作戦名『血のバレンタイン』

玄武堂 孝

【KAC20228】作戦名『血のバレンタイン』


 僕こと加原かばら 一はクラス単位で異世界召喚され淫魔王と呼ばれる存在となった。

 チートで無双し、そのたびに嫁が増えていった。

 チーレム大勝利のはずなのだがちっともそんな感じではない。

 僕の異世界チーレム生活はどこかおかしい。



 鈴木小麦さんは僕と一緒に異世界召喚されたクラスメイトの一人だ。

 愛華同様天啓職【調理師】という珍しいクラフター系天啓職。

 ただ愛華が料理全般なのに対し鈴木さんは名前動揺小麦関係に特化している。

 実家がパン屋という事でパン作りの知識が豊富なうえお菓子作りが趣味。

 その知識で異世界に新たなお菓子文化を伝え、みんなから『小麦キング』と呼ばれている。


「お父さんが私のアプローチをスルーしまくりです。

 ちょっとへこみます」


 新メニュー勉強会という名の飲み会。

 参加者は鈴木さん・愛華・クリム・ショコラ姫と僕。

 場違いな感じバリバリだが材料なんかの生産や調達の相談をされる事が多いのでたまに参加させられる。

 僕は小食だが色々な物を食べるのは嫌いじゃない。

 少しずつ食べながらフルコンプを目指すのが目標だ。


「全裸でセクシーポーズをとればオヤジなんてイチコロでしょ!?」


 愛華の言葉にクリムとショコラ姫が黄色い声を上げる。

 愛華ってとんでもない事をさらっと言うよな。

 まあそこが愛華の良いところではあるけど。


「それが…駄目でした」


 やったんかい!?

 …ん-、でも微妙。

 鈴木さんって見た目が普通の女子高生だ。

 お色気ムンムンって感じじゃない。

 パン屋の親父さんは既婚者だからね。

 亡くなった奥さんがどんな人だったかは知らないけれど鈴木さんよりはお色気のパラメータは高かっただろう。


「諦めてハジメで妥協したら。

 もう100人くらいは愛人枠あるし」


 愛華!物騒な事を言うな!!

 つっこみを入れたかったが我慢。

 この女子会では僕は置物に徹すると決めている。

 すでに僕とそういった関係になっているクリムが頷いている。

 いいの!?それでいいの!??

 ショコラ姫も僕を熱い目で見ない!


「カバラ君も悪くないけどお父さんに比べると…へなちょこ?」


 うん、見た目だけで比べるとパン屋の親父さんには敵わない。

 朝から晩までパンを焼いている親父さんの腕は僕の腰ほどの太さがある。

 商品であるパンを食べるのは最小限、基本豆を食べるというソイペプチド摂取であのマッシブな体を作ったと思われる。

 そんなパン屋の親父さんはジャムおじさんとワンハ〇ンマンをミックスしたような存在だ。

 王都で営んでいたパン屋を非合法な方法で取り上げようとしたラウト商会を鉄拳で敗走させた。

 同時に鈴木さんを一人で守り切った。

 鈴木さんからすればパン屋の親父さんは『私だけのヒーロー』なのだ。

 そりゃ僕が鈴木さんの立場だったら惚れてしまうのはむしろ当然。

 個人的には鈴木さんを応援している。

 …というか僕の愛人がこれ以上増えるのは避けたいです。


「うん、それは同意」


 愛華、自分の愛人にそのセリフってどうなの?

 僕はへなちょこじゃない、ヘタレなだけだ。


「お父さんって私の事を子供扱いで…。

 このままじゃ一生進展を期待出来ないです」


 鈴木さんが自分の胸を両手で包む。

 胸のサイズはA?

 ちっぱいスキーの僕からすれば魅力的だ。

 だがこの性的嗜好がマニアックだと理解している。

 そしてパン屋の親父さんは多分巨乳スキーだと想像する。

 ここは成長期をプッシュ、焼き上がりのパンのようにふっくらするのを楽しんでもらえばいい。

 いつもパン生地をこねている親父さんはおぱーいもみもみも上手い…はず!

 …と妄想してみる。


「私みたいに一服盛るか!」


 愛華がさらっととんでもない発言。

 愛華は僕に一服盛る事で僕との関係を作った。

 でもここにいる女子は常識人だからその提案は却下でしょ。


「いい考えです!」


 常識人のクリムがあっさり同意。

 妹のショコラ姫も頷いている。


「いや、それは駄目でしょ?」


 さすがに止めに入る。


「ハジメ様、神は『愛はすべてを許す』とおっしゃっております。

 愛のためならすべてが肯定されるのです!」


 クリムは立ち上がり宣言する。

 目がいっちゃってる?

 アカン、クリムもなんだかんだいってお貴族様だった。

 女子一同の拍手でこの提案は採用された。

 怖い、愛のためなら何でも肯定される乙女の女子会は本当に怖いです!

 悪の秘密結社が可愛く思えるよ。



 作戦名『血のバレンタイン』。


 僕は『バレンタインデー』の普及に努めさせられた。

 この世界は十字教の教えが強いので女性から告白するのは禁止という建前がある。

 1年に一日だけ女性が告白を許されるバレンタインデー。

 同時に好きな相手にチョコを送るという文化の普及に領主自ら取り組んだ。

 まあバレンタイン商戦で市場の活性化を狙うのは悪くないからだけど。

 その背後で鈴木さんはウイスキーボンボンの試作、親父さんに味見を迫った。

 そして見た目と異なり酒を1滴も飲まない親父さんを堕とした。


 恋する乙女の前には正義も悪もない。

 ヒーローでさえ倒してしまう。

 …本当にこれでいいの、鈴木さん??



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