魔王とシャトルとスクールみじゅ着
■ シャーマン将軍の森
「これは姉の下着よ。王家の紋章が入っている」
「罠かもしれない」
遼平が魔王に【鑑定】を使わせた。
「うほっ! ま、まごうことなき、くわいひめさまのぶらぢゃあ☆彡」
小町は、魔王から豆粒のように小さなブラジャーをひったくった。
「いつまでウホウホ鼻の下を伸ばしまくっているのよ」
「見たところ、ちょうど俺たちが入れそうなサイズだ。ここは何なんだぜ?」
遼平が片膝を立てて盛大に
「ロボット格納庫よ。オリジナルのあたしが鹵獲して隠し持っていたの」
小町は爪の先で壁をつついている。ゴマ粒の様なボタンと切手より小さい液晶モニターが並んでいる。
「研究用か。それでもっと強いロボを造れば徴兵されずに済むだろ。何やってんだよ」
「うるさいわね。何も知らない癖に!」
小馬鹿された小町は遼平に噛みついた。彼女が言うには敵方の文明パターン――すなわちシニフィエが合わないために、いくら鹵獲兵器を模造しても効果が薄いらしい。
「面倒な話だな。鹵獲ロボに乗って戦うのは有りなんだろ」
「数が揃えばね……」
小町は吐息をついた。
「って、魔王はさっきから何をやっているんだ? つか、鼻息うるせえよ!」
たまりかねた遼平が怒鳴ると、魔王は振り向いてニッと笑った。
!!!!!”こちらでごじゃりますよ”!!!!!
「うわっ!」
遼平は鼓膜が破れるかと思った。耳元に一戸建て住宅ほどの大きさもある朝顔が咲いている。拡声器らしい。
「メンテナンス樹木(きき)よ」
「機器の間違いじゃないのか?」
「いいえ。樹木(じゅもく)よ。縛ったり鞭打ったりあんなことやこんなことをする枝もあるわ」
小町はロボット整備用に使われていたとおぼしき梢を触る。
「外が想像しくなってきたでごじゃりますよ」
魔王が格納庫の扉をそっと開けると銃弾が飛び込んできた。
「「「うわ〜〜っ」」」
三人は一斉に飛び出した。
ウルトラファイトだけに図体がでかく、格好の標的となる。
■ 王立植物園
滅亡はしっかりと確実に迫っている。
「どういう事?」
慈姑姫は素っ頓狂な声で迎えた。
妖精王国に差し出した筈のウルトラファイトが戦略爆撃隊を引き連れて戻って来たのだ。もっとも、彼らは魔王の威力を目の当たりにした。おいそれと手出しは出来ない。
ただ、キィキィとヒステリックに騒ぐだけだ。
「出てこい、反逆者ども。抵抗しなければ、法廷で死刑判決を受ける権利を与えてやる。それとも、今すぐ焼かれたいか?」
猫が黒板に爪を立てるような声が降ってくる。もちろん、慈姑姫は応じない。
「どのみち、殺す気じゃん」
小町はウルトラファイト生産プラントの制御卓を必死で叩く。この王立庭園は単なる農産試験場ではない。樹齢五万と六千年を誇る父祖樹が宇宙から飛来した頃から慈姑の根拠地として栄えてきた。
「むざむざ滅ぼされてたまるもんですか。今日まで妖精王国と不毛な争いを避けてきたけど、自衛権を発動するわ」
慈姑姫は小町に徹底抗戦を命じた。ウルトラファイトに裏切られても他に手駒はある。
ここは旧カリフォルニアとネバダの州境にあるタホ湖だ。紀元前七万年、最後の氷河期が雪解け水をシェラネバダ造山帯に注ぎ込んだ時代に地球外来種が根付き、植物知性体を育んできた。タッシーというUMA(未確認生物)の目撃例が在るが、小町によれば地下茎を見誤ったものだという。
「ムナジモ族、かかれ!」
慈姑姫の号令一下、首長竜そっくりな巨獣がウルトラファイトに襲い掛かる。茶褐色のツタがぐんと伸びて、頭の部分が放射状に割れる。
遼平は足を捕まれる前に眼光を放った。ムナジモはヒュンっと湖面を鞭打って光線を逃れた。真紅のレーザービームが遅れて撃ち込まれ、水蒸気爆発が散発的に起こる。
両者のやり取りを観察していた王国軍は、ムナジモのリーチを測り、ぎりぎりの高さまで降下してきた。
ムナジモはそれを捉えようと、首を伸ばす。
同じ手は一度しか通用しない。ワイバーンの編隊が一斉に高度を下げ、櫛のようにムナジモが揃う。
ワイバーンがムナジモの首めがけて細く絞った火焔を吐く。モウセンゴケ科の巨大食虫草は横なぎに切断された。
「対策は会得した。手の内は伏せるが此方の軍師たちが次々と立案中だ。抵抗は無駄だ」
戦略爆撃隊はそう告げると、湖に爆弾を投下し始めた。
「気化爆弾よ。潜って!」
小町は魔王のセーラー服を素早くひん剥いて、スクール水着姿にした。
「何をするでございますか、破廉恥姫様」
「うるさいわね。さっさとブルマー被りなさいよ」
「」
魔王は絶句した。その間にも小町は破り捨てた残骸の中から、濃紺のブルマを拾い上げ、頭から被せる。
「髪を焼かれるわ。遼平も早く」
遼平は言われるままに制服のスカートをめくって脚からブルマを引き抜く。濡れそぼった髪をまとめる。
「潜って!」
小町が二人を湖底へ引きずり込んでいく。遼平が見上げると、激しく波がゆらめいている。ぎらつく輝きがいくつもよぎっていく。迎撃ミサイルか、空爆か判らない。すさまじい攻防が繰り広げられていることは確かだ。
「このまま水草になるつもりかよ」
遼平はゴボゴボと泡を吐いた。さいわい、ウルトラファイトは両棲のようだ。先頭を泳ぐ小町の行く手に鈍色の大きな気泡が浮かんでいる。
「案内するわ。来ればわかる」
導かれるままに二人は銀色に光る巨大な浮袋に辿りついた。長さは数十メートルほどの楕円形で、ゴンドラの無い飛行船そのものだ。
「まさか、こんなモンを空に浮かべて逃げるつもりか?」
怒る遼平を魔王が遮った。「魔力がみなぎっておりますよ。ギンギンでごじゃります。感じませんか?」
「ゲバルト、あなたなら飛ばせるでしょう」
小町は決定事項のように事を進める。
「待て、標的にされるぞ」
「そのつもりよ。まさか、これに乗って逃げるとでも思ったの? あなた、そこまで間抜けじゃないわよね」
遼平はぶぜんと否定した。
「いくつか、おとりに使うわ。魔王、笑気ガスを注入してちょうだい。そして、遼平ならわかるでしょ。亜酸化窒素の使い道を」
小町がスカートをひらひらさせて浮袋の裏に回る。遼平はつい下から覗き込んでしまう。と、視界の隅に鋭角的な物体が見えた。
「大気圏往還機(スライスシャトル)じゃねーか! これだけの工業力があるんならロボットなぞ」
「イチコロだっていうの? 言ったでしょう。シニフィエが異なるって。それに『工業力』ではないの。これらは慈姑の作物よ」
「農産物だってぇ?!」
「そうよ。植物は体内で足りない元素を合成できるのよ。生体常温核融合といえばいいかしら。人間はどんなに頑張っても水と炭酸ガスから炭水化物は造れないわ。炭素は酸素より反応しにくいもの。光合成はそれを容易にするのよ」
「だからといって、重金属までは不可能だろ。シャトルの素材は軽金属だぜ」
「原子核中の陽子と中性子の対を容易に取り外しできるなら、どんな元素も造れる原理よ」
小町は議論する間にもスイスイと湖水を泳ぎ渡り、コクピットに達した。そして、魔王に命じた。
「エアロックに入ったら【麻酔】の呪文を発動させて頂戴。気絶の心配はないわ。機内は魔力が満ちているから」
「亜酸化ちっそ、でごじゃりますね?」
「高機動バーニャの燃料だぞ。大気中では強力な爆弾になる。扱いに注意しろよ」
遼平はようやく小町の作戦内容が読めてきた。さっきの気泡に笑気ガスを詰め、ワイバーンどもにぶつける。その混乱に乗じて大気圏離脱する腹づもりだろう。
小町が暗証番号を叩くと、扉の周囲に結界が張られ、排水が始まった。半球の表面にルーン文字が長方形に並んだ。ここから入れと言うことだろう、。
「召喚ゲートまでの推進剤が足りないないの。頑張って作ってね」
小町は濡れたセーラー服をブルマやスク水ごとさっさと脱ぎ捨てた。貧乳にピンクのアンダーショーツ一枚で座席に足を投げ出す。
そのつま先がポンポンとゲバルト三世にあたる。
「トホホ。人使い、いや魔王使いが荒い姫様でごぢゃりますよ」
「魔王、さっさと働け」
遼平に言われるまでもなく、魔王は整備樹木を使役してシャトルの調整をはじめた。
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