ぼくたちが地球を救いました

葛飾ゴラス

第1部 放課後の怪

1 図書室の幽霊

 その幽霊ゆうれいさわぎは小学校の図書室でおきた。


 放課後、初夏しょかのきつい西日にしびがさしこむ中、ベテラン司書ししょ神崎かんざきさんが図書室をめる準備をしていたときのこと。部屋のおくのほうから物音がきこえた。

(あら、まだのこっている生徒がいるのかしら? でもおかしいわ。さっき図書室の中を見回みまわって、だれもいないことをチェックしたばかりだけど)と神崎さんはおもいながら物音がしたほうへいってみた。

 本棚ほんだな仕切しきられた通路を曲がり、物音がしたとおもわれる場所をのぞく。本棚と本棚のあいだの床にハードカバーの本がみ上げられていた。その数、五十冊ほど。積み上げられた本は、神崎さんの身長をはるかにえて、2メートルほどの高さになっていた。

 その光景を見た神崎さんは、最初はおどろき、つぎにおこった。

「こんないたずらをしたのはだれ!」神崎さんの声が図書室にひびく。

 本が好きで司書になり、この仕事を二十年以上もつづけてきた神崎さんにとって、本を大事にしない者はゆるせない。

 本棚にへだてられたむこう側からパラパラとページをめくる音がした。そこにこのいたずらをした犯人がいる。神崎さんは怒りの足音をらしながら、犯人のほうへと進みでた。

「ちょっとあなた!」

 おかっぱ頭の女の子のうしろ姿が見えた。白いブラウスに赤いスカート。少女は、本棚の前に立ち、本を読んでいるようだった。

 少女を見た瞬間しゅんかん、神崎さんはゾッとした。直感で、少女がこの世の者ではないことがわかったから。

 よく見てみれば少女の体は半透明はんとうめいで、むこう側がけて見えた。それに、すこし床から浮いているようにも見える。

 神崎さんは、恐怖で体が硬直こうちょくして、動けなかった。

 少女は、神崎さんのほうへゆっくりと首をまわす。その顔は──骸骨がいこつだった。

「ぎゃあああ!」

 悲鳴ひめいをあげると体の硬直がけた。神崎さんは必死になってにげた。しかし、両側の本棚から本がビュンビュンと飛んできて、神崎さんのゆく手をはばんだ。ふりむくと、骸骨少女がおってきている。

「ぎゃあああああああああああ!」

 神崎さんは物狂ものぐるいで走る。ころんで床に顔を打ちつけたが痛みを感じている余裕よゆうはなかった。

 やっとのことで図書室の出口から廊下ろうかに飛び出し、とびらをいきおいよくめ、ふるえる手でなんとか鍵をかけた。

 鍵をかけた手のこうに血が一滴いってき落ちた。鼻血はなぢだった。さっきころんだときの痛みがおくれてやってきた。呼吸もはげしくみだれていた。体のいろいろなところに痛みがあったが、とくに右の足首の痛みがひどかった。ねんざしているかもしれない。

 ドンッ!

 図書室の扉がれた。扉のむこう側から〈なにか〉が体当たりしたような衝撃しょうげきだった。神崎さんはあとずさった。

 ドンッ!

 ドンッ!

 その後、体当たりは二度とあった。そのたびに大音量だいおんりょうが廊下に響いた。三度目の体当たりで扉が壊れ、神崎さんは気をうしなった。


 翌日よくじつから図書室は立ち入り禁止になった。

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