第66話 欠点がない

 絶妙なバランスの間で、試合が成立している。

 点の取り合いではなく、極めてロースコアの展開。

 MLBとしては点の取り合いの方が、画面の上では迫力があっていい。

 だがリアルタイムでこれを観戦している人間は、誰もが目を離せない。

 直史のピッチングは、投球芸術。

 同じようなコースに投げても、今では機械が厳密にその軌道を、画面に映してくれる。

 それがストライクなのか、というボールもちゃんとゾーンを通っている。

 

 対するメトロズの二人目ウィッツも、その直史用ストライクゾーンが適用される。

 そのため審判のジャッジはやや、ピッチャー有利になってくる。

 ウィッツのような左のサイドスロー、しかもコントロールがいいピッチャーは、それだけで有利になる。

 ただ五回の表もアナハイムは、ランナーを得点圏に進める。

 チャンスに打順が回ってきたのは、またしてもターナー。

 だが右打者相手に左のウィッツの優位性はさほどない。

 ここでメトロズはターナーを歩かせるようにウィッツに指示を出す。

 ワールドシリーズで、直史は大介を敬遠しないのに、メトロズのピッチャーはターナーを敬遠するのか。

 もちろん敬遠ではなく、キャッチャーは座ったままだが、それでも外中心となる。

 ターナーは歯がゆいだろうが、ベテランのウィッツはそこはしたたかだ。

 味方側のファンさえもどかしく思うだろうが、ここはチームの勝利を優先する。

 それに、大介なら打てるコースなのだ。

 ターナーには打てないだけで。


 ツーアウト一二塁という得点の機会。

 ここで一発が出れば、試合は決まるだろう。

 先ほどは凡退したシュタイナーだが、この打席には期すものがある。

 もっともウィッツは変化球を駆使し、とにかくジャストミートだけは避ける。


 それでもシュタイナーの打棒は、ボールを上手く掬い上げる。

 外野まで飛んでいくボールは、必死にレフトが追いかける。

 そしてダイビングキャッチという、これまた大技の守備で魅せた。

 抜けていれば一気に二点。試合を左右する一打であった。

 だが大介の長打性の当たりが野手のほぼ正面だったように、幸運は一方にばかり味方するわけではない。


 大介も自分の守備位置から、打球の行方を追ってほっとしていた。

 ツーアウトなのでランナーはスタートを切っていたから、今のが抜けていたら終わっていた。

 一塁ランナーまで、まずホームに帰って来れただろう。

 そしたら3-0となり、残りの打席で大介がホームランを打っても、試合には負ける。

 おそらく直史はそうなれば、大介をあえて完全に屈服させようなどと、全力投球はしないであろう。

 もしくは好き放題に攻めてきて、大介は対応できないか。

 二点差までが現時点での、逆転勝利出来るギリギリのラインだ。


 レフトのシュミットも、今のは迷っただろう。

 だが普通に抜けていても、一点は確実であり、二点目も入っていた可能性が高い。

 それならばと賭けて飛び込んだのだ。

 結果的には大成功だ。スーパープレイにスタジアムが沸きあがる。


 こういったプレイでもって、少しでも波を立てなければいけない。

 なぜなら今、試合の展開は完全に、アナハイム側にあるからだ。

 チャンスが来ても、あと一歩で逃しているのは、流れが変わりそうなタイミングではある。

 だがお互いのチームのスタイルを考えれば、どちらがより優位かは明らかだからだ。


 メトロズのチームとしての特徴は、とにかくその攻撃力による高得点。

 ピッチャーは悪くはないが、ロースコアに抑えるのは難しい。

 大してアナハイムは、ピッチャーを中心とした守備に、確実な得点で勝ってきたチーム。

 この試合にしても直史の前に、出たランナーは今のところ二人。

 自慢の打撃が、ほぼ完全に封じられているのだ。

 それに対してメトロズは、運のいい守備や、ぎりぎりランナーをホームに帰さないことで、均衡を保っている。

 初回の一点以外にも、点が入っていてもおかしくない場面が三度もあるのだ。


 攻め疲れ、という言葉がある。

 野球などは攻撃でランナーを出し優位になっていても、点にまでは結びつかないことがある。

 チャンスをたびたび潰すことで、集中力が疎かになる。

 そしてそんな中での守備は、エラーが出ることも多い。

 ただ五回の裏のメトロズの攻撃は、六番からだ。

 直史は珍しく、合うと三つを三振で取った。

 次のイニングは九番のカーペンターから。

 そう思うとアナハイムはやや憂鬱であろうが、やはりシュミットの内野安打が大きかった。

 六回の表はまた坂本からの打順なので、一点ぐらいは入ってほしいとも思っているかもしれない。




 舞台はホームスタジアムで、大満員の観衆がいて、そして主砲はいい当たりをしている。

 それでもメトロズは、やはり試合展開が自分たちのものではないのは分かっている。

 首脳陣としても、どうにか打開案は出したいのだ。

 しかし今のところ、結局は選手の個人技に頼ることになる。


 直史のピッチングが、三振を取るものに変わった。

 これが一時的なものなのか、それともここから三振狙いでいくのかで、作戦も自然と変わってくる。

 いや、球数はそれほど増えていないのに、三振を奪っていくことが可能なのか。

 もしもこれを続けられるなら、運のいいヒットの数さえ減っていく。


 五回の裏は三者連続三振。

 これはおそらく直史の、メトロズの勢いを潰す意思の発露だ。

 直史は三振が奪えないピッチャーではない。

 むしろボール球を上手く使えば、相当の三振が奪えるのだ。

 

 大介は息を潜めて待っている。

 六回の裏は自分の三打席目が回ってくる。

 アナハイムは六回の表、ランナーは出すが点には届かない。

 そして裏のメトロズの攻撃は、九番のカーペンターから。

 もしも塁に出てくれれば、長打で一点が入る。

 それが無理でも三塁まで進んでいれば、次のシュミットはバットに当てるぐらいはしてくれるだろう。


 もしもここで逆転出来たら、残りは三イニング。

 上杉は既に、肩を作り始めている。

 逆転したらそこで投入、同点ならばまだ分からない。

 だがどちらにしろ、カーペンターは打ち取られてしまった。

 またもランナーのいない状況で、大介は打席に入る。


 ランナーがいたら大介が返し、ランナーがいなければ大介がリードオフマンとなる。

 それが直史攻略のための、メトロズの作戦であった。

 だが結局のところ、両方が完全に失敗している。

 初回に大介はヒットを打ったが、後続がホームに帰してくれなかった。

 二打席目はヒットにならなかったが、そもそもランナーがいない状況での対戦であった。

 そしてこの三打席目。

 やはりランナーがいない。


 単打はもう狙わない。

 最低でも二塁打は打って、場合によっては盗塁もしかける。

 もう残っているチャンスは多くないのだ。

 それに大介が絡んでいなければ、チャンスを作り出すことさえ出来ない。


 高校時代の紅白戦を思い出す。

 直史相手の打率は、おおよそ三割以上あった。

 だがその成績をパソコンで入力した時、思い知ったものだ。 

 直史からは打点を奪えていない。


 結局この試合も、ヒットは打てているようで、アウトになったのもいい当たりであった。

 だが結局は得点に結びついていない。

 高校時代の直史は、とにかく勝敗にこだわっていた。

 だから負けた試合の場合、直史に負け星がついていることは少なかった。 

 あるいは味方のエラーによって、敗北を喫してしまう。

 しかしそんな時でも、負けるのはとにかく嫌なのが直史だった。


 結局この大舞台でも、直史のスタンスは一貫している。

 試合に勝てればそれでいい。

 大介に勝つということは、そのついでのように思っている。

 いや、もちろん内心はどうなのかは知らないが、少なくともこの試合はそうだ。

(このままでは終わらないぞ)

 大介はゆっくりとバッターボックスに入る。

 直史とは、普通に視線が合う。

 そこに何の感情も見えないのが、とにかく不気味ではあった。




 三度目の両者の対決。

 大介が有利に運んでいるように見えるが、瀬戸際で直史がいなしている。

 ただもう、どんなボールでも打ってしまおう。

 初球に対して大介は、とてもリラックスした状態であった。


 そこに投げられてのが、まさかのワンバンするカーブ。

 どんな球でも打っていこうとは思っていたが、これは明らかにボール球だ。

 実際に審判の判定もボール。

 しかしカーブは、二球続けて投げられてきた。


 今度のカーブは、ゾーンを斜めに貫いてくる。 

 ベースの真上、大介はバッターボックスのやや後ろにいた。

 これもボールに取ってくれるかなと思ったが、今度はストライク。

 打てばよかった、などとは思わない。

 今のは打っても単打までにしかならない。

 打てると思った瞬間、力みすぎてしまったからだ。


 バッターボックスを外す。

(違うんだよな)

 もっと自由に、自然体で。

 来た球をそのまま、ありのままに打てばいい。

 極めて単純な、そして単純ではあっても難易度の高いこと。

 来た球を打つ。

 そして遠くへ飛ばす。

 

 直史の投げた三球目は、外角高め。

 意外と投げられないこのコースは、目の高さに近く遠心力もかかるため、長打に出来なくはない。

 だが大介の打ったボールは、直前でわずかに沈んだ。

 スルーをあえて高めで使ったのだ。

 その発想は大介にはなかった。


 ただこれでピッチャーとバッターの勝負としては、かなりピッチャー有利なカウントになってしまった。

 ボール球でもストライクにしてもらいやすい直史が、ボール球を二つ投げることが出来る。

 直史は大介と対決することは対決するが、上杉のようにパワーとパワーで対決するわけではない。

 お互いの読みだ、と大介は考えている。

 そして読みでは勝てないので、もう来た球をそのまま打つのだと、打てるボール球にまで手が出てしまう。


 ここから投げられるとしたら、それはいったいどんなボールなのか。

 前の打席でもこの打席でも使っていない、逃げるツーシームを使うのではないか。

 直史のストレートのMAXは、確かにそれほど速くない。

 だがムービング系のボールのスピードは、ほとんどフォーシームストレートと変わらない。

 スルーなどはむしろ、体感ではストレートよりも速かったりする。


 その速いスルーを外で使ったのだ。

 次は遅い球を使ってきてもおかしくはない。

 ボール球が投げられるのだから、外に釣り球を投げて、その後に勝負球か。

 しかしそういったセオリーは、直史相手には通用しない。


 セットポジションから、直史の投球動作が始まる。

 タメを作るのでもなく、かといってステップが速いわけでもない、平均的なフォーム。

 そこからリリースされたボールは、大介から見ると左上の方。

 そしてスピンがかかって、懐に飛び込んでくる。


 打てると思った。

 だからスイングが始動した。

 だが思ったよりは遅い。もう少し待たなければいけない。

 力の発散を、ギリギリまで待つ。

 だがこれでは、ホームランにならない。


 ボールに当たったインパクトの瞬間、大介の肉体は力を解放する。

 低い弾道のそのボールは、凄まじい速さで右中間のフェンスに激突した。

 深く守っていた外野など、まったく関係のない打球。

 ただそのために外野が、勢いよく跳ね返ってきたボールを、簡単に捕球してしまった。

 そこから二塁に投げられると、一塁を回っていた大介は慌てて戻る。

 右中間を抜いていった打球が、どうして単打にしかならないのか。

 これもまた、運の偏りだというのか。


 ベースの上で大介は、首を傾げる。

 あの球であれば、あと少し角度をつけられれば、スタンドに入っていたはずだ。

 ほんのわずか、それこそ0.1mmほどで、ホームランという結果になっていただろう。

 だが現実には単打。

 普通に敬遠したのと同じ、大介に求められているのとは違う結果である。




 ここは盗塁でもして、どうにかチャンスを広げたい場面だ。

 だが大介に対しては珍しいことに、直史が素早い牽制球を投げてきた。

 慌てて戻るが、そんなにシュミットとの勝負に集中したいのか。

 確かに一塁から見た、直史の雰囲気は変わっている。

 いくら抑えようとしていても、大介からしたら明らかだ。

 直史はバッターを殺すつもりで投げている。


 既に三振を取る方向に、シフトしているのは分かっていた。

 だがここで直史は、ムービング系の球でファールを打たせてカウントを稼ぎ、そしてカーブでの見逃しや、伸びのあるストレートでの空振りを取っている。

 カーブと合わせて、上手くムービングとの差をつけると、直史の球速でも空振り三振が取れる。

 シュミットはカーブを見逃しの三振として、続くはペレス。

 これにもまた直史は、打たせて取るピッチングを放棄する。


 ファールを打たせてカウントを取るところは同じだ。

 だがカーブ見せ球にして、最後にはアウトロー。

 強打者ペレスが見逃してしまうほどの、手が出ないアウトロー。

 球速は92マイルと、普段と変わっているわけではない。

 だが遅い球と、落ちる球との組み合わせなら、それで見逃しも空振りも取れるのだ。


 ストレートの価値は球速だけではない。

 もちろん反応が間に合わない球速は、それだけで分かりやすい武器だ。

 だが直史のストレートは、高校時代にそれでスラッガーから空振りを取れるよう、磨きぬいたものだ。

 スピン量とスピン軸が、ストレートの球速以外での価値だ。

 逆にスピン量が少なくて、スピン軸も傾けた、手元で落ちるストレートもあるのだが。


 結局一塁に残ったままの大介は、二塁に進むことも出来なかった。

 三打数二安打で、この数字だけを見ていれば勝っているように思える。

 だが大介は打点もつかず、そして自らがホームを踏むこともない。

 直史が上手く手を抜いているとか、そういう話ではない。

 それでも大介を抑え切れなくても、点だけは取られないのだ。


 要するに、大介がいくら打っても、ホームランでなければ意味がない。

 前にランナーがおらず、帰してくれる味方もいない。

 これまでの直史の先発の試合と、同じことではないか。

 

 重たい空気がメトロズベンチを支配しようとしている。

 ここでメトロズは、上杉を投入して、また雰囲気を変えることをしたかった。

 だが昨日の試合の終盤、わずかなコントロールの乱れから、上杉には大きな負荷がかかっていたことは分かっている。

 下位打線から始まるこの場面では、他のピッチャーに任せる。

 オットー、ウィッツの後に、ローテが離脱していた間、七試合では先発もしていたワトソン。

 四勝一敗の数字もついているので、悪くはないのだ。


 もしもランナーを出してしまったら、この回から上杉投入、という可能性はあった。

 一人ランナーが出たら、今日の一得点を叩き出しているターナーに回るからだ。

 だがこの回を、ワトソンは三人で終わらせる。

 これで八回の頭から、上杉を使える。

 メトロズはもう、完全に総力戦だ。




 大介はベンチから、直史のピッチングを見つめ続ける。

 直史のピッチングの力の出し方には、いくつかの段階がある。

 味方の援護で大量にリードしている場合、直史はやや実験的な配球で、相手を軽々と抑えていく。

 だが味方の援護があまり期待できないと、最初からもっと緻密に組み立てていく。


 ポストシーズンに入ってからは、トロントとの試合で一本ヒットを打たれたが、ラッキーズ相手にはパーフェクト。

 そしてこのワールドシリーズでも、第一線は大介のヒット一本に抑え、そして第五戦はパーフェクト。

 最終戦となるこの第七戦は、それなりにヒットが出ているし、球数もやや多くなっている。

 だがそれだけ、直史は全開で投げているのだ。


 七回の裏はボール球も見せて、そしてストレートを見せて、三振を積極的に奪いにくる。

 もう九回でちょうど終わらせるような、限界を見据えたピッチング。

 ここでもう、今年の試合は終わりなのだ。

 高校三年生夏の甲子園の決勝。あれは15回まで投げてさらに再試合と、でたらめなものであった。

 だからこそ試合が終わると、もうその場に崩れ落ちたのだ。


 日本シリーズも、まさかの連投で先発をしていた。

 あいつならやるな、と大介は思っていたが、周囲は驚いていた。

 直史はやるのだ。

 体力が特別に優れているというわけではないが、ペース配分がしっかりとしている。

 その直史がもう、ペース配分を考えずに投げている。

 最後までの試合の展開を、見切ったと言っていいだろう。


 四番からの打順を、三振二つの三者凡退で乗り切る。

 球数はこの時点で86球。

 直史にしては、やや多い球数だ。

 だが全開で、三振を奪いにきている。

 奪三振の化身が、八回の表のマウンドに登るため。

 流れをメトロズに渡さないためにだ。


 上杉が登板する。

 アナハイムは主砲のターナーからの打順で、ここでホームランでも打てれば、それこそ試合は決まったようなものだ。

 だが上杉が投げたストレートは、最初から105マイルを記録した。

 直史や坂本から、読みで打つことを教えられたターナー。

 しかし上杉のボールは、ひたすら速かった。

 ど真ん中のボールで三球三振。

 最後の球は107マイルが出ていた。


 三番のシュタイナーに対しても、上杉のスタイルは変わらない。

 全盛期は40本を打っていて、今でも30本を打つシュタイナーだが、当たらなければどうしようもない。

 三球三振で、これでツーアウト。

 やはり奪三振能力の高いピッチャーは、映えるものだ。

 直史もここまで完封で投げているのに、上杉の方が画面では主人公なのだ。

 それは確かに、記録では直史の方が派手だろう。

 しかし球速という、もっともどうにもならない部分で、上杉は直史をはるかに凌駕するのだ。


 もっともだからこそ、上杉が直史を尊敬する。

 技術で、制御で、あれだけの結果を残した。

 そんな直史と投げ合う、これが最後の機会。

 ツーアウトからは四番の坂本。

 曲者の坂本に対して、上杉は何も考えていなかった。

 ストレート三つで、最後には振ることすら出来ずに三振。


 三者連続三球三振。

 実はこれにはイマキュレートイニングという名前がつけられている。

 そのままに読むなら、欠点のないイニング。

 上杉は実は、これを何度もNPB時代から達成している。

 しかしMLBにおいては、これはかなり珍しい記録で、実は上杉が第六戦で達成するまで、ワールドシリーズで達成したピッチャーは一人しかいなかった。

 即座に上杉は、二度目のイマキュレートイニングを同じ試合で達成している。

 そしてこの試合で達成し、唯一無二の存在となった。

 イマキュレート・ウエスギ。

 欠点のない上杉と呼ばれた彼は、このたった一年のシーズンでMLBの伝説となる。


 八回の裏は、メトロズは七番からの打順。

 一人でも塁に出れば、大介に回ってくる。

 そしてランナーがいる状態で大介がホームランを打てば、それでメトロズは逆転。

 九回の表に上杉が投げれば、それで試合は終了だ。


 だがもちろん、直史はそんなことは許さない。

 七番と八番を、共に三振で打ち取る。

 ファールを打たせてカウントを稼いで追い込んでからは、三球目で空振りか見逃し。

 二者連続の三球三振で、直史もイマキュレートイニングかと、不思議な期待をする者もいる。

 もっともこんなマイナーな記録は、即座に思い浮かんだ人間は、ほとんどいなかったのであるが。


 九番のカーペンターに対しては、三球目は内野フライを打たせた。

 惜しくも達成ならずといったところかもしれないが、この時点で直史の奪三振は13個。

 パーフェクトを達成したときよりも、さらに多い奪三振である。

 かくして八回の攻防が終わる。

 一点差のまま、ワールドシリーズ最終戦は、最終イニングへ。

 史上最大の大戦が、いよいよ終わりを迎えようとしていた。

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