第38話
雪姫は現在考え事をしていた。
それは授業参観の盗聴で得た、海華の夢の事である。
今のまま、今後もずっと、家族と一緒に居る。
その夢は雪姫の心を動かし、現在雪姫の悩みでもある。
「まずはたっくんに相談ですね」
拓海のもとに向かった雪姫は海華の夢の事に付いて相談する。
「なんで知ってるのさ。⋯⋯そうだね。そうなったら、楽しいかもね」
「なら、賛成って事ですか?」
「そうだね。ま、そんな知識も経験もないけど、でも、もしも本当に海華が望んでいるな、俺は叶えてあげたいな。海華にも幸せになって欲しい」
「なるほど。なるほど。それでは、ちょっと私は愛海さんの所に行ってきます」
雪姫は次に海華の姉である愛海の部屋に向かった。
そこには、高校の教科書を片手に、先輩である愛桜に勉強を教えている愛海の姿があった。
雪姫の愛桜に向ける目は、なんとも言い難いモノだった。
「⋯⋯ゆ、雪姫穣、こ、これは」
「まぁいいです。愛海さん。実は」
「授業参観の海華の夢の事ですか?」
「そ、そうです。なんで分かったんですか?」
「雪姫お姉さんが私に対して何かを話すって、家族関係だし、それに雪姫お姉さんが盗聴盗撮してる事は知ってるし」
愛海は拓海の部屋に違和感を感じ、拓海達が居ない間に探し回り、小型のカメラを発見した。
それを一度放置し、麻美と取引した。
この事を隠す為に、その時に撮れた写真を少し横流しすると言う取引を。
そこで愛海は『雪姫さんはお兄ちゃんに対しては犯罪行為も普通にする』と認識した。
さらに、雪姫の愛は拓海に向いているが、だからと言って拓海の家族を蔑ろにする事もない。
寧ろ愛おしく感じている事を察していた。
だからこそ、付いて行けない授業参観も何かしらで情報を得ると思っていた。
その中で一番有り得そうな事を口走ったら、当たっていた。
そんなたまたま当たっていた、なんて本人には言わない。
「私は良いよ。正直、誰かを好きになるって事、無いから」
愛海は虚空を見つめていた。
自分には兄が居る。家族が居る。それで十分だ。それだけで十分だ。
それ以外は要らない。家族が居なくなるのはとても辛い。悲しい。
依存、正しく愛海は家族に依存的に成っている。
だからどうした。そんなのは関係ない。それが愛海なのだ。
「家族と、これからも居られるなら、私的には最高だよ。ま、雪姫お姉さんが許せば、だけど」
「私は寧ろウェルカムよ。ただ、そんな事はたっくん達の前では言わないでね。きっと寂しがるから」
「⋯⋯私は雪姫お姉さんよりもお兄ちゃん達の事をよーーく知っていますから大丈夫ですぅ!」
「(イラッ)へぇー言ってくれますね。たーしかに私より貴女の方が数年長く一緒に居ますが、それでも知っている事は多いと自負しますがねぇ!」
「へぇ〜そうなんですね良かったですね。どうせ私以下だと思いますが、そう思っているのならどうぞ」
「貴女煽るの上手いわね。でも、そう言っている割りには貴女の大好きなお兄ちゃんを泣かせていましたけどね」
「(イラッ)そう言う貴女だって、大好きな人の気持ちにすら気づかず、勝手に突っ走て、その人を悲しい気持ちにしてましたよねぇ」
「あ、あれは、⋯⋯そう、私達の愛の絆を固める大切なラブイベントですっ! 貴女とは違います!」
「こっちだって、(家族)愛の絆を固める大切なイベントだよ!」
「あ、あの、お二人さん。その辺にしてください」
愛桜が止め、雪姫は自分の部屋に戻り、麻美を呼んで今後の予定を練る。
綺麗に積もった雪に日光が反射して出来るような、銀色の髪の乱れを手で直しながら戻る。
愛海も、深海のような深い蒼色の髪を手で直しながら、勉強を再開する。
「なんで呼ばれたんです?」
「貴女の意見も欲しくてね」
「それこそ拓海様などと相談するモノでは? 特に海華様とは」
「たっくんは喫茶店でのバイトもそこそこやっているだろうし、愛海さんの料理は既に一流、家の料理長からも学んで腕を上げてますからね。海華ちゃんにこう言う難しい話はまだ早いわよ」
(その分お嬢様の腕は曲がってしまいましたね。見た目良くても中身が全然違う)
「私達が考えるのは、場所よ」
「駅前で良いのでは?」
「そんなのはダメよ。目指すはゆったりと出来る喫茶店よ?」
「なら田舎にしますか?」
「でも田舎って私が保有している土地無いじゃない」
「そうですね。お嬢様本人で使えるとしたら、やはりここ付近に成りますね」
「そうそう。そこでここを考えたんだけど、どう思う?」
(楽しそうですね。お嬢様の目利きは誰もが信じています。⋯⋯なんで私に相談するだろう)
そんな事を考えながらも、子供のようにはしゃぎながら麻美に夢を話す雪姫。
(夢を考えるお嬢様なんて、いつぶりかしら。ほんと、この数ヶ月でガラリと変わりましたね。⋯⋯今更ですが、拓海様のバイトの幅広さや年月を考えると、色々とおかしいような⋯⋯ま、関係ないですね。終わった事です)
「でさ、内装を考えたいんだけど、私やたっくん達の名前って、海や雪が入っているじゃない」
「そうですね。何かの意味があるかのように、同じ漢字が使われていますね」
「だから、夏と冬でいい感じに変えれるんじゃない?」
「そうなると、夏と冬、真反対。お嬢様と拓海様⋯⋯なんでもありません。お気になさらず。本当に、なんでもありませんから」
麻美が冗談を言っている間に、涙目になっている雪姫を見て、言葉を切った。慌てて弁明する麻美。
クールな出来るメイド長の風貌が台無しだ。
「あ、凛桜様方は⋯⋯」
「あの人達は桜井財閥、こんな事をしている暇はないでしょう。婚約の事も考えると、尚更ね」
「そうですね」
(お嬢様はお暇なんですね)
財閥の令嬢足るとも、いずれは結婚して家庭を持つ。
なので、一定年齢に達したら政略的な結婚も視野に入るだろう。
そこに、各々の思いは関係なくなる。
西園寺財閥も、桜井財閥も、子供達の幸せを考えている。
だが、いつまでも放置する訳にもいかない。
雪姫は拓海と言う婚約者と言っても差し支えない存在がいるから、お見合いなどないが、凛桜達は別である。
「お嬢様は、寂しくないんですか?」
「ないわね。それが役目なんだから」
「役目、ですか。時代錯誤も良いところですね」
「だね。お気の毒」
そんな会話をドアの向こうで来ている人物が一人居た。
その顔には目から流れる雫があった。廊下のLEDに照らされ、反射し、キラリと煌めくその雫。
そんな小さな雫一つに、様々な感情が込まれていた。
「ま、だけど、もしも、もしも望むのなら、考えなくもないわね」
「お嬢様も素直じゃないですね」
「なんの事かしら」
その人物は、くるりと向きを変えて、部屋の中に入る。
「私も、仲間に入れて」
迷いなく、そう言う。後悔する選択は、したくないから。
それから女子三人で団欒するのだった。
そんな、こんな、緩やかな時間も、いいかもしれないと思う、三人だった。
いつまでも、仲良く、和気藹々と、のんびりと、暮らせる事を、切に願っている。
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