第27話 影法師

「ま、待て」


「!」


 二人の間をさえぎるように、前に出る。


(そうだ……いくらなんでも、それだけは見過ごせない……絶対に!)


 それは未練なのか。

 俺は決死の思いでシズ姉ぇを守ろうと、立ちふさがる。

 震える体にムチ打ち気迫だけで体を動かすと、背後からは安堵にまみれた声が響き渡った。


「な、夏也ぁ……っ!」


 女の子の前で格好をつけたがるのは男のサガなのだろうか。

 本当ならもっとまっとうな気持ちで迎えたかった状況は、怒りと悲しみにまみれ、感情がぐちゃぐちゃの中で俺の心を苛んでいた。


「……、…………」


 無機質な目で、俺をジッと見つめる正体不明の殺人鬼。

 やがてシャドウはゆっくりと刀を下ろすと、そのままに静かに納刀してみせた。


 チン、という鍔鳴りとともに優美な仕草で後退してみせるシャドウ。


(さ、下がった……?)


 あれほど殺気を放っていたのに、どういう心変わりだ?

 呆気にとられていると、シャドウは親指を立ててくいっくいっと手前に合図を見せる。


 そして次の瞬間、外から警備兵が突入してきたのと同時に、シャドウは廊下側へと走り去った。


(逃げ出した? いや、付いてこいと言っているのか……? いいだろう。ヤツの不可解な態度を暴いてやる!)


 奴の真意は不明だが、戦う意思が感じられない以上安全だろう。

 そう考えた俺はシャドウの追跡を開始する。


 ――速い。

 ヤツは風のような勢いでMASKの施設内を移動し、それでも時折俺がやってくるのを待って、わざざわ足を止めている。誘われているのは確実だった。


「どこまで行く気だ……ッ!」


 それはいったい如何なる絶技なのか。

 シャドウは刀の一振りで施設内の厚い壁を切り裂き、独自のルートを形成していく。追従していた警備兵までもがいつの間にか振り切られ、気が付けば俺はMASKの奥まった施設で、一人立ちつくしていた。


「み、見失った……ここはどこだ?」


 周囲は真っ白い壁に囲まれている。

 おそらくはラボのようだが、すっかりと迷い込んでしまったせいで、場所の把握ができない。

 立派な作りをしているあたり、それなりに役職のある人物が使っていた設備らしいが、不思議と辺りに人気は感じなかった。


 ……と、床にこれみよがしに物が落ちているのを発見し、俺は眉をひそめる。


(これは……シャドウが置いていったものだろうか?)


 床に落ちているのはA4用紙のファイルであり、その上に一枚、部屋の管理人を示すIDカードが落ちていた。


「こ、このカードに刻まれた名はワイズマン博士? このラボは、殺された博士の研究所か」


 つまりここは、父の後任に宛がわれた研究棟……。

 シャドウに最初に殺害された犠牲者であり、俺が両親の仇として最も大きな手がかりと踏んでいた人物……そのワイズマン博士の研究棟が、ここらしい。


(シャドウの奴……どうして俺をこんな場所へ……)


 シャドウがわざと残していったと思われるファイルを拾い上げる。

 それは何らかの機密を記したファイルであるらしかった。

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