第47話 ポーラスター 宮城
ポーラスターは日が昇る前の夜の道をひたすら走っていた。途中で照明が消え、真っ暗な高速道路を疾走することになったが、黒崎は恐れを知らぬアクセルの踏みっぷりで大型トレーラーを減速させなかった。ライトをハイビームにして闇夜を切り裂き、進む先に落下物や事故車がないことを祈るようにエンジンを吹かす。
この辺りにジャバラはいないのだろうか?
退助の疑問を代弁するように、黒崎が倉木にたずねる。
「ジャバラの反応は?」
「ありません。このあたりは内陸部ですから、ジャバラがいる可能性は低いです。奴らはいまは太平洋側の海岸線に展開していて、本州の沈没状況を監視しているはず。もしここに何かの気まぐれでジャバラが来たとしたら、それは私たちに運がなかったということ。運がなければ、どちらにしろこの先の作戦は上手くいかないでしょう」
退助はだまって暗闇のなかのハイ・スピードに耐えて、シートのひじ掛けを強くつかむ。そうしながらも、倉木が運を口にしたことをちょっと意外に思う。そういえば国見サービスエリアでも、「天啓」という言葉をつぶやいていたっけ。
「夜明けまえに一度とまって朝食にしよう。いや腹時計的に昼食かな? ま、どっちでもいいや。で、そのあと青森か、その手前でもう一度食事だ。ここからはいつジャバラに遭遇するかも分からねえ。おまえら、後悔のないように腹いっぱい食べておけよ」
「その、青森かその手前の食事の時に、ヴァイラス・ゼロのテストをしましょう」倉木が提案した。「まだ、神波羅くんに、ヴァイラス・ゼロを見せてもいませんし」
「ヴァイラス・ゼロってなんですか?」
軽い調子で訊いてみた。
「ほら、あれだよ。コンテナに積んであるもうひとつの荷物」
「ああ。あれですか。あれもドローンなんですか?」
「いいや、ちがうな」黒崎が前を見ながらにやりと笑う。その表情がトレーラーのライトの光芒を映して、能面のように隈取られる。「あれは棺桶だな。退助用の」
黒崎が何かを振っ切るようにアクセルを踏み込む。ポーラスターが身震いしながら加速して、風の唸りが増す。
照明の消えた夜の高速道路を、大型トレーラーが危険な速度へ加速してゆく。
「前方、五キロ。セイレイの群れ。機数百以上」
倉木が読み上げる。
「こっちにくるか?」
アクセルをゆるめず黒崎が訊く。
「その気配なし。他の目標があるようですね」
「もう宮城県だ。ここからは、ジャバラとの遭遇率もあがるだろう。いずれにしろ、向こうがこっちを襲う気になったら逃げる手はない。あとは運を天に任せるしかない。退助、場合によっては後ろのコックピットに入ってもらうぞ。ライトニング・ゼロを飛ばして囮にする」
「あのドローンは優秀ですけれど」退助は期待されてもそれに応えることができない。彼は慌てて予防線をはった。「ジャバラの飛翔体を振り切ることはできませんよ」
「ジャバラのセイレイと空戦できる機体は地球にはねえよ」黒崎は苦笑した。「だから、囮だ」
「でも、それじゃあ一度しかその手は使えませんが」
「カードは一枚だな。そのときは、確実に切り札として使ってくれよ」
「……努力してみます」
そのご、夜明け前に二度、ジャバラの接近があった。一度は無視し、向こうもこちらを無視。二度目は向こうが接近する素振りを見せたので、急減速して停止した。
果たしてそれが効果があったのか、二枚翅のセイレイは離れていった。
朝日が昇る前、空が明るくなった時点で、黒崎はポーラスターをつぎのパーキングエリアに入れた。
小さい駐車場の大型車スペースにトレーラーを停めて、手早く後ろのコンテナを開く。
「始めよう」
ひと言告げて、黒崎が運転席を降りた。
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