花園保育園

花恋

１　私は，夢の保育士になれた！　

　私は３年間の専門学校を卒業し，４月からは小さい頃からの夢だった保育士だ。人々は春夏秋冬の行動をとり，それぞれの季節感ととも行動をしていくのだ。春は，進学，進級とともに，新しい社会人の初陣も飾る。

　春と言えば桜，桜咲く４月，花恋先生は「花園保育園」の保育士になることが決まった。小さい頃からの夢で，子どもが大好きなのだ。給料は高くないという人もいるけど，花恋先生は，もともと子ども好きで，しかも年の離れた妹の面倒を見ていたら保育士への夢が膨らみ，そして，保育系の専門学校を卒業し，今，夢が叶ったのだ。

　３月の下旬に保育園で事前の研修が始まった。給料はもらえないが，これから保育士生活をするのでとても大切なことなのだ。

　初日，園長先生から言われた時刻ぴったりに園の門をくぐる，ぴったりの時間に不安と期待で玄関へと行く。

「おはようございます。今日からお世話になります，森川花恋です。」

「どうぞ，靴箱に名前が貼ってあるから，そこに入れて職員室へ急いで来て！」

　玄関の奥から園長先生のあわてている声がした。職員室に入っていくと，もう，見知らぬ先輩の先生方が着席して，こちらを見ている。でも，園長先生はにっこりして話し出した。

「あのねぇ，学生気分じゃないと思うけど，社会人になったら言われた時刻よりも速くくること，まあ，初日に，今日，一つ大事なことを覚えたね」

　先輩の先生方の視線がとても気になる花恋先生だった。時間通りに来たのに，早すぎたら迷惑だろうと思ったのに，・・・・・，私は，今，どう思われているのかな。

　園長先生のきびしさの中に笑顔で優しさを感じた花恋先生は，園長先生の指導を素直に受け入れることができた。学生の時は担当教科の先生に正しいことを言われても嫌な気持ちだったけど，社会人になった花恋先生は，自分のこれからの成長のために言ってくれたことが良くわかったのだ。

（社会人，そう，私は，保育士になるんだ！）

　花恋先生は，何か嫌なことがあった時に，感情で怒って相手に伝えるのではなく，相手の今後のために相手の身になって教えてあげることの大切さを，今，園長先生から学んだような気がした。花恋先生は園児達にも同じように接することができるか心配だった。

　職員会議で花恋先生は３歳児の星組を受け持つことに決まった。花恋先生は，担任の保育補助か，もっと下のクラスだと考えていたが，園児の成長・発達の点から考えて大事な時期のクラスを受け持つのだ。保育所保育指針では，乳児保育・１歳以上３歳未満児・３歳以上児で示されていて，３歳は保育の上で大事な発達時期なのである。

　花恋先生が初めて発言した。

「あのぅ，私，初めてで良くわからないことが多いので，他の先生にクラスをお願いして，今年は保育補助にしてもらうことはできませんか」

　花恋先生は，他の先生方からの視線で，不安になり心は泣きそうだった。園長先生は，そんな花恋先生を見て，話した。

「花恋先生，保育はチームで園児の教育と養護をしていくのよ，協働活動だから安心して，担任の枠を超えてみんなで園児を育てて行きましょうね」

　花恋先生は心の中で，「やるしかない」と決心し，園児の実態の把握のために前担任はいないので引き継ぎ書類に目を通した。実際は，書面を見ても良くわからなかった。名前と事項，書いてある言葉の意味，結局，自己満足で時が過ぎてしまったのである。じっとしていられない子や多少障害をもっている子，アレルギー体質の子など，気にかけておかなければならない子をメモして，覚えなければいけないと花恋先生の頭の中がいっぱいになった。そんな花恋先生に主任の百花先生がそっと話しかけてきてくれた。

「花恋先生，大丈夫よ，今，子ども達がいないから心配ごとがきっと膨らんでいるの！子ども達との生活が始まったら，覚えられるわ，それに，みんなで協力し合うから，ねっ，大丈夫～～～ふふっ」

　花恋先生は，百花先生の話を聞いて，とても気分が楽になった。花恋先生は，すべて自分で抱え込んでしまいそうなところを百花先生に救われた思いだった。その時々で，園児への援助や支援などを，分からなかったら恥ずかしがらずに教わって，子どもを大切に育み，保護者とともに園児を育んでいこうと心に言い聞かせながら帰宅した。　