第23話 修正【完】

 俺のセンスの無さに絶望しながら晩御飯を食べていた。

 愛海達には帰りが遅くなると連絡を入れている。

 スマホって便利だな。


 まぁ、西園寺と珍しく2人でゆったりとした時間を過ごして帰還している途中で、飲み物が欲しくなり、公園によった。

 公園の近くに自動販売機があるのだ。


 適当な缶の飲み物を購入してベンチに座って2人で飲みながら星を眺めていた。

 ここら辺は家も少なく、街灯も少ない方だ。

 住んでいる場所も場所だが、かなりここは星が見えた。


「拓海君って星が好きなんですか?」


「え?」


「部屋に居る時、良く夜空を見てますよね?」


「なんで知っているんですか?」


「機密事項です」


「なんか、夜空見てると昔の思い出が鮮明に蘇って来るんですよ」


「昔、お母様と過ごしていた日々ですか?」


「そう。あの頃は俺もバイトとか出来なくて、母さんばっかりに負担を背負わせてたんだ。自分も辛い目に、想像もしたくない程の酷い目にあったのに、俺達を一生懸命育ててくれて。俺達の前では泣き言言わず、笑顔を見せてくれなんだ」


「ふふ。忘れてませんか。私達は昔に会っているんです。私もお母様の事は少しだけ知ってますよ。あんまりお会い出来ていませんでしたが」


「あぁ。そうでしたね」


「逆に言えばその時から⋯⋯いえ、なんでもございません」


 きっと父親の事を考えたんだろうな。

 あの時は大変だったけど、楽しい日々だった。

 まぁ、今でも楽しいけど。やっぱり大切な人が1人足りないとね。


「大変でしたね」


「あはは。まぁ、何とかやってるよ。雪姫さんのお陰で今はこうやってお出かける出来る余裕もあるんだから。唐突な感じだったけど、感謝してるよ」


「はい」


 そんな会話をしていると、遠くから話し声が聞こえて来る。


「なんやねんそれ! つまりあんたはうちを道具として見てたんか!」


「あぁそうだよ! お前のような根暗を好きになる奴いねぇよ! お前はいいネタを沢山持って来てくれるし家が金持ちだったから綱を持っていただーけ。分かるか? 部費以上の品を得るのに役立ったよどーも。もう要らない」


「なんやねんそれ! うちの思い踏みにじって楽しんか!」


「そもそも俺はお前の事なんとも思ってないの」


「なんでそれなら好きとか囁いたんや!」


「その方が扱いやすいと思ってな? 実際、それでコロッと堕ちただろ」


「なんや、それ」


「おいおい泣くよ。そもそもその前兆はあっただろ? 俺がお前に対して、1回も手を握った事すらねぇの」


「⋯⋯」


「あぁ。別に他の3人の女に言っても良いぜ。あいつらはそれを含めて俺とヤッてんだ」


「最低! この野郎。さい、ていやわ」


「あそ」


 うわぁー修羅場ってレベルの話じゃねーな。

 西園寺もめっちゃ不機嫌な顔をしてるし。


「良い雰囲気だったのに⋯⋯」


 違くね?

 内容に怒ってやろ?

 にしてもなんか独特な話し声だったなぁ。

 なんか知ってるような。


 ⋯⋯は! 桜井(妹)の声か!

 知り合いがこんな場面に遭遇している時の対処法が分からん。


「くそ! はぁ。くそぉはぁ」


「ん〜じゃ。そう言う事でぇ」


「ひっ、あああああああ!」


 西園寺も薄々分かったのか、渋い顔をしてらっしゃる。

 さて、泣いている人を放置するべきか。

 慰めに行くべきか。

 でも、こう言う時って一人に成りたいって時でもあるんだよな。


 判断に困る。


 結果、現在も泣いている桜井(妹)の愛桜の下に行く事にした。


「おい」


「え? いじゅういん、の旦那に、ひく、西園寺、ゆきめ?」


「何かあったのか、ルームメイトとして相談に乗るよ?」


「⋯⋯たのみやす」


 この言い方なら途中から話している内容が聞こえていたって事はバレないな。

 1から聞いてやるのがこの場合良いと思った次第だ。

 だが、それは俺だけらしい。


「途中から聞こえたけど、彼氏に道具のように都合の言い風に扱われて四股されてたの?」


「なんやねん。聞いておったんか。せやで。うち、弄ばれてたねん」


「無様ね」


「雪姫さん!」


「え」


「新聞部で私達の事ストーキングしてた癖に、私はこれでも貴女の事を昔から評価していたのよ?」


 ストーキング?

 え、まってその話めちゃくちゃ気になるけど⋯⋯気になるけど、ここはグッと我慢だ。

 今は俺よりもこっちを優先だ。


「そないなん?」


「ええ。貴女は昔のパーティの時に大胆に他の人の浮気をドンドンバラしていた。その情報収集能力やそれを見つける能力、そしてあの大胆さはとても評価してた。なのに、それに自分が引っかかるって、無様よ」


「はは。よー見ておるな」


「見ようと思わなくても、あんなに大胆にしてたら視界に入るわ」


「はは。全く。姉貴にあいつ一度会わせるべきやったわ。姉貴の人を見る目は異次元やからな」


 そう言って、愛桜は上を見上げている。

 涙を堪えるように、必死に笑顔を作ろうしている。

 だけど、それが出来ない。

 信じてた相手に裏切られたら、そりゃあ悲しいだろう。

 その気持ちは何となく分かる。


「帰りますか?」


「そうね。帰りましょうか」


「2人のデート邪魔してわるーかったな」


「今は謝んな。悲しい時、辛い時は誰にも謝るな。桜井愛桜と言う人物が悲しんでいる分、世の中で誰かが他に謝っている。君まで謝る必要は無い」


「はは。なんやそれ」


 俺達3人は帰路に着いた。


 ◇


「はぁ。なんで夜まで精神科で検査されないといけないのよ」


「凛桜様。もうすぐに西園寺雪姫様の御屋敷に着きます」


「分かってるわよ。今イライラしてるから話しかけないで!」


「すみません」


 使用人に対して暴論を吐いている凛桜だが、凛桜は怖いけど慕われている。

 その理由が彼女の特殊能力、人の目を見るだけで相手の人物像が分かるのだ。

 昔から様々な人を見て来た凛桜は相手の目の内に秘めている物が見える。

 欲望、殆どの人が邪悪な欲望を秘めている。


 それが極めて高く汚くドロドロとした人は全員関係を切るように父に促した。

 実際にそれは良い方向に進んだ。

 人を見る目がある凛桜のお陰で桜井財閥の名をさらに上げる事になったと言っても過言では無い程の活躍。


 そして、人の目を見ると内に秘めている物が見えてしまうから、基本的に他人の顔を見る事がなかった。

 そして、何時もとは違う接客態度に驚いた凛桜はとある男の顔を見た。

 その内に秘めている物を見て、凛桜は初恋をした。


「この私の何処がイカれてるのよ。全く。あの病院潰してやろうかしら? あぁイライラする」


 そう言っているが、実際はしない。

 する必要がないから。ただ、イライラしているのだ。

 初恋相手がデートしているから。


「はぁ。ムカつくなぁ。あぁもう! 私の何処が道徳心欠けているって言うのよー!」

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