勘違いイケメン(仮)

madoka

第1話

この世界は珍しい茶髪から垣間見える鋭い眼光。

次に目に映るのはその鋭い眼光から落ちたところにある背の高い鼻。

主張が激しくなく見るものを誘惑する唇。

背の高くも筋肉質の体格。


…と彼自身は思っていた。


実際は汚物色の髪色からヌメヌメと這い出る吊り上がった目。

吊り上がった目につながった、鼻筋が短く鼻先は丸みを帯びた鼻。

通常の二倍ほどの厚さの尖った唇。

背が低くだらしのない体格。


…彼から見る彼自身と世間から見る彼にはだいぶ差異があったようだ。




今日は村の旅立ちの日。

毎年20歳になった子供が村から町へと飛び立つ日だった。

俺は今日、幼馴染のミオに告白する。

幼馴染は完全に俺に惚れている。そう確信がある。

俺の前では毎回顔を逸らして頬が赤くなるのを隠すように顔を手で覆う。

しかしながらと奥では俺をずっと見つめていた。

完全に好きだってバレバレだ。

何回か告白しそうになった事もばれている。

幼稚な手法だったがそこもまたかわいい。

正直、一人目の彼女にしてやってもいいかなとは思っている。

同じく幼馴染のハルトには悪いがあれは俺の女だ。

ハルトは一人寂しく町へ出かけるといい。


旅立ちの会合の時間になった。

俺はいつもキマっている髪型を更に整え、会合に向かう。

会合にはすでにみんなが揃っていた。


「よっ!俺のお出ましだぜ。」


みんなは俺が来るのを待ち望んでいたように見える。

人気者は困るなぁ。

俺が来てからはその会合は大盛り上がりだ。

俺の芸、漫談、イリュージョン。

それらすべてがみんなを盛り上げた。

途中、酒が飲めない後輩がいた。しかし、俺が脅して無理やり飲ませると、そいつは嬉しそうに飲みやがった。

そんなに俺に飲ませてほしかったのか。

更に、かわいい女がいた。

俺が近寄ると顔を手で隠した。頬を赤らめているのをばれないようにするためだろうか?

ミオと同じだ。

この女も俺に惚れたか。

俺が近寄るとその女は体を強張らせた。

緊張している姿がまた可愛い。

二番目の女にしてやってもいい。

俺はその女の体を触った。ふにふにとした感触が掌全体から伝わってくる。

不躾にもハルトが絡んできた。


「やめなよ。嫌がってるじゃないか。」


俺は怒った。せっかくいい雰囲気だったのに完全にぶち壊しだ。


「はぁ?女取られたからって出しゃばってんじゃねーよ。」


ハルトは俺の怒りに触れた。

もうどうなっても知らない。

俺は自分の秘めたる力を開放した。

その時、村長が制止に入った。


「これこれ、今日は大事な会合なんじゃ。そう闘争するでない。」


「村長の制止で今回は免じてやるよ。」


俺は怒り心頭ながらも会合のために一歩引いてやった。

そして舌打ちをしながらその場を後にした。


夜風は心地がいい。

先程のハルトの絡みも簡単に忘れられる。

そこにミオがやってきた。

告白するタイミングは今しかないと思った。


「あのさ、ミオ。」


俺に気付いていなかったミオは急に話しかけられて驚いた様子だった。

更に顔を手で覆う。もうこれは惚れ切っている。


「俺、ミオのことが好きだ。町に出て行ってから同棲してくれないか?」


完璧な告白だ。


「え、無理。」


「は?」


一瞬世界から音がなくなる。そしてすべて理解した。


「そうか、同棲は厳しいよな。恥ずかしくて。じゃあ…」


「いや、私、ハルトと付き合ってるから。」


「え、じゃあ俺の前で、顔を赤らめてたのは?」


「は?あぁ、お前が臭いから鼻抑えてただけ。」


「え、でも、でも…」


「はぁ、まぁ、お前と会うのも今日が最後だし全部言うわ。まずお前な、自分かっこいいて思ってるでしょ?まずそれ間違いだから。さらにね?みんなお前のこと嫌いだから。今日の会合だってお前だけ時間遅らせて教えてなるべくお前が暴走しないようにしたんだけど。何あれ?芸とか言ってみんなに見せてたけど…一つも面白くないよ。パワハラ、セクハラ、ホント気持ち悪いよ。さらに止めに入ったハルトにはあんな態度とるし、女の子側もガチで嫌がってたからね。村長様はすごいよね。お前にも

態度変えずに接してさ、まぁ、見限ってるのかな。酷すぎて。ホント町出るなよ。村での成績は最低クラス。武術もカス。成績も嘘ついて見栄張るし。そしてばれるし。

何を以ってその自身が来るの?その態度になれるの?ホント今すぐ消えてほしい。あ、私3年前からハルトと付き合ってて、今度町に出るとき結婚して同棲することになってるから。」


その後、俺は会合には戻らず翌日の夕日を見るまで波打ち際の断崖絶壁で膝を抱えて座っていた。

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