第53話 夢魔の王に生み落とされし神の雛

「……は、はは。はははははは……! 無様ぶざまな! 追い詰められた果てに、あれだけ拒絶きょぜつしていた己の中の『魔』を自ら受け入れたか! プライドもなければ節操せっそうも無い――」

「いらないよ。女の子ひとり守れないプライドなんて」

「――――」

「それに。節操せっそう無いのはおたがい様だろ、脳ミソチ〇ポ野郎・・・・・・・・

「――ひがむなよ。女でもチ〇ポでも俺に勝てない、」



 ヨハインが飛び。



 人間の頭部を粉砕ふんさいし吹き飛ばせる威力いりょくを持ったりを、放った。



「負け犬」



 手応てごたえ、ならぬ足応え・・・

 ヨハインは自分のりが夢生むうの頭を――



くなよ。竿役さおやく風情ふぜいが」



 ――粉砕ふんさいできず、右手の甲で・・・・・止められた光景を、目にした。



「ッ!!?」



 右手がヨハインの足をにぎり引きせ。



(オイ待てこいつなんで右手ッッ)



 夢生むうの指が。

 二つのつめが。



 ヨハインの顔を、引きく。



「ずぁァッッ!!?」



 力無く倒れる少女達からはなれ大きく後退こうたいしたヨハインがみにく傷跡きずあとをつけられた顔を上げ、指でつぶされかけた両眼りょうめを見開いて前を見る。



 包帯ほうたいが静かな音を立てて地に落ち、



「――いい動きだ。もうけたな・・・・・両眼りょうめ



 顔の前でゆっくりとにぎめられ骨を鳴らす、夢生むうの右手を認識した。



(右手が再生・・……!!!?)



 いな、右手だけではない。

 夢生の体――笠木かさきに付けられていたはずのあざや傷が、一つ残らず消え失せて・・・・・・・・・・いる・・



(バカ言え、夢魔むまにそんな力があるはずが――!!?)

「なんだ。同じ土俵どひょうに立ってみれば案外あんがい大したことないな。お前のり」

「なッ――」

「なあヨハイン――お前ホントは弱いだろ・・・・・・・・・・?」

「!?」

「言ってたよな、天下界ここに一人取り残されたって。だから魔界こきょうに帰りたいって。それって追放されただけ・・・・・・・じゃな|いのか、お前。よくレピアのこと笑ってられたな」

「――貴様ッ、」

「そして天下界ここ下等種ニンゲン相手に王様ごっこか。笑える」

「言わせておけばカンビオンがァッッ!!!」



 弾丸展開てんかい



 ヨハインの周囲しゅういに現れた黒きくい相次あいついで夢生へ向かう。



 夢生は棒立ちのまま被弾ひだん――黒きくいのいくつかが夢生に突きさる。



「ハッ!!! イキりガキが――」

「へえ。こういう仕組み・・・・・・・で、」

「ッ!?」



 前髪でが隠れるようにうつむいた夢生が、さった杭を引き抜き、感触を確かめるようにして――――握り潰す。



「――――こうか・・・?」



 握った手を開いた夢生の周囲に――――黒き杭が大量に展開・・・・・・・・・



なん、」

暗弾の砲手ダークバレット? へえ――案外あんがいクソみたいな魔法だな」



 掃射そうしゃ



「だとッ――!!?」



 逃げまどうヨハイン。

 黒き杭は校舎こうしゃに、地面に相次あいついで着弾ちゃくだん

灰田愛はいだめが黒き杭で埋め尽くされていく。



(ガキが、暗弾の砲手ダークバレットの構造を魔族の本能で瞬時に――)

「今度は、」

「!!?」

俺の番・・・



 移動していた夢生のりが。



 ヨハインのあごを、下から打ち抜く。



「!」

「――にノんなガキィィイイイッッ!!!」



 風をり。

 ヨハインの尾が、夢生の肩口かたぐちを切り裂いた。



「ハァッ!! はいまでイっ――――ッッ!!!?」



 大きく後退こうたい、たたらをんでコンクリートの地面に着地する夢生。

 夢生の制服は大きくかれていたが――そこからは一滴いってきの血も見られない。



 夢生の体には、傷一つついていない・・・・・・・・・



「――バッッ、」

「……加減が上手だな。でも」



 夢生が服を破り捨てる。

 その体をおかすのは、下半身からのぼるようにしてきざまれたあやしげな紋様もんよう



「優しいだけじゃ女は落とせないんじゃないのか。夢魔王・・・

「ッ゛――いやしィィいカンビオン風情ふぜいがぁァァアアッッッ!!!!!!」



 夢魔王むまおう咆哮ほうこう

 砂塵さじんき起こし夢生に肉薄にくはく、その肩につめを食い込ませながら――――王の眼で王子の眼を、射貫いぬく。



「俺ニクッシロシタガヒザマズ下等種カトウシュゥゥウウウウッッッ!!!!」

「――かと思えばこの強引さ。まるで童貞どうていだな」



 恋堕れんだ魔眼まがんが、輝いた。



下ガレ・・・

「ッッ、ッぐッッ!? ァ――――」



 魔眼まがんはじかれ――――夢魔王がちゅうに浮く。



(こ――この夢魔王の魔眼をッッ、)

「ああ。どうりで」



 風を斬り。



お尻がムズムズすると・・・・・・・・・・思った・・・



 夢生の尾が、ヨハインを袈裟懸けさがけにはらった。



「――――ッぐあぁあああああぁぁアァアアアッッ!!!!!?」



 鮮血せんけつ



 魔族まぞく特有のどす黒い血が地をおびただしくらし――黒き蒸気じょうきをあげて霧散むさんしていく。



「ガば……ァ……バカな……なんだ、それはァッッ……!!?」

「へえ。長いな。あんたの粗チンよりず・・・・・・・・・・っと・・



 黒血にれた、しなやかで真っ黒な夢生の尾。

 それはヨハインの尾の長さを超える――ゆうに三倍以上はありそうな、



(……高速の再生能力、転化てんか直後でこの俺と同等以上の身体能力、尻尾、そして魔眼……あり得ない。こいつが夢魔むまであるはずが――……ッ!!!!)

「いいなその血、蒸発が早くて――くさくて目障めざわりでかなわない」

「ぐ、ァ……!!!(こいつ……まさかッッ、)」



 ヨハインは耳にしたことがあった。

 彼自身も安易あんいに口にしていた。



〝『半魔はんま』。異種族いしゅぞく交配こうはいにより生まれ落ちる、半純血はんじゅんけつ禁忌きんきの子〟


〝かの有名な魔法使いマーリンもカンビオンだったらしいが……偉大いだいなる魔法使いとは比べるべくもない格落かくおちのガキでしかない〟



――伝説に過ぎない、と思っていた。



偉大いだいなる魔法使い以外にも、耳にしたことはあった――ゴブリンなど、本能で人間をはらませようとする魔族の中に、ごくまれ受精じゅせいし生まれる望まれぬ子ども達――――「半魔はんま」のうわさ

取るに足らない、与太話よたばなしの中で消えゆくような存在。

だが、その話によれば「半魔」は――――



(……人間と、魔族の血がざりあうことで生まれる――――とんでもない能力を持った、雑種ざっしゅ……!!!!)

「さあ。おしおきの時間だ、化け物」



 薄笑うすわらいを浮かべる、雛神ひながみ夢生むう恋堕れんだ魔眼まがんが――神々こうごうしいほどに、輝いた。

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