第43話 ライバル登場?

 学校に同じように四人で登校していると、男子生徒に呼び出される。

 一度捕まった事を思い出す。流石に関係ないと、信じたい。


「ちょっと話があるんだ」


 雪に話があるかと思ったが、どうやら俺らしい。

 付いて来て欲しいと言われたから付いて行こうとしたら、雪が同じ方向に歩き出す。

 男子生徒と俺は止まり、雪の方を見る。


「なんですか?」


「先に教室に行ってて?」


「⋯⋯分かりました」


 少し拗ねたような声音で雪は教室に向かう。

 愛桜も向かう。凛桜は他の友達と一緒に教室に向かっている。


 場所を移動して、人気ないの無い、階段の下に来た。

 俺は勿論、こんな男子生徒と関わり合いが無い。

 てか、男子で関わりがあるのは神威と田中奏汰と言う人だけだ。


 ま、関わりあると言っても一度だけなんだけどな。


「お前は西園寺さんと仲が良いようだな」


 西園寺さん、ね。雪の事を苗字で呼ぶ人を珍しく感じる今日この頃。


「まぁ、はい」


 なんだろ? 前のチンピラと同じように『馴れ馴れしくするな!』かな?


「お前のせいで、西園寺さんは変わった!」


「はい?」


 変わった? 急に何を言い出すんだろうか? 雪は何も変わってないだろ。


「西園寺さんは冷たく、クールで、可憐なお方だ! なのに、お前のせいで、変わってしまった。お前は西園寺さんの毒だ! あまり関わらないで欲しい」


「君は、雪のなんなの?」


「中学からの幼馴染だ」


「そう」


 俺は少し怒っているかもしれない。

 何も知らないで俺の事を毒呼ばわり。別にそれは構わない。

 だが、こいつの言い方だと『過去の雪』が良いと、それが本来の雪だと言っている。

 俺はそれが、許せなかった。


 今の雪が、凛桜とちょっとした事で小さな喧嘩をするけど、実は仲が良かったり、愛海や海華の事をきちんと見ている。

 笑顔が似合って、関わり会えば気のいい人だと分かる。

 そんな雪が本来の雪だ。


 きっと、こいつの言っている雪が、雪の家族が知っている雪だろう。

 だが、こいつと雪家族の考え方は違う。

 こいつはクールで可憐だと言った。だが、家族は『無』だと言った。

 いや、今は家族は関係ないか。


 今重要なのは、こいつの勘違いがただの価値観の押し付けに成っている事だ。


「意味が分からない。それでなんで俺が雪と関わるなって成るんだ」


「関わるなとは言ってない。成る可く関わって欲しく無いんだ」


「なんでそれを俺に言う」


「お前は何も知らない。西園寺さんの事を」


 少なくともお前よりは知ってるよ。⋯⋯年月ではこいつの方が上か?


「君は、今の雪を否定するのか?」


「否定する訳じゃない。だけど、あんなのは西園寺さんじゃない!」


「否定してんじゃねぇか! この話は無かったって事で。⋯⋯一つだけ言うけど、雪は今が一番幸せなんじゃないか?」


 俺が教室へと向かう。一人呆然と佇む男子生徒は小さく言葉を漏らす。それは憎しみが込められているかのようだった。


「お前は西園寺さんの事を何も知らない。西園寺さんが美しいのは、昔の顔だ」


 教室に行く途中で、顆粒とすれ違う。


「あ、おはようございます」


「おっはー」


「神威とはどうですか?」


「ん〜分かんない」


「そうですか」


「ん。まぁ、でも、結構面白い奴だよな」


「そうですね。それじゃ。ホームルームに遅れないでね」


「うん。そっちこそ。あと一分だよ?」


 俺は速足で教室へと行き、ホームルームが終わったら雪が近づいて来た。

 クラスメイトの目が⋯⋯最近は気にして無かったけど、さっきの会話を聞いたせいか神経質に成ったようで、少し気になった。


「さっきはどんな話をしてたんですか?」


「ん〜ちょっとね」


「なんで誤魔化すんですか?」


「なんでも無いよ、ほんと」


「そうですか」


 神威が小声で話してくれる。


「何があったんだ?」


「男子生徒に呼び出された」


「⋯⋯」


「別に愛の告白って訳じゃないぞ。だからそんな目すんな。⋯⋯昔の雪を知っているらしい。中学の同級生だって。それで、中学の雪の顔か表情か、それが好きでそれが普通で、最近は笑顔が増えた雪が気に食わなく、その元凶である俺に関わるなって言って来たの」


「何だそいつ」


「知る訳ないじゃん」


 昼の時間、四人に成った時に、小言を言い合う雪と凛桜の事を横目に見ながら、俺は愛桜に話しかける。


「雪の中学の同級生って知ってる?」


「ん〜流石に全員の事を知ってる訳じゃ〜」


「愛海が作った卵焼き!」


「候補は三人、男子だったら二人に絞られる。特徴は?」


 これ、交渉材料に使えた。

 愛海が作ったおかずを良く愛桜が食べていたので、適当に言ったのに、成功ルートだったようだ。

 ちなみに雪のおかずは俺ら伊集院兄妹が基本的に食べてる。


「特徴⋯⋯か。頭に血が上って全く覚えてないや」


「え〜」


 愛桜の「なんで〜」と言う目を目で受け流す。


 と、二人で会話していると、小言を言い合っていた二人がこちらを凝視していた。

 少し怒っているような?


「「二人で仲良く会話とは何事ですか!」」


 ビシっと俺にだけ指を指される。


 俺はこの時、一つだけ感想が生まれた。

 似た者同士、と。


 ◆


 愛海と天月は体育の時間、同じ先生の元で授業を受ける。

 二クラス合同体育である。

 今は七月、プールの授業である。


「愛海ちゃん⋯⋯毎回思うけど中学生何だよね?」


 その目は一点、或いは二点に向いていた。


「そんな目で見ないでよ。結構気にしてんだよ。重いんだよ」


「それは一部の人に絶対に喧嘩売ってるよ」


「あはは。アサちゃんにも言われた」


「愛海ちゃん凄いよねぇ。桜井財閥の人にそんな気軽な呼び方で行けるんだもん」


「天月ちゃんもアサちゃんと遊べば? 結構こうなるよ」


 愛海が天月の泳ぎを手伝っている。

 現在バタ足の練習を手伝っている。


「愛海ちゃんって運動も勉強も出来るし、羨ましいよ〜才能の塊!」


「ん〜極限まで追い詰められると、人間って覚醒するんだよ?」


「どことなく説得力があるね。ごめん」


「いいよ。勉強は努力すれば誰でも問題ない。ただ、自分に合った勉強法を見つける事が大前提だけど。運動は良く分かんない。風呂上がりにストレッチとかすれば体は柔らかく成るよ。今日から夜にジョギングする?」


「良いね〜。拓海お兄さんも誘う?」


「そうだね。いっそ皆でする? メイドさん達含めて」


「そんな大所帯な⋯⋯メイドさん達、運動神経エグいよ? 割とまじで。前なんて塀を軽々登って超えてたし。そう言えば、時々見るげっそりしたメイドさん居るけど、あの人大丈夫かな?」


「毎日動画の編集してるから大変なんだよ」


「編集?」


 天月は疑問符を浮かべるのであった。

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