年に一度の宇宙旅行

流花

第1話

やあ、久しぶりだね。今年も君に会えるのを楽しみにしていたよ。






ボクはそう言って彼女に笑いかける。すると彼女もボクの目を見て笑ってくれる。ボクらが会えるのは年に一度、彼女の命日にこの宇宙を駆ける彗星の列車でだけである。それは誰もが知っているあの有名な2人のようで、ただひとつ違うことは、ボクらはなんの罪も犯していないということだ。そんなボクらが別れなければならなくなったのはもう何年も前の話。あの事故の日からだ。



夏、暑い。ボクは夏が嫌いだ。何をしたって暑いから。冬ならヒートテックやらコートやらを着れば何とかなるが、夏は裸になっても暑いのだ。




「ハウト!何ぼーっとしてるの?」



そんなことを考えていると、ボクの顔を彼女の大きな瞳が覗き込んだ。


「いや、ごめん。なんでもないよ」


ボクは咄嗟にミラから離れて妙にいい姿勢をとった。ボクたちは今電車に揺られている。ボクが見たい映画があったのでミラを誘ったのだ。いつもなら絶対彼女を誘ったりなんかしないのに、その時は何故か、勇気が湧いたのだ。ボクはミラのことが好きだ。ミラも多分ボクのことが好きだと思う。でも、それを伝える勇気は生憎持ち合わせていないので、今日、世間一般で言うところのデートに彼女を誘ったことが、僕にとって精一杯の勇気ある行動だと言える。



「楽しみだね」




そう言いながらボクの隣に座って窓の外を眺めている彼女。





「そうだね」






窓の外の世界は退屈で、どこを見ても畑、畑、畑。どんだけ田舎なんだ。そんなことを考えていると、急にドン!と大きな音がして列車が揺れた。その後のことは何も覚えていない。ただ気づいたら列車に乗っていた。宇宙を走る列車にミラとボクの二人きりで乗っていたのだ。





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