わたしだけのヒーロー

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話

 ヒーローを必要とする人は沢山いる。

 だから、わたしだけのヒーローが欲しかった。

 わたしだけをたすけて、わたしだけに愛されるヒーロー。

 それを求めてなにが悪い?

 わたしは、わたしだけのヒーローが欲しかったのだ。


 けれど。

 それは叶わない願いだった。


 現実世界で目前に転がるのは肉槐。

 命を失くした血と肉の塊だ。


「ヒーローなんてものは幻想ね。幻想だもの。最初から、わたしだけのものになるはずなど、なかったのだわ…‥」

 つぶやきは自分の口から出たとは思えないほど、よそよそしく。風に吹かれて消えていく。


 今更なのだ。

 今更なのだが、わたしにはそんなことわかっていたはずだけれど。

 なのに、どうしてこんなにも胸は痛むのだろうか……。


「ああ、そうか」


 この痛みをもたらす感情の名を、わたしは知っている。


「これが……恋ってやつなんだ……」


 わたしは、恋をしていたんだ。

 ずっと前から。

 きっと出会ったあのときから。

 この少年に恋をしていたんだ。


 だから。

 あんな夢を。

 見ないほうが幸せな夢を、見てしまったのだろう。


「わたしを止めてくれるヒーローが欲しかったのではなく……」


 つぶやきは風に流されて飛ばされて。

 目前に転がるのは肉塊。

 もとはヒーローだったものの肉塊。

 もとは少年だったものの肉塊。


「はぁ……」


 わたしは、ため息をつく。

 そして目を閉じる。

 さっきまで見ていた景色がまぶたの裏にありありと浮かぶ。

 わたしをたすけようとしている、少年の姿が。

 わたしの命をうばって、わたしからわたしをたすけようとしている少年の姿が。

 

 手には生々しい血肉の感触。

 そこにあるのは人間の手ではないけれど、わたしの手。

 ヒーローを必要とする人は沢山いる。

 わたしが、欲張りだったわけじゃない。

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