全ては止まった船のせい

わらびもち

全ては止まった船のせい


「休日なのに仕事用の携帯電話を手放せない。



 プルプルプル



 あぁ、またか。


「もしもし、、、はい………」


 別段私の会社がブラックとかそういうことでは無い。

 どこからともなく現れた謎の新型ウィルスにより自社製品を運んでいる船が滞っていることが原因だ。あの船さえ動いてくれれば...。



「はい、、ではまた状況が変わり次第連絡します。はい、、失礼します。」


 はぁ


 電話を切った後に小さなため息をこぼす。


 ため息をつくと幸せが逃げるだの人を不快にさせるだの言ってくる人がいるが、ため息にはリラックス効果があるとも言うし他人ひとがいない時くらいは許してほしい。



 コンビニの袋をガサガサと鳴らし中からイカの塩辛と缶ビールを取り出す。


 こんな日はテレビでも観て気持ちを紛らわそう。

 電源を付けるとニュースでは新型ウィルスについて報道されていた。


 動かないかな...船。


 動かない船のせいでなぜか何度も謝罪している自分がよみがえった。



 チャンネルを変える。



『なんとこちらの大きな船、1億円です!

 買いますか?買いませんか?』




 あぶない、あぶない




 危うく画面に塩辛をぶん投げるところだった。


 なんとか思いとどまると、ビールを口に流し込む。

 のどごしは良いが味は感じない。

 こんなときに飲むものなどそんなものだろう。アルコールさえ入っていればそれでいい。


 結局テレビは諦めてテレビゲームの『モノポリー』をやることにした。


 やり始めて思ったが、絶対に1人でやるゲームではない。


 最初に自分の駒を決められるのだがどうしようかと迷う。


 ブーツ...かっこいいがカーボーイ感が否めない。


 アヒル...くちばしといいそのサイズ感といい、なんとも愛くるしい見た目をしている。鳥類にしてはなかなか見どころのあるやつだ。


 ハット...駒として選ぶならこれだろうか。なんというか、どことない"無難"を感じる。




 船...




 おっと、あぶない




 危うく衝動でさっきの1億の船を購入してやろうかと電話をかけるところだった。


 結局、駒は船を選び1人で遊んだ。


 久しぶりにやったがなかなか面白く小一時間没頭してしまった。


 最終的には謎に強いコンピュータにボコされて電源を元栓から切ってやったのだが。




 風呂に入りながらふと考える。


 完全にあの滞った船に狂わされた休日だった。

 どんな緊急時でもしっかり動く船はないものか。

 無人船、あるいは空をとぶ飛行船、そうだ、もっとハイテクな船があればこんなことにはならなかったのかもしれない。



「造船王に、俺はなる!!」



 気づくとそう叫んでいた。


 恥ずかしいそのセリフは風呂場の壁に反射し響き渡る。



 あぁ、もう寝よう。













 という理由で御社を希望します!!」


「うーん、不合格かなー。」


「え?」


 造船所のおじさんは優しそうだった。

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