第80話 異名

 一流選手の中の超一流選手であったり、もしくは愛されキャラだったりすると、異名がつくことがある。

 樋口の「鬼畜眼鏡」などというのは彼の女関係のひどさからついたものである。

 本人としては全員とただのセフレの関係だったと主張しているが、既婚者がそういうことをするのはどうなのか。

 まして子供が四人もいるのに。


 大介であれば、破壊王と書いて「クラッシャー」と読んだり、アメリカに来てからは「ザ・ダイ」「ダイ・ハード」などと呼ばれている。

 単純にホームラン王を圧倒的に取っているので、キングなどとも呼ばれたりするが、これはあまり定着しなかった。

 直史の場合はもう「ザ・パーフェクト」で誰も異論はないだろう。

 他には「ジェノサイダー」などという物騒な呼び方をされることもある。

 ただ最近は「サトー」という本名そのものが畏怖されて呼ばれているが。


 武史にはまだそういったものはない。

 時々「105」の数字を書いた旗が振られていたりするが、それはおそらく球速を示したものなのだろう。

 ただ最近「20オーバー」という言い方で示されることがある。

 一試合20三振以上を、今年で二度も達成しているからだ。


 そしてこの試合も、期待通りの結果が出そうである。

 初回は少し微妙であったが、およそ三回からは三振を続ける。

 球速のあるピッチャーはノーコンであることが多いが、武史の場合はアウトローいっぱいに投げるコマンド能力がある。

 もう一つ重要なのは、高めいっぱいとそこから少し高めに外す能力。

 三振とイージーフライを打たせるためには、このコースが重要になる。

 

 打てると思って振ったボールが、ほとんどは空振りなりファールチップ。

 運が良ければ後ろに飛んでいって、もう一度機会を与えてもらえる。

 ポテンヒットは二度は出ない。

 ほぼ三振の合間に、わずかにフライが上がるぐらいだ。

 今シーズンワシントンとの対戦はこれが初めて。

 その初対決にこういうことをされると、野球をやめたくなる人間がたくさん出てしまうだろうに。

 じゃあやめればと言ってしまうのが、本当に武史に悪意のないひどいところだ。

 

 リードしている坂本としては、これだけのパワーピッチャーであると、判断は簡潔であればいい。

 特に本格的に稼動してからは、まともにボールはおろか、リリースする手も見えないはずだ。

 チェンジアップが高めに浮くことだけは心配であるが、それでも狙いを絞っていなければ、やはり打てない球であろう。

 坂本はわざと、セオリーを外してリードしている。

 武史の球威があれば、セオリー通りでもまず打たれることはない。

 だが初回のホームランは大きかった。

 あれで武史の力を、必要以上に見せ付ける必要が出来てしまったのだ。


 この試合も圧倒的に三振を奪っていく。

 直史の場合であれば、打たせて取るため守備に目が向き、バッティングが疎かになって、得点がやや落ちるということがある。

 ただ武史の場合は、打たれてもイージーなフライ。

 そのためにかえって、ポテンヒットは打たれたりしているのだが。

 ちょっとぐらい守備が手を抜いていても、その分打ってくれればそれでいい。

 割り切りの強さも、武史のあっさりとした判断力の、ストロングポイントである。




 この試合、大介は五打席で四出塁した。

 フォアボールが敬遠を含んで三つある。

 むしゃくしゃしながら打ったボールは、珍しくも単打であった。だが打点にはつながった。

 そして珍しくも上位打線ではなく、下位打線の得点が多い。

 点差が開いてくると武史は、もう八分の力で投げている。

 それでも球が走って、空振りが簡単に取れてしまう。


 最終回のワシントンは、とにかくストレートを打とうとする。

 だがそれにチェンジアップやナックルカーブを混ぜれば、それだけでもう打てなくなる。

 最終的なスコアは7-1で勝利。

 武史の奪三振は20個に到達した。


 奪三振の記録は、奪三振率も記録されるが、タイトルとして存在するのは奪三振数である。

 昨年の直史は高い奪三振率を誇ったが、先発陣の中でも三番手であったし、リリーフ陣などはさらに高い選手がいた。

 しかしタイトルを取ったのは直史である。

 投げたイニング数が圧倒的に多かったからだ。

 31登板の27完投。

 それだけ投げれば奪三振の数も増えるだろう。


 しかし奪三振のシーズン記録は、それよりもずっと上の数が記録されている。

 もっとも時代が違うので単純な比較は出来ないのだが、19世紀には68先発の66完投で583イニングを投げて513奪三振というものがある。

 さすがにこれは時代が違いすぎて、比較することは出来ない。

 かろうじて今と参考に出来る大戦後の記録としては、ノーラン・ライアンを挙げるべきだろう。

 生涯通算5714と、奪三振の記録を持っているライアン。

 その彼のシーズン奪三振記録が、現在は並べて見るべきだろう。

 シーズン383奪三振。

 あるいは21世紀以降なら、ランディ・ジョンソンの372奪三振。


 直史は本来、奪三振率が高いピッチングスタイルではない。

 しかし多くのイニングを少ない球数で投げることで、昨年は330奪三振を記録した。

 実はこれは現役の選手の中では、最も多い奪三振数である。

 この直史の記録と比較して、武史は四試合で81奪三振。

 そもそも上杉の去年のワールドシリーズの一試合を除けば、一試合20奪三振が従来の記録。

 武史の奪三振能力は、少なくとも今の時点では、普通に投げたら過去最高レベル、というものなのである。


 もしも一試合に20奪三振などを、20試合だけでも達成したとする。

 するとその時点で、MLBのシーズン記録を抜く。

 そこまで極端に成功しなくても、30試合以上に先発して平均で13個の奪三振を記録すれば、記録は更新されることとなる。

 ストレート主体のピッチングであれば、いずれは研究されて三振が奪えなくなるかもしれない。

 フライを打たせてしまう方が、楽なことは確かだからだ。

 だが武史は直史の一年目も、上杉と共に奪三振の記録だけは渡さなかった。

 二年目は両者が怪我をしたため、そのタイトルも含めて投手五冠を成し遂げた。

 その時の奪三振数は、341個。

 27勝して341個なのだから、30勝して330個のMLBでは、三振が取れなくなっていると言うべきか。

 もっとも本人としては、球数を減らすために、奪三振を減らしたという意識が強い。


 投げたイニング数が多くなれば、奪三振も増えるはず。

 そのはずであるが実際は、イニング数を稼ぐためには、三振を狙わずに球数を少なくアウトを取っていかなければいけない。

 直史の奪三振率はNPB時代の二年目、13.05であった。

 しかし去年のそれは、10.83と低下している。

 もっともそれでも、チームの先発陣ではナンバーワンの奪三振率。

 今年は極端にそれが落ちているが、間違いなく意図的に三振を奪わないピッチングをしている。

 直史にはそれが可能だからだ。




 直史のやっていることは確かにすごい。

 序盤から全くランナーを出さず、試合終了のパーフェクトに向けて、どんどんと盛り上がっていく。

 映画を見ているように、最後にクライマックスが来る。

 しかし途中でヒットが出たりすると、試合に対する集中力も途切れてしまったりする。


 対して武史の奪三振は、一つ一つが大きな花火だ。

 大介のホームランと同じだが、三振は一試合に10個以上も奪える。

 さらに言えば105マイルのストレートは、その数字だけを見ていても面白い。

 数字は嘘をつかない、と言われる。

 球速表示は時々間違うが、それは嘘をついているわけではない。

 105マイルのストレートも脅威だが、100マイルで手元で動く球も脅威だ。

 これはやりようによっては、内野ゴロを打たせることも出来る。


 武史のムービング系をバッターは、どうにかカットにはしようとする。

 内野ゴロを打つぐらいなら、まだストライクカウントが増えたほうがマシのはずだ。

 しかし追い込まれたら、ギアを上げたストレートが来る。

 ほとんど打てないストレートであるが、まだしもこれを狙った方がいい。

 ホームランも打っているし、ポテンヒットもこの二つだ。

 ただ内野フライも断然増えていってしまっているが。


 やっと一点を取り、他に二本のヒットを打ったのに、ワシントンのベンチは死んだような顔をしていた。

 一試合に20個も三振を奪われるというのは、そういうことなのだ。

 ここだけは兄弟も似ているのか、フォアボールでのランナーの出塁はない。 

 もしもあるとすれば、ナックルカーブの制球ミスで、デッドボールになることぐらいか。

 ムービングとストレートで三振が奪える。

 そんな本格派の極みのようなピッチャーとの対戦の後なら、少しは他のピッチャーを楽に感じてもおかしくはない。


 試合の翌日がまた試合で、とてもメンタルを切り替えられなかったというのが理由なのか。

 第二戦の先発はジュニアで、右のピッチャーである。

 チェンジアップにフォーシームとツーシームを組み合わせるのは、やや武史と似ている。

 だが球種は武史よりも少ない。

 そもそも武史にしても、身近にいた人間が人間だったので、自分の持っている球種が多いとは思っていない。


 打とうと思えば打てるピッチャーだ。

 だが昨日武史からホームランを打った三番も、以降は三連続三振。

 これに関しては坂本がちょっと注意して、決定的なダメージを与えたと言える。

 打てると思っているバッターは、確かに打ってしまったりする。

 だが逆に打てないと思ったバッターは、全く打てない。

 自信を喪失したバッターは、しばらくスランプに陥ってもおかしくはない。

 おそらくこの年、直史に武史と、この二人のピッチャーと対戦することの多い、ナ・リーグ東地区とア・リーグ西地区のチームは、他の地区やインターリーグの試合で、ひどい成績となるだろう。

 まして今年は、この二チームの所属する地区同士で、インターリーグの対戦がある。


 運が悪ければ、武史に叩きのめされて、さらに直史に丁寧に叩きのめされる。

 あるいは逆に、直史に叩きのめされて、さらに武史に容赦なく叩きのめされる。

 もっとも一カードだけの対戦なので、当たらないチームもあるだろう。

 それでも今年のこの二つの地区は、完全にバッターにとって鬼門となっている。




 ワシントンが立て直すとしたら、それは第三戦で勝つしかなかった。

 日程の関係で、第六のローテとして使われることの多いマクレガー。

 去年はメトロズの強烈な援護があっても、星の数は五分。

 この試合でどうしても避けたいのは、初回の表のワシントンの先制点。

 坂本の感覚的には、そこをどうにか乗り越えれば、おそらくこの試合は勝てる。


 マクレガーは先発ローテに入ったり、あるいはリリーフ登板をしたりと、完全にローテのピッチャーとなっているわけではない。

 便利に使われているピッチャーだが、それでもメトロズの打線を考えれば、それなりに勝って当たり前の能力は持っている。

 坂本としては、ここは無難に投げてもらって、あとは打線の援護を頼むべきだ、と考える。

 ただメトロズはなんだかんだ言って、アナハイムに比べると、リリーフ陣が弱い。

 勝つときは大量点差、負ける時は接戦。

 こういう場合が一番、ポストシーズンでは粘りがきかないことになる。


 マクレガーよりワトソンの方がいいのでは、と思ったりもする。

 ワトソンはリリーフとして投げているが、ロングリリーフの方が多い。

 将来的にローテ候補として考えられていて、去年は一時期ローテを回していた。

 年齢的にもマクレガーは、今年で37歳になる。

 だからこそここで落ちたら、もうそのままクビになるということだろうか。


 ローテで回せないところに入ってもらって、その試合を埋めてもらう。

 勝ち負けとは別に、そういうピッチャーも必要なのだろう。

 坂本としては自分なら、なんとか勝たせることは出来ると思う。

 だが37歳のベテランが、年下の日本人キャッチャーのリードに頷くかというと、そこまでして関係を築くよりは、さっさと落ちて切られてほしい。

 使えるものはなんでも使う樋口とは、坂本はそのあたりの考えが違う。


 初回、いきなりワシントンはツーランホームランで先制した。

 だがベテランはここで崩れることなく、冷静にスリーアウトを取る。

 負けるにしても初回や二回で大炎上ということはない。

 このあたりはさすがにベテラン、自分の立て直し方を知っている。


 だがやはり、今のメトロズではもうあまり出番はないのではないか。

 他のチームであればまだ、この経験を重視してくれるチームもあるかもしれない。

 おそらく放出されたとして、格安でどこかの球団が拾う。

 今はまだ四月なので、契約には問題はない。


 さすがにこれをトレード要員として、どういった選手が取れるか。

(リリーフがもう一枚)

 キャッチャーとして見た場合、メトロズはまだリリーフが足りない。

 勝ちパターンはバニング、ライトマン、レノンというリレーであるが、バニングもライトマンも、かなり微妙なのだ。

 あるいはワトソンをこちらに持ってくるのか、と思わないでもない。

 マクレガーはだらだらと相手を封じるのには向いているが、短いイニングをしっかり投げさせるのは難しい。

 これに若い、あるいは若くなくてもいいから、今年一年使えるリリーフでトレードは出来ないものか。

 そのあたりはGMの手腕による。

 そしてここで試合に勝っておけば、マクレガーは売りやすい選手となる。




 五回を投げて五失点と、かなり微妙な本日のマクレガー。

 メトロズは四点を取っていて、ここでワトソンに交代する。

 メトロズの得点力なら、四イニングあれば確実に逆転出来る。

 そしてその間に失点しなければ、ワトソンの評価はまた上がる。


 ワトソンはまだ今年で23歳と、それなりに素直なタイプのピッチャーだ。

 ピッチャーの本質は、素直な人間などまずいないと坂本は考えているが。

 武史はかなり素直で、本当にピッチャーなのかと疑うことはある。


 若いピッチャーの操作は、難しいので面白い。

 MLBのピッチャーというのは、どいつもこいつも一癖あったりする。

 日本人ピッチャーというのはどうなのか、と坂本が思うに、直史は明らかに日本人ピッチャーとしては例外的な存在だ。

 もちろん武史もそうである。


 自分もピッチャーだったから分かるが、基本的にピッチャーはキャッチャーには、アイデアマン以上の存在でいてほしくないのだ。

 最終的に何を投げるかはピッチャーが決める。

 日本の場合はキャッチャーが決めることが多い。

 それが気に食わなくてアメリカに来た自分が、キャッチャーの面白さに目覚めるというのも、不思議な話ではあるが。

 試合をコントロールしたいという坂本の欲求。

 その欲求に応えるのは、高校時代はピッチャーというポジションであった。

 だがプロではキャッチャーなのだ。

 クローザーをするなら、また話は違うだろうが。


 ワトソンは三回を投げて一失点。

 及第点かもしれないが、まだ甘いところがある。

 去年は七先発で四勝一敗と、先発としての適正は見せていた。

 だが一年をかけてローテとして投げられるかと言えば疑問が残る。


 メトロズの先発ローテ陣の中で、今年で契約が切れるのがウィッツで、FAになるのがオットー。

 このあたりはちょっと構成がアナハイムと似ているな、と感じる坂本である。

 ワトソンはやはりマクレガーの代わりに先発として出して、来年以降のローテに加えるべきだ。

 そうは思っても坂本はGMでもなし、チーム作りはGMに任せるしかないのだが。




 結局この日は、5-6でメトロズの敗北。

 一度も追いつけなかったため、負けはマクレガーにつく。

 五回五失点であり、味方も五点は取ったのだ。

 それでも負け投手になるあたり、マクレガーには粘りが足りない。


 本人だけの責任ではないが、運というのも重要な要素だ。

 これはそろそろトレードか、あるいはカットされることも現実的になってくる。

 ロングリリーフで試したい素材がワトソンであるのなら、マクレガーは谷間のローテとして生きるしかないのだ。

 だがワトソンをそのポジションで使うなら、もうマクレガーは敗戦処理として使うしかない。

 年俸もそれほど高くはないので、その役割で置いておいてもいい。

 だがそれなりに長くMLBでやってきた坂本は、これはトレードかカットか、いなくなることは間違いないな、と思った。

 敗戦処理の場合でも、試してみたいピッチャーというのはいるのだから。


 その坂本の予想は当たった。

 ワシントンとの三連戦の次は、ホームでのアトランタとの三連戦。

 しかしその試合の前に、マクレガーのロッカーは空になっていた。

「トレードってこんな感じなんだ」

 武史はちょっと驚いていた。スプリングトレーニングでも、最初は100人からいた人間が、どんどんとマイナーに落ちていったものだ。

 だがやはりMLBというのは、人間の移動に関してドライである。


 昨今の日本は、トレードは主流ではない。

 ドラフトと育成。FAはそれなりに移籍はあるが、それでもあまり多くはない。

 そもそも日本の場合はアメリカと違って、FAになるまでの時間が、長すぎるとは言われている。

 国内FAでも高卒は八年、大卒は七年。

 そして海外FAであれば九年だ。


 ドラフトでどっさりと取って、育成枠もしっかりと使って、そしてその中から次の戦力を見つける。

 パの球団の場合はその傾向が強く、また球団の資金が多ければ、それだけの環境も作れる。

 FAの移籍はパからセへというのが多い。

 在京球団が三つ集まっているセの方が、色々とセカンドキャリアで有利、などと言われたりもする。

 もっともその場合、競争する相手もさらに増えるわけだが。


 大介もこれまで、モーニング、ランドルフ、カーペンターといったあたりの、主力としてチームを優勝させた選手が、契約切れやFAで、普通に去っていくのを見てきた。

 他にも主力というほどではないが、それなりに貢献してきた選手でも、オフシーズンには違うチームとどんどん契約をしていく。

 人材の流動性という意味では、本当にアメリカは日本とは比べ物にならないのは、野球の世界でも同じだ。

 日本も独立リーグや、台湾、韓国への移籍など、NPBでは戦力外とされた選手が、他の舞台を求めるのを見てきた。

 だがアメリカはもっと簡単に他の球団のマイナーテストを受けたり、中南米のリーグに行ったりもする。

 マクレガーの場合はトレードで、先発が崩壊しているチームが、中堅どころのリリーフを一枚切ったらしい。

 なるほど確かに、そこはメトロズの戦力の薄い点だ。


「けど一言もなくさよならって、かなりアメリカはドライだなあ」

 武史としてはシーズン中に、こんな素早くトレードがまとまるのを見るのは初めてであった。

「トレードはあって当たり前の世界なんだよな。義理人情の日本人には、なかなか理解しづらいものがある」

 そう言う大介にしても、ライガース時代は大きなFAなどは、西片がレックスに移籍したぐらいであろうか。


 今はまだマシなのだ、と昔を知る選手やファンは言う。

 FA制度が導入された頃などは、FAで移籍する選手は裏切り者扱いされたのだとか。

 西片の場合は家庭の都合もあったため、許されていたような部分はある。

 そしてFAで取った選手が働かないというのは、タイタンズやライガースのあるある話である。

「わざわざチームを変えるなんて、めんどくさいと思うんだけどなあ」

 じゃあなんでお前はここにいるんだ、というような台詞を武史は言う。

 実際のところ武史は、ほとんど全てが自分の意思どおり、人生を送っている。

 プロ入りの時も競合があってなお、レックスに問題なく入れた。

 色々な意味で強運なのだ。


 このアトランタ戦、武史もまたローテが回ってくる。

 開幕でパーフェクトを食らうという、MLB史上唯一の例を経験してしまったアトランタだが、その後はちゃんと持ち直して、地区順位は二位をキープ。

 もちろん首位はメトロズで、圧倒的な差が既に存在するのだが。

 契約の中に、トレード拒否条項があってよかったな、と武史は感じている。

 だがこの先遠征をしていく中で、住みたいと思える街が出てくるかもしれない。

 そのあたりは奥さんとの話し合いも含めて、決めなければいけないが。

 やはりお金は大切だよな、と思考の果てにそう到達する武史であった。

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