第55話 想いを・告げる・ことさえ



 ――夢生が、「変態へんたい」していく。



 ガクン、と急停止したロボットのように体をびくつかせ――その手に長い爪が生える。

 伸びた犬歯けんしに引っ張られ、歯の構造こうぞうを変えていく。

 けもののうなりのような夢生むうの声と共に、その背中から――肌を食い破るようにして、赤い血と共につばさが生える。



(まだ血が赤い――あれも「半魔はんま」故か)



 血の色をさして気にもめず、満ちる負の瘴気しょうきのおかげで回復しつつある裂傷れっしょうに手を当てながら、ヨハインが笑う。



「なるほど、『魔』をあえて受け入れて得られる力の増強ぞうきょうけるか。だがそんな焼刃やきばでどうなる? そして――そこまでいって果たして戻れるのか?」

「ッッ……その焼刃やきばに大ケガさせられのはどこノドいつだよ?」

「――」

「休める時間ガかせげてよかったな。レピア達ガいナきゃ勝負はついてた」

「そうさ。メス共が俺の味方だからもうお前は勝てない。見物させてもらうぞ、お前が無様にあがく様をな――夢生むうを殺せメス共ッ! この灰田愛はいだめを悪魔の手から守るためになァ!!?」



 サクラが、ふうが迫る。

 レピアの弾丸が飛んでくる。



 夢生は目を閉じたまま一度だけ翼をはばたかせ、



「(感覚がつかめない。やっぱ空は飛べないな)――ごめンネ、みんな」



 目を開け、三人とはまったく違う方向・・・・・・・・に、手を向けた。



「あまり痛クはしないから」



 夢生の背後に数発の黒きくい暗弾の砲手ダークバレットが展開され――発射。

 弾丸はぐに灰田愛はいだめの生徒達がかたまる方へ飛び、



「――――おお」



 全弾、生徒の前で再び盾となった・・・・・・・紀澄きすみふうに命中した。



「つくづくいい女だ。俺の恋堕れんだを破ったか」

「そもそもふうちゃんの中で一番強いのは灰田愛のみんなへの想いだ。俺じゃない」

「しかも速い――恋堕れんだによって実力以上の力が出せたことがあだになったか。だが、」



 ようやく夢生が、迫るサクラへ目を向ける。

 だがそれはあまりにも遅く、



「どうする。お前もう詰んでるぞ・・・・・・・・・。夢生」



 投げられた鉄剣てっけんを辛うじてかわす夢生。

 しかし視界をさえぎった鉄剣てっけんにより、ほぼ同時に迫ったサクラを夢生が視認することはかなわず――――鮮血せんけつ



 サクラの持った鉄剣が、夢生の脇腹わきばら一突ひとつきにした。



「ぐぅううア――――……ッッ!!!!」

かろうじてそらしたか。だが分かっちゃいない――『神性しんせい』にはおよばずとも脅威きょうい祓魔ふつまの力が」

「……そうさ……さッき背中ヲ斬られてわかってた。こんなモノカ・・・・・・ってね」

「!?」

「うううぅううアアアあッッ――――――!!!!」



 鉄剣を持つ手を、その肩をするどい爪が食い込むほどに握り――夢生がサクラを持ち上げる。



 直後。



 レピアの弾丸の盾となり、霧洩サクラは被弾ひだんした。



「!! やるじゃないか――半魔はんま祓魔ふつまの影響が少ないのか?」

「ああああああっ――――!!!」



 脇腹わきばらの鉄剣を引き抜きはなれ――夢生もサクラへ暗弾の砲手ダークバレットを連射。

 風の数倍はあろうかという数を叩き込まれ、サクラは地に倒れ伏した。



「ハァ、ハァ――――うあああアアアアアァァあああッッッ!!!!!!!!」

「!」



 夢生がえ。



 赤き空をめ尽くすほどの黒きくいが、空中に展開される。



「なんて数だよくできました――だがお前。天使をナメ過ぎだ」

「!――?」



 放たれる無限の暗弾の砲手ダークバレット

 その数はレピアの弾数を軽く凌駕りょうがしていた。



 このとき、ほんの一瞬だけ。



「――見せてやれ。レピア」



 レピアが、両翼をザワつかせ。



 甲高い音と共に――――銃口から、無限の光芒こうぼうをあふれさせた。



「ッ――!!!?」



 銃口を破壊せんほどに、レピアの手を揺らしながらジェットのごと噴射ふんしゃされる闇色やみいろの光の奔流ほんりゅう



 それらは射出しゃしゅつされると同時に無数の弾丸へと枝分えだわかれ、せまりくるうなるほどの暗弾の砲手ダークバレットを残らず相殺そうさい

 圧倒的な物量差で、再び夢生に襲いかかった。



「く……ガァァァァアアアアアァァァァァッッ!!!!!」

「さあどうするどうするッ!! 天使の『神性しんせい』は祓魔ふつまの力とはワケが違うぞッ!!」



 ――夢生が弾幕だんまくの中へ突っ込む。



 無数の暗弾の砲手ダークバレット出来得できうる限りの光弾こうだん相殺そうさいしながら、つばさにより得たわずかな揚力ようりょく脚力きゃくりょくで、撃ちらした弾丸をかいくぐりながら――少しずつレピアへと近づいていく。



(あの銃を壊す。もしくはこの眼で動きを止める)



 あと少し。



(どんなダメージを負ってるか分からない。レピアは傷付けられないッ)



 もう少し。



(助けなくちゃ。彼女の心に少しでもむくいて――――そして答えを出さなくちゃ、)



 あと一歩。



(レピアに僕の想いを、伝えなくちゃ――!!!)



 跳弾ちょうだんが。



 背後から夢生の中心を、貫いた。



「――――ギ、ァ――――」

「……本当に最高だ、レピア……夢生を殺したのがお前だなんてな」



 力を失ってつんのめり、レピアをめるようにしてもたれかかる夢生。



 悪魔に絶対の特攻とっこうを持つ「神性しんせい」による影響えいきょう祓魔ふつまのそれとは比べ物にならず――夢生の体はあっという間にすべての力を失っていく。



「…………ごめ、ん」

「――――」



 レピアのほおを涙が伝う。



 夢生の体がレピアからずり落ち、ひざを着き――ゆっくりと前へかたむいていく。



「僕は君に、何、一つ――――」



 ゴトリ、と。



 夢生はレピアの隣に、うつせに倒れ――――そのまま動かなくなった。



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