第11話 生徒会・ツートップ・と

「やっぱお前が相手だと、知らせ聞いてから来ても遅せえな。紀澄きすみふう



 先程美樹本みきもとたちが現れた側、生徒会派の主な領地が集中している校舎方面からの二つの声。

 姿を一目見た途端とたんふうまゆをつり上げ、夢生むうは目を見開いて息をんだ。

 レピアが片眉かたまゆをひそめる。



「あれ誰? むー」

「あ、あの人たちは――」

「おーい、黙ってろパシリちび。いんキャが会話に参加しようとすんな!w」

「…………」

「…………」



開きかけた口を閉じて黙り込む夢生。

レピアはそんな彼を怒気どきをはらんだ目で一瞥いちべつし、無言で視線を戻した。



長い前髪の奥で切れ長のツリ目を細め、黒髪に青のメッシュの男子生徒がくわえたタバコを手に取って笑う。



「そっちの陸奥むつ倒したガイジンちゃんとは初めましてだな。オレ笠木かさきっての。生徒会の副会長でーす、よろしく」

「へーえ。じゃあ隣の奴は」

「そう。彼が灰田愛はいだめの生徒会長、天羽あもう先輩――お二人でわざわざ、何の用ですか?」

「何の用ですかじゃねえよ。仲間こんだけやられていつまでも黙ってると思うなよ」



 目に静かな怒りを灯し、ふうにガンをとばす天羽あもう

 レピアを薄い笑顔で見つめる笠木かさき



 そんな二人の間、少し後ろの方に、真っ黒な少女が立っていた。



(! あの人は……)

「私はただ用事を聞いたまでです。『決着』をお望みなら今からでもお相手します」

佐土原さどはらの奴失敗したんだろうな。ガイジンちゃん、すっかりあっちの味方な感じ」

「顔見りゃ分かる――マジでもう見逃すわけにいかねえぞ、紀澄きすみふう。宣戦布告に来てやったんだよ、今日は」

「ではなぜ霧洩きりえ先輩を連れてきたんですか?」

「……何を言うかと思えば。この女が勝手についてきただけだよ」

「サクラちゃんは会長にマジでホレてんの。そこのチビみたいに脅されて従ってるんじゃないんだよ。いい加減信じたら?」

(……あれが、霧洩きりえサクラ先輩)

「地味子。もしかしてあれがこのガッコのもう一人の女子?」

「ええ。三年生の霧洩サクラ先輩」

「あの会長の女なワケ?」

「……少なくとも、先輩方はそう言ってる」

「マジ……? あんたと違ってガチのネクラ陰キャみたいな奴じゃん。あんなんで、しかもあっち側でやってけてるワケ?」



 レピアが驚き半分、怪訝けげん半分でサクラを見る。

 夢生むうもこうして真正面から見るのは初めてだった。



 紺色こんいろがかった前髪から片目だけが見え隠れする、口元のホクロがやけに印象的な黒ぶち眼鏡の少女。



 サクラは困ったように傾く太眉ふとまゆの下で、前髪からのぞく眼鏡の奥の黒目をおろおろと、しかしゆっくりと夢生むうらと天羽あもうたちの間で行き来させ、やがて諦めたように厚みのある唇をきゅっと締め、うつむく。



 何かにおびえたように縮められた体。

そんな状態でも主張の激しい胸を隠すように、両手を体の前で握っている。



何をどう考えても、不良ひしめく灰田愛はいだめには似つかわしくない少女。

それが生徒会派の、しかも会長の彼女。



風でなくとも、たどり着く結論は同じだった。



「いやいやいや。誰が見てもなんか脅されて、乱暴されてるっしょあんなん。あいつらが興味ありそうなのあのヤバい体しかないじゃん。言いたかないけど輪姦まわされてるよあれは」

「レピアっっ、」

「……何? おいチビ。お前もしかしてそのガイジンに話しかけてるつもりか? 相手にされてねーからやめろって知り合いぶるのは、見ててイテーよw」

「…………大丈夫。僕のことはいいから、レピア。今日は向こうも宣戦布告だって言ってる。これ以上もめごとは起こさないようにして」

「なんで? 別にさっきのザコ共なんてった内に入らんし。あんたもそうでしょ地味子――」

「彼らは違うの。さっきまでの奴らとは」

「あ?」

「レピア。天羽先輩たちにはね――――ヤクザと政治家がついてるんだ」

「……は?」



 少し意外そうに顔をしかめるレピア。

 風が夢生の言葉を継ぐ。



「副会長の笠木は、暴力団『笠木組かさきぐみ』の跡取あととり。会長の天羽は、親が政財界の大物。私と同じく、この灰田愛で唯一『裏』と通じている……そう言われてる二人なの」

「……は?? じゃ何、こいつらって自分の力でトップにいるんじゃないの? ただの七光りじゃん、フツーにダサくない?」

「使えるものは何でも使う。戦争にキレイごとはらねえんだよ」

「安いプライドかかげて、自分だけでやろうとしてるバカもいるけどなー? ガイジンちゃんの横にね」

「…………」



 レピアの横には紀澄風。

 風は笠木の言葉に動ずることなく、ただ天羽達を見つめている。



 レピアは嘲笑ちょうしょうと共に、力無く首を振った。



「……なーにが『拳一つでのし上がれる灰田愛』よ。拳もクソもない力持った奴がツートップ牛耳ぎゅうじってんじゃん。マジサガるわ。地味子の方が百倍マシじゃん」

「あー使える力が限られてる弱者のヒガミは聞いてて気持ちいいな~」

「……やはり何度考えても理解できません、天羽先輩。あなたはどうして、そこまでして灰田愛を支配したがるんですか? 三日天下ならぬ三年天下に、一体何の意味があるっていうんですか」

「言ってもわからねえよ。お前みたいな、自分が絶対の正義だと思い込んでる奴にはな」

「――――」



 風が黙り込む。

 天羽は口から煙を吐きながら足元でタバコを踏み消し、筋張すじばった太い首に金の腕時計がついた左手をやり、ゴキリと鳴らした。



「せいぜい自分の正義に浸ってろ。三日天下ならぬ三ヶ月天下で終わるのはてめえの猿山だ、紀澄。泣いて命乞いのちごいさせてやるから覚悟しとけよ」

「ガイジンちゃんも、とっととこっちについといた方がいーよ」

「レピア・ソプラノカラーよ地雷系男。イタいからカラコン取ってから出直してくれる?」

「レピアちゃんも、次はもうちょっとマシな男はべらせてから来なよ。それとも意外と、侍らされる方が好きな感じ? 男見る目なさすぎでしょ」

「スベってるから、それ。つか何もかも見誤ってるし?」

「うわっ!?」



 がしがし、とレピアの手が夢生の頭をなでる。

 笠木と風が目を丸くする。



「やるときゃやるよ、うちのむーは。たぶん」

「な、何するのレピアっ」

「話し合いで和解できないなら仕方ありません。いつでもかかってきてください、先輩方」

「…………」



 天羽が風達に向け歩き始める。

 それに笠木とサクラも続く。



(こっちに来たっ!?)

「夏が来る前。あと数週間の間に徹底的に叩き潰してやるよ。せいぜい震えて待ってろ」

「その期間では、先に風紀委員会が生徒会を解体してしまうかもですが、悪しからず」



 近付く三人に、思わず目を閉じて身構える夢生。

 しかし生徒会派の三人は、風達とすれ違うようにして歩き去っていく。



「――しかしまあ、」



 ふうの横。



 耳に大量の銀のピアスをつけた笠木が、薄ら笑いを浮かべる。



「なんで今頃になって地元に帰ってきたんだ? 逃げたお前がさあ」

「――…………」

(……紀澄さん?)

「……?」



 含みのある言葉をレピアと夢生にも聞こえるように残し、去っていく笠木。

 その言葉の意味する所を話題にあげようとして――――直後。



 夢生は、それを忘れた。



「…………………………すん」

「?――ッぴきょェッ!??!??」



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