妄想世界Anotherの僕ら。

鬼灯あヰず

Episode00 始動。



『プログラム起動。Another、開始。』


「……つ、ついに…!」

少女は一人、部屋で打ち震えた。

「で、出来たーっ‼」

思わずといったように、大きな声で叫ぶ。

「ぷはぁ、にしても、勝利の牛乳は美味い!」

黄色いカップに入ったホットミルクはもう冷たかったが、構わず全部喉の奥に流し込んだ。

「ふぅー。」

満足そうにうなずいて、パソコンの画面を眺める。


『Anotherへようこそ。』


カラフルな背景に、白い文字が映えている。

「うん。我ながら、天才だと思うんだよね!」

パタリ、

「疲れた。……zzz…」

満足そうにつぶやいて、少女は煌々と光るデスクトップの前で倒れた。

デスクトップの付いたコンピューターからあらゆる配線が飛び出ている。

赤、緑、黒、白、黄、紫…

そして、白い壁にかかった青い時計が指すのは深夜二時。

「綴!今何時だと思っているの…って、寝てるじゃない。」

「…zzz…」

少女の口からはよだれが垂れている。

幸せそうな寝顔。

顔が良い訳でも、裕福な訳でもなく。

何かの賞をとるぐらい天才な訳でも、運動神経抜群な訳でも、独特なセンスがある訳でもなく。

何か過去に暗いものを抱えている訳でもなく。

ものすごく努力家な訳でもなく。

東京のどこにでもある公立中学校に通い、毎年恒例の夏の科学研究で迷っているだけの少女。

さて。

世界の誰が、この十四歳の少女が歴史に名を刻むと思っただろうか。


始めようか。

僕と君のAnotherを。

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