第24話 少年・口付ける・十字架
「辛いことがあったの?」
ぼそぼそと、しかし
黒髪に
「ッ……」
顔を隠してしまわんばかりに突き出た、重力さえ
その胸の間から何かを言いたげに、そしてどこか
視線を
どこもかしこもが、どこか
「……は、はは。すみません
「…………」
「さっきのは……気にしないでください。よくあることなんですよ。ホラ、僕なんていつも誰かにパシられて、バカにされて……自分が嫌になって仕方ないことがたまにあるんです。情けない所見られちゃいました。黙っててくれると助かります」
「…………」
「そんなわけなので……今はいいんです。僕には構わないでください」
サクラを遠ざけたいあまり、次から次へと口をつくでまかせ。
このタイミングでどうしてまた女の子なんだ、と
だが、
「保健室。行こう?」
〝私の手をとって。むーくん〟
「ッッ――あなた会長の彼女なんでしょうッ!!? どうして僕に構うんですかッ!」
イライラを抑えきれず、ずきずきと痛む片目に手を当て
(なのにどうして、この人は――――)
〝ん……すんすん……んん、〟
「……!!」
思い出す。
彼女は、夢生のにおいを
すれ違いざま、何も
首筋に顔を近づけて、においを
「困ってる後輩に。手を貸すのは当たり前のこと。
「!!!」
サクラは
その力を
「っ、……ありがとう、ございました……」
感じる
実際、体調も急速に悪くなっているようだった。
食欲の
すべてこの二日のことだ。
(……どうなってるんだ? 僕の、体……)
「…………」
霧洩サクラが腰を曲げる。
背の低い夢生に、顔を近づける。
「ッ!!? なに、を――――」
夢生の額に、彼女の額が合わせられた。
〝うん。やっぱりちょっと熱があるね〟
「――ッ!! や、やめて……くださいっ、先輩……!!」
「…………」
ガンガンと痛む目。
消そうとしても消えない、
「ッっ、く……ぁ……ッ!?」
――少女の額が離れる。
離れ――――代わりに鼻先が、唇が近付き、近付き――
〝もっとちょうだい。むーくん〟
――サクラの鼻先が、夢生のまぶたをかすめ。
「……すん。すん、すんすん……んぅ」
文字通りの目の前で、何かを
「…………!」
「くん……ここが一番……ぅん、ん……」
階段の裏。
背後には壁。
前には夢生とサクラの体で押し潰された、胸。
視界がぼやけるほどの熱。
体の
はぁあ……。と、サクラが息を吐いた。
「――――においが、する」
「ッ!!?」
サクラが顔をわずかに離し、自分の首元にその細い人差し指を差し入れる。
長い黒髪に隠れていた、細い金色の
それは
金色に光り輝く指ほどの長さの
「なに、を……」
「においがする……から、」
「ッ――!!!!」
サクラが左手で、夢生の頭をなでるようにして抱え――彼をその暴力的な柔らかさと
〝どう、むーくん〟
〝私の、おっぱい〟
「――ゴホン、ゴホン!!」
「ッ!!!!!」
「――――」
――その
熱も香りも弾力も、離れた。
「見てしまった以上、注意をさせてもらうよ。学校での
「…………」
「……
「それとも――そう見えたのは俺の見間違いかな?
「……彼、熱があるみたいで」
「そうか、ありがとう。じゃあ俺が保健室に連れていこう。
「…………」
サクラはじっと、眼鏡の奥にある
やがて完全に夢生から離れ、伏里に一礼した。
「よろしくお願いします」
「うん。任された。授業に遅れないようにね、と一応言っておくよ」
――まるで何事もなかったかのように。
霧洩サクラは、夢生の前から去っていった。
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