これが私

義仁雄二

第1話

 私は服を選ぶとき、この服を着ていたら他人に何と思われるだろうかと考えて決めてしまう。

 女の子っぽくない、流行じゃない、似合わない、可愛くない、はしたない、チャラそう思われないように細心の注意を払って選んでいる。

 そうなると自ずと選ばれる服は決まってきてしまう。

 自分のクローゼットを開けると同じような色の同じような服ばかりで、それを見て自分が嫌になる。

 だから休日に遊びに出かけたりすることはあまり好きじゃなかった。

 だから制服は好きだ。

 みんな同じだから変に思われることもない。しかも可愛い制服の高校を選んだから平日は嬉しい。

 そんな私は高校でミコトちゃんに出会った。

 クラスのミコトちゃんは凄い。

 彼女は芸能人さんみたいに綺麗で、スタイルが良くて、顔がちっちゃくて、しかも勉強も運動もできる文武両道を体現したような超人だ。いつも目立たないようにしている私と違って明るくクラスの人気者で……同じ制服を着ているのかと思うほど高校の制服を着こなしていた。

 私はいつもそんなミコトちゃんを羨ましく思っていた。

 しかし彼女にも欠点があるらしい。

 ……欠点というのは少し違っているかもしれないがとにかく、彼女が自分で選んだ私服はダサいらしい。少しダサいぐらいの服なら着こなせてしまう彼女が、百……千いや1万いや10万人中99999人がダサいと思う服を着るらしい。

 センスがどうかしているとしか思えないという陰口を聞いてしまったこともある。

 ミコトちゃんと仲がいい人がこうも言っていた。

「ミコトちゃんは9割の確率でダサいが、残り1割の衣装がハマったときの綺麗さもしくはカッコよさは半端ない」

 だから一緒に遊びに行くときは、昨夜のうちに明日着る服を教えてもらっておく人――もしダサい服装だったら急用ができたと言って断る――が殆らしい。

 私は話半分で聞いていた。到底信じられる話ではなかったからだ。

 まあ彼女と一緒に外出する機会なんてないだろうと思っていた。

 しかし夏休みのある日ミコトちゃんと一緒に買い物に行くことになった。

 文化祭で必要な物資の買いにいくのだ。

 私はその日がとても不安で、でも少し楽しみでもあった。


 そして買い出しの日。

 私は無難な服を着て、待ち合わせ場所に30分前について待っていた。ミコトちゃんの私服が気になって少し早めに来てしまった。

「ごめん、待った?」

 ミコトちゃんは待ち合わせ時間より数分遅れて現れた。

 私もその服はどうかと思った。

 ダサかった。色合い、シルエット、バランス、どこをとってもダサかった。よくここまでできるなと感心するほど奇跡的にダサかった。

「いや~ごめんね。来る途中で自転車とぶつかっちゃってさ。ほら膝小僧擦りむいてる」

「大丈夫なの!?」

 あれ、私、絆創膏持ってなかったっけ?

「大丈夫、大丈夫。下に鎖帷子着てるから」

「鎖帷子!?」

 見えないところまで!?

「実はこの鎖帷子とある有名な刀匠に造ってもらった――」

 ミコトちゃんが楽しそうに喋っているけど、とにかくツッコミたいことが多すぎて話の内容が入ってこない。

 ただ制服を着ているときより、彼女自身で選んだ服を着ているときの方が楽しそうに笑っているなとぼんやりと思った。

 その笑顔がいつもの大人びた顔とは違って、とても子供のように無邪気で魅力的で見蕩れてしまう。

 同級生なのにミコトちゃんの姿に尊敬をしてしまう。

 好きなものを着てもいいんだよ。周りの目なんて気にするなって言ってくれてる気がしている。

 好きなものを好きなように着ているミコトちゃんを見ていると凄い勇気がもらえる。

 私も自分の好きな服を着ていいのだろうか。

「あっごめんね。興味なかったよね……」

「え、いや、……いいともうよ」

 私が適当にした返事にミコトちゃんは嬉しそうな顔をするから、少しの罪悪感。

「じゃあ行こうか!」

「うん!」

 ミコトちゃんに促されるままに歩き出す。

 隣を歩けることは少し誇らしかった。


 ……でもやっぱりもう少し離れて歩いてくれると嬉しいかな。

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これが私 義仁雄二 @04jaw8

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