私とヒーローズ
まっく
私とヒーローズ
この前、テレビで観たアニメで「貴方は私だけのヒーローよ」って、セリフがあって。
それで、自分にとっての『私だけのヒーロー』って、誰だろうかと考えてみた。
まず、小さい頃のヒーローと言えば、お父さん。
私を産んですぐにお母さんが亡くなって、一人二役、お父さんとお母さんの二刀流で、仕事と家事、厳しさと優しさを見事に両立させて、私たち兄妹を育ててくれた。
でも、それは兄たちにとってもヒーローだったろうから、私だけのとは違うのか。
次は一番上の兄。
ちょっと事で、すぐに落ち込んでしまう私。
でも、素直に泣いたり怒ったり出来ないから、ほとんど誰にもそれを気づいてもらえない。
そんな私の人には分からない変化を感じ取って、スッと側に寄り添ってくれる一番上の兄。
今でも、落ち込んでいるのが
でも、今は結婚して、素敵な奥さんと二人のかわいい女の子の父親だから、やっぱりもう私だけのヒーローではないかな。
年の近い二番目の兄は、とにかく人を笑わせるのが得意で、私なんかよく畳の上を転げ回って笑ってた。
そのお陰で、落ち込まずに済んだ回数は数え切れない。
文化祭で漫才をやって、ものすごいウケて、普段喋らない男子とかからも「お前の兄ちゃん、面白いな」とか、たくさん声かけてもらって、すごい優越感だったのを、よく覚えてる。
今はお笑いの養成所で頑張っている。卒業前にも関わらず、もうファンも付いていて、将来を嘱望されているらしい。
となると、私だけのヒーローになったらダメだよね。みんなのヒーローになってくれなくっちゃ。
家族以外だと、駅前でギター持って弾き語りをしてたタクオ。
特別上手いわけでもないのに、なぜか心にじんわりと染み込んでくる歌声。
誰一人立ち止まって聞いてくれないのに、精一杯気持ちを込めて歌ってる姿が、すごくキラキラしてた。
時間が合えば、駅前まで聞きにいったし、温かい飲み物を差し入れしたりも。今で言うと推し活って言うのかしら。
私の為だけにって、よく歌ってくれたりしてたんだけど、急に駅前に来なくなっちゃって。あの時は悲しかったな。
サラリーマンやってるって言ってたから、転勤でもしたのかな。
タクオは、ほんの少しだけでも、私だけのヒーローだったのかも。
今も歌を続けてて、誰かのヒーローだったらいいなと思う。
あとは、フラッと入った焼き鳥屋のタカシ。
あいつ、バイトでお金無いクセに、落ち込んでた私に「僕のおごりでふ」って、少し語尾を噛みながら、焼き鳥を出してくれた。
やっぱり私、落ち込んでるのなかなか気づいてもらえないから、気づいてくれたのと、照れた顔が愛おしくなっちゃって。
もう、これは私だけのヒーローだと思って、付き合ったら、実は妻子持ち。
あいつ、バイトのクセに妻子持ち、いや、妻子持ちなのにバイト?
まあ、どっちでもいいけど、もう最悪。一瞬でも、ヒーローだと思った自分も最悪。
お陰で、それ以来焼き鳥食べれなくなったんだから。
それからも、いろんな人と出会ったり別れたりしたけど、なかなか私だけのヒーローなんて現れないもの。
いつか、そんな人に出会えるといいけど。
いや、きっと私だけのヒーロー出会える!
「お母さーん! おばあちゃん話し終わったみたい」
「はいはい。おばあちゃん、これを話し出すとご飯食べないから」
テーブルに、焼き鳥が盛られた大皿とイチゴのショートケーキが置かれる。
「おばあちゃん、焼き鳥食べられないんじゃないの?」
「食べる食べる。すごい好きだから」
「でも、さっき」
「妻子持ちのバイト? この前は洋食屋でビーフストロガノフだったわよ」
「おばあちゃん、そんなのどこで覚えたんだろ。そういえば、推し活とかも言ってたし」
「よく分かんないのよ。ちなみに兄もいない。妹が三人」
老婆は、串から外された焼き鳥が小皿に乗るたびに、パクリパクリと口に運ぶ。
「でも、ずっと幸せそうな顔」
「そうね。文句言ったりしないから、その辺は助かってるわ」
「私も、もう少し帰って来る回数増やすね」
イチゴのショートケーキに蝋燭を一本刺して、火を灯す。
「じゃあ、フーッして下さーい」
老婆は「フー」と声にしながら、息を吐く。
蝋燭の火は見事に消え、パチパチと拍手が食卓を包む。
「おばあちゃん、八十八歳の誕生日おめでとう!」
私とヒーローズ まっく @mac_500324
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