私の世界すべて

紗音。

私の家族

 私にとって、世界はまるで絵画のようだった。


 そう、まるで色鮮やかで綺麗な夢を見ているようだった。


 そこには私と同じ人はいなくて、流れるように歩き回る何かがいるだけだった。


 小さな箱から飛び出した私は、箱の外はこんなに綺麗なところなんだと驚いた。


 喜んでいたのかはわからない。


 ただ、新しい冒険の始まりだと思っていたのかも知れない。


 初めての外の世界に、私は冒険へ出た。


 あれは何??


 これは何??


 私にはすべてが新しくて、どこまでも行ける気がしていた。


 実際は家から少し離れた裏通りで、お腹を空かして動けなくなっただけだが。

 当時はお腹がきゅっとなるのが何なのかわからなかった。お腹が空いたなんて言葉を知らなかったから。


 もうここで終わるのだと思っていた。そこに彼がやってきたのだ。

 今とは違って、まだまだ幼さの抜けない顔立ちに焼けた肌、黒い髪の少年は私に声をかけてきたのだ。

 私はこの時、初めて私と同じ人に出会ったのだ。彼は私が話をしないので、困り果てて母親を呼んだ。

 そして私はもう一人の同じ人に出会えたのだ。私を認識してくれる同じ人間に。


 その後すぐに、あの箱に戻されてしまったが、もう柵の中ではなかった。

 だから、私はすぐに同じ場所へ向かったのだ。私と同じ人のいる場所へ。


 それからは彼と彼の母親と共に過ごすことが多かった。たまに箱に帰る程度で、私の家は彼と彼の母親がいるところだけだった。


三詩みしおちゃーん!!」

 そう言って、私の肩をつかむ人がいる。私は驚いて振り返る。

「おっおはよ!!今日も可愛いね!!」

 目の前の人は顔を赤らめながらそう言って、走っていなくなった。


 そうだ、私は荒巻あらまき三詩みしおという名前だった。


 小さい頃から彼と彼の母親と過ごしていたので気づかなかったが、私には名前があったのだ。

 二人には『ミーティー』と呼ばれていたが、それがあだ名だと知ったときは驚いたものだ。


 彼らといるときに一人の女性がやってきて、紙に文字を書いて渡してきたのだ。


『あたらしい……おかあさん??』


 お母さんが何なのかは、彼らのおかげで知っていた。だが、新しいお母さんとは何なのかが私には理解できなかった。

 彼らはたくさんのことを教えてくれた。そのおかげで、少しずつ日本語も理解できるようになった。だけど、難しいことはまだ理解できなかったのだ。


『ねぇ、リアン。新しいお母さんって何??』

『……えっと、ミーティーを大切にしてくれる人……かな??』

 彼は困ったような顔をしていた。

 それから新しいお母さんは私に言葉や遊びなど、色々教えてくれた。

 また、私には姉が二人いることも教えてもらったのだ。

 家族だと言われても、彼ら以上の絆を感じることは無かったが、それでも、家族は大事なのだと二人にさとされたのだ。


「三詩ちゃん!!」

「三詩ちゃーん!!」

 ぼーっと昔のことを思いだしていると、いつの間にか私を取り囲む人がたくさん集まっていた。

「あっ、……うぇ??」

 こんな時、どんな言葉を言えばいいかわからない。未だに日本語は難しいのだ。

 どうしようかと困っている私の前に、ストッパー彼が入ってきた。

「三詩が困ってんだろ。はよ、学校へ行け」

 そう言って、集まっていた人達を追い払ってくれたのだ。

『リアン!!ありがとう』

『別に……』

「ってかここは日本なんだから日本語をしゃべれよ!!」

 リアンは大きな声を出して、私のおでこをペシッとたたいた。

「いたぁ??」

「なんじゃそりゃ」

私の下手くそな日本語に対して、彼は笑うのだった。


 あの頃、私を助けてくれた幼き少年は、ガタイの良くなった強そうな男の子へと成長したのだ。


 あの日、私を救ってくれた彼は、今でも私のヒーローなのだ。

 これからもずっと一緒に生きていきたい。

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私の世界すべて 紗音。 @Shaon_Saboh

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