赤いヒモ

迷い猫

赤いヒモ

 田舎にある学年に一クラスしかないような小学校で俺は一つ上の先輩に恋をしていた。相手は六年生で俺が五年生。登下校する時が同じグループという薄い関係性だったがそれも積み重なれば恋になるようだ。


葛岡くずおかくんは意地悪だなぁ」


 困ったように笑ってその子は言う。あの頃の俺はなんとも気持ち悪いが好きな子に悪戯をするという馬鹿げたことをやっていた。


「っへ、引っ掛かる方が悪いんだよ!」


 イキリ腐った餓鬼が生意気なことを言っているなと今では思うがあの頃の俺は物語の主人公になった気分でいたのだろう。そんな幼稚に俺に対して彼女がどう思っていたのかはわからないがそれでも好意的に思ってくれていたのではないかと期待していた。


 なぜ人間は答えをハッキリと出したがるのだろうか。知らなくても良いこと、言わなくて良いことが沢山あるというのに我慢ができず口にしてしまう。それによって亀裂が入るとも知らずに。


 ある日の放課後、夕日に染まった屋上。何ともベタな展開だと思うがそれが最適解だと思い込んでいた。彼女を呼び出し俺の胸は高鳴っている。


「話って?」


 怖がっているような期待しているようなそんなものが入り混じった瞳を向けられ息を呑む。これから俺は彼女に告白をするのだ。人と比べて遅いのか、早いのかは知らない。だけど大人に一歩近づける瞬間に変わりはない。


 深呼吸をして彼女を真っ直ぐに見つめる。小柄で年下に見えなくもない彼女に

俺は精一杯声を張り上げて想いを伝えた。


 しばしの沈黙。目をキョロキョロとさせてから彼女は答える。


「ごめん。私、好きな人がいるの。だから葛岡くんとは付き合えない」


 わかりやすい拒絶。俺はいとも簡単に振られた。



 二十年後、東京のとある街に聳え立つ高層マンションで平日の昼間だというのに俺はツインのベッドで横になっている。観たかったアニメは既に消費し、動画も飽きた。運動と言えるものは毎夜腰を振るくらいしかしていない。


 親と絶縁状態になり田舎から東京に出てきた俺は奇跡的にも初恋の彼女と再会した。小柄なのは変わりなかったが言葉遣いや顔つきは当然大人になっていて責任を背負っているのだなと何も背負っていない俺は思った。


「今夜、うち来る?」


 酒がまわっていたのか嫌なことがあったのか、それともただの親切心からかそんなことを言われた。寂しさを感じているようなので俺は即座に頷いた。


 聞いたところによると彼女は大学卒業後、広告代理店に勤めバリバリ働いているらしい。


 気づくと俺たちは同じベッドに入っていた。適当に彼女の愚痴を聞いてワインセラーから出してきた高いワインを開けて飲ませていたらいとも簡単にこの状況を作り出せた。


 屋上でどれだけ想いを伝えても駄目だったものがこんな簡単に手に入っている。彼女の温もりも声もちゃんとメスのものなのだと初めて知った。行為を終える頃には俺は笑うように泣いていた。

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赤いヒモ 迷い猫 @straycat_7

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