第8話 ループ⑤

 蝉がうるさい。ジージーと鳴いている。僕の目の前には血まみれの嘉美が倒れている。そして返り血を浴びた僕の体はドロドロだった。もう戻れない、教室にも帰れない、逃げなきゃ、、、

 必然的にそんな考えが浮かんだ。


「お前のおかげで沙耶が死なずに済む。そこだけは感謝しておくよ。それじゃあ」


 その場から走り出した。血まみれと言ってもそこまでではないのでブレザーを脱いでまた走った。親は共働きなので家にはこの時間居ない。家まで行けば着替えがあるから着替えてまた走ろう。

 嘉美を殺した場所は先生にもバレにくいから見つかるのは明日になるだろう。でも僕たちが居なくなったことで学校は大騒ぎで屋上は閉鎖されると思う。そして僕の救出作戦は完了だ。そう思っていた


      プルルル、ルルル、


 携帯の着信音が鳴った。画面を見ると沙耶からだ。今はちょうど休み時間というところだろう。うちの学校は携帯電話の持ち出しについては何も言われていないのでかかってきてもおかしくはない。

 電話に出ると危ないと思ったので留守電として音声を録音してもらうことにした。


「あ、実!ちょっとさ今騒ぎになっててもうみんなもテンパってるんだよね。どこ行ったかは聞かないよ。この混乱に乗じて私も帰ろうと思うから。そこでなんだけど事情少しだけ聞きたいから◯◯団地の屋上に来てくれるかな。あそこは人来ないから色々話せると思うよ。じゃあね」


 あ、ついに来てしまった。ここは避けては通れない。でも声が少し明るかった気がした。もしかしたら変わっているのかもしれない。この自殺してしまう未来が。でも待てよ、もしこれで自殺しなかった場合ハッピーエンドだけど、僕は


   ただの異常な殺人者となる、、、


 冷静になった時、やっと気づいた、僕はもう後戻りができない状態にあった。


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る