムマシン」だ。


「よく来てくれた。君は、私だけのヒーローだ」


 私は彼……何百年前の助手に向かって、そう言った。私だけのヒーロー。そりゃそうだ。今地球には私しかいないのだから。


 私はタイムマシンに乗り込んだ。


「よかった。タイムマシンを何百年も前に発明しておいて。助手である君を、実験として何百年後の地球へ送っておいて」


「僕は乗り気じゃなかったんです。それなのに、博士が無理矢理、僕を実験台にして。だけど、博士がまさか何百年後の地球にひとりぼっちでいるとは思いませんでしたよ」


「君をタイムマシンで送ったあと、不老不死の薬を発明して、試してみたくなったんだよ」


 私はタイムマシンの隣に座る彼ににやりと笑った。


 助手である彼は言った。


「ここが〇〇〇年後の地球……。地球は滅んでしまったんですね」


 私はタイムマシン上で辺りをキョロキョロと見回す助手に言った。


「戻ろう。元の時代に。私は元の時代の戻ったら、なんとしても私が不老不死の薬を作るのを阻止するよ。そして、地球がこうならないよう「私」に忠告する。大丈夫、私は私の言葉を理解するはずだよ」


 その私の言葉を聞くと、助手はなんとも間が抜けた顔をした。


「博士がそんなことを言うなんて、なんだか意外ですね」


「なに、滅んだ地球はやっぱり味気ないな……と思っただけだよ」


 私は〇〇〇年後の地球を眺めて、そう言った。


「この未来は変えなくちゃいけない」


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