第28話 修正【完】
「その話は本当?」
「はい」
天月は雪姫に対して学校で見た光景をありのまま話した。
愛海がいじめにあっていた事、それを隠している事を。
(愛海さん。それが1番拓海君を悲しませると分かっているようね。だけど、それは少し違うかもですよ)
「雪姫様?」
ここでメイドとして働いている天月は雪姫の事を様付で呼んでいる。
雪姫は天月に下がって貰い、麻美を呼んだ。
「如何なさいましたか?」
「聞いていたでしょ? 若い人を数人中学校に送って調べて。そして、加害者全員を調べて」
「畏まりました」
「私の義妹に酷い事した罪、家族揃って精算して貰うわよ」
怒りの篭もった瞳を宿す雪姫。正面から見たら般若だろう。
大切な人の大切な家族、それは即ち自分の大切な人である。
友達の友達は友達であるように、大切な人の大切な人は大切な人なのだ。
いくら恋敵的な感じのポジションであっても、大切なのは変わりない。
「拓海様にはお伝えしますか?」
「いえ。拓海君の事です、私に頼る事無く何かを成すでしょう。それに、それであのピンク女に頼られては最悪です。私に感謝して貰いたいですし、それで褒めてくれるかは怪しいですが、終わってから、私から全てをお話します」
「畏まりました。それでは、手配して参ります」
翌日、愛海のクラスに2人の男女の転校生が急に来た。
2人の自己紹介が始まる。
「僕は天蓋蠱毒です。まだ分からない事が多いですが、今は受験シーズン。自慢ではありませんが、僕は勉強が出来る方なので、是非、頼ってください。僕も頼ります」
「アタイは皐月阿月、通称ニツキです。気軽にニツキと呼んでください」
そして、2人の軽めのプロフィールを言う事に成った。
「僕の好きな食べ物は食べられる物なら全部です。好きな事は体を動かす事、趣味は人間観察です。キモイとか思わないでね!」
中性顔で可愛いくもイケメンなスマイルを向けて、殆どの女性はロックアウトされた。
ボス格の女は余裕な謎の笑みを、愛海は何も感じてなく、机で隠して参考書の暗記を再開していた。
「アタイの好きな食べ物はバニラアイス、好きな事は写真を撮る事、趣味はプログラミングです。よろしく」
男達が少しトキメク程度の笑顔を見せる。
このカッコ良さは言うまでもなく。
ここの担任は男なのだが、その笑顔に言葉が詰まる。
ここでネタばらしをしよう。
2人のプロフィールはこうだ。
年齢、19。
童顔で身長が小さく、中性的な顔立ちでありこのような潜入調査には良く使われる西園寺財閥の
必要とあればその手を汚す事もある。
好きな食べ物は本当は無い。料理に味を感じないのだ。
好きな事は体を動かす事、蠱毒にとって体を動かす事は潜入。
蠱毒はこの人生が好きなのだ。
趣味は人間観察、特技でもある。
人のそれぞれの動作、呼吸で相手の思考パターンや行動パターンを読む事が出来る。
凛桜だけは全く読めない。
年齢、15。
普通に今回の作戦にピッタリな年齢だが、実は今年で16歳なので、拓海達と同年代だ。
西園寺財閥の次女が拾って来て育て上げた人物。
西園寺財閥の次女に最大の忠誠と敬意を持ち、西園寺財閥に対する忠誠心は誰にも負けないと豪語出来る人物。
現在の西園寺の子供達に恋人等はおらず、初の恋人が出来た雪姫の大切な人のピンチだと聞き、名乗りをあげた。
正義感が強い。友達と呼べるのは主であり敬愛の的である次女と、昔に良く遊んだ雪姫くらいだろう。
「じゃあ、2人の席はあそこね」
学校の裏側で西園寺財閥と校長と教育委員会が絡み、2人の席は1番後ろの完全に対になる席に成った。
広範囲からクラスメイトの把握をし、何よりも愛海を見る事が出来る。
悲惨だが、最初は見守り証拠を集めるのが2人の仕事だ。
外では愛海をいじめていた人達の家族のあれこれが洗い出されていた。
そこに関わって来るのは桜井財閥。
「西園寺さん。今日1日ピリピリしてましたが、大丈夫ですか?」
「はい。問題ないですよ」
拓海に疑問を持たれる程にポーカーフェイスが失敗している雪姫は気を引き締める。
中学校の方では昼休みになり、例のアレが始まった。
その内容を知っていた2人だが、初めて見るので当然驚くフリをする。
「天蓋君、関わらない方が良いよ」
辛い顔で男の子が天蓋に耳打ちする。
関わったら君の身も危ない。純粋は良心から来る言葉。
蠱毒は歯を食いしばった。
正直、主の家族の家族になる予定の家族の人がそんな目にあっている事が許せないのだ。
しかし、そこは19歳今年20歳、我慢する。
とある女の子も同じようにニツキに耳打ちしようとしたが、遅かった。
正義感の強いニツキ、救ってくれた主の妹の家族になる予定の家族である愛海が目の前でそうなっているのは見てられなかった。
任務だと、耐えるべきだと、見て見ぬふりをしながら証拠を撮るべきだと、分かっている。
分かっているが、彼女には耐える事が出来ない。
それは彼女のまた、そう言う経験があるから。
それが続けばいずれ心が壊れる。
心が壊れた人は何をするか分かったもんじゃない。
逆に何もしないかもしれない。
「あ、皐月!」
初めて出会いたまたま偶然にも同じタイミングで転校して来た設定の蠱毒とニツキ。
蠱毒は咄嗟にニツキを呼び止める。
だが、遅いのだ。
「止めなよ。良くないよ」
「はぁ!」
物を地面に投げ捨て踏み付けて壊す。
鉛筆が再び折れた。
愛海はこの程度の長さならまだ使えると判断したので問題ない。
先端をハサミで削れば使える。
消しゴムも小さくても使えるし、消しカスも固めれば再び消せる練り消しとなる。
筆箱なんて元々無いに等しい。
教科書なんて殆ど表紙しか残ってない。これさえあれば忘れ物扱いには成らない。
ノートも黒板に書かれた事を書いて必死に覚えているので大した問題じゃない。
1番大切な参考書は守った。
一通りの物がボロボロになったら今度は愛海へとその矛先は向く。
腹を殴る。背中に踵落とし。
毎日やっているのにコイツらは飽きる事が無かった。
泣き叫ぶ事も、助けを呼ぶ事も、愛海はしない。
耐える。ただ耐える。
自分の母のように。
我慢する。そうすれば誰も悲しまない。誰も辛くない。
そう考えている。
「邪魔すんなよ! おめぇ転校して来た初日だから知らないと思うけどさー、私のパパ桜井財閥系列の会社の社長だよ? それも孫やその下じゃなく、子なの! わかる? それだけ大きいって事! 邪魔するなら貴方の両親も仕事無くなっちゃうよ?」
「アホくさいな」
「あぁ?」
「アホくさいって言ってんのよ。それが何? それでビビると思ってんの? 虎の威を借る狐程度の小娘が」
「て、てめぇ!」
「止めて! 皐月さん、私は大丈夫だから、さ。気にしないで」
「⋯⋯それでいいの? 貴方は。助けを求めないの」
「別に、私は、助けを求める程、困ってないから」
掠れた笑顔を見せる愛海。それに何かを感じるニツキ。
そして、その余裕が気に食わない女達の暴力はエスカレートする。
愛海は耐える。既に耐えていると言う感覚すら、ないのかもしれない。
「⋯⋯」
ニツキはそれを見る事しか出来なかった。
誰も愛海を助けない。愛海も誰にも助けを求めない。
それで、何もかもが解決する。何も問題ない。
そんな訳ない。そんなのがあっていいモノか!
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