私だけの特別なヒーロー
綾月百花
私だけの特別なヒーロー
同じクラスの涼君は、バスケ部のエースで人気者だけど、私だけの特別なヒーローです。
高校生になって、涼君の噂は耳にしていた。
すごくイケメンで、優しくて、格好いいと、バスケも上手で、人気者だと……。
二年になって、涼君とは同じクラスになった。
電車通学の私は偶然、駅のホームでばったり出会った。
話した事がない、ちょっとした顔見知り程度で、なんとなく互いに目が合って、会釈した。
「おはよう」の言葉が出てこない自分が恥ずかしい。
電車は混んでいて、毎朝、憂鬱で、その日も人に押されるまま、奥の方に追いやられた。
学校まで、1本の電車で行けるのは、ラッキーと言えばラッキーなのかもしれないけれど、その電車は、毎朝、混んでいて、気鬱になるほどだ。
一年間過ごせたので、あと二年、我慢すれば、この苦難も乗り越えられる……と二年生を迎えたけれど、実際に混雑した電車に乗ると、やっぱり憂鬱だ。
その日、私の背後に、大柄な男性が立った。
なんだか息づかいが荒くて、気持ちが悪い。と、思ったら、背後からお尻を触られている?
体を捩って、その手から逃げようとしたけれど、男の手が私のスカートの中に入ってきた。
足を伝って、手が這い上がってくる。
私は目を見開いて、周りに助けるように視線を彷徨わせた。
けれど、席に座っている人達は、スマホを開いてそれを見ているか寝ている人ばかりだ。
一言。『助けて』と言うだけで、助けてもらえるかもしれない。けれど、その言葉は出てこない。
「ちょっとごめんよ」
混んだ人をかき分けて、涼君が私の隣に来て、私の手を引いた。
「おいで」
私は頷いた。
涼君は私を壁際に連れて行くと、前から私の顔の両側に手をついて、潰されないように守ってくれた。
「ありがとう」
涼君は「気にするな」と言っただけだ。
電車を降りるときも、私の手を引いて、電車から降ろしてくれた。
駅のホームで、私は改めて涼君に頭を下げた。
「痴漢に遭っていたの。だから、すごく助かったの」
「気づいたから、助けてけただけ、だから気にするな。同じ駅を使っているから、これから一緒に登下校するか?」
「いいの?」
「勿論、いいよ。痴漢撃退になるなら、お安いご用だよ」
「お願いします」
涼君はバスケ部のエースで、私はしがない新体操部の部員のひとり。
体育館でも、教室でも顔は合わせるけれど、それほど話した事もないのに、涼君は地味な私の事を気にしてくれて、すごく嬉しかった。
ホームで、LINEの交換をした。
「他の奴に、俺のLINE教えるなよ」
「誰にも教えない」
「唯のLINEも教えないから」
「ありがとう。助かる」
私は特にモテるわけじゃないけれど、花形の新体操部に所属しているだけで、声をかけてくる人がいるのは否定しない。
エースの恵を紹介してと言われる事の方が多いけれど、新体操部部員もよく声はかけられる。
私は騒がれるのが苦手だ。
私は学校で人気のある涼君とその日を境に、一緒に登下校することになった。
バスケ部も新体操部も朝練があり、授業後も練習がある。
登下校時間は合わせるつもりがなくても、同じになる。
唯一気になるのは、新体操部のエースの恵が、涼君の事が好きだと言うことだ。
私も男らしくて勇気のある涼君を見て、好きになったけれど、好きという気持ちは大切にしたい。
一緒に登下校を始めると、涼君は噂と違って、気さくで、とても話しやすい事が判明した。
良く笑うし、よく話す。
学校の教師の噂やどこで仕入れてくるのというような、超レアな噂も知っている。
聞きはするけど、私は誰にも教えない。
それが、私と涼君との約束だから。
それに好きな人のこと教えたくないよね?
だって、盗まれそうだもの。
私だけの特別なヒーロー 綾月百花 @ayatuki4482
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