Anyone Is Hero

ケーエス

Anyone Is Hero

 あなたがいなければ、私はここにいませんでした――。


 あなたのおかげで胸を張って生きていけます。


 日々応援と共にそんなメッセージをもらう。その度に俺の人生ってそんなに悪くなかったのかなって思う。むしろみんなからのコメントのおかげで俺が生きていけているというくらいだ。


 誰かを守るって大変だ。誰かの人生の責任を負わなくちゃならない。正直誰しも自分の人生を生きるのに必死だ。誰かを守るより、誰かに守って欲しいだろう。自分を受け入れてくれる相手。守ってくれる相手。だからみんな恋愛ってものをするんだろう。


 俺の職業を聞いてもみんなはヒーローだなんて信じてくれない。俺の職業はみんなの役に立つってわけじゃない。むしろ無関係だろう。俺がいて嬉しいと思っている人は少ない。一応ヒーローなんだけどな。でも一部の数限りある人は俺のことをヒーローだって言ってくれるんだ。それだけでいいじゃないか。たくさん救うのが偉いヒーローもいるけどな。


 誰かと戦うって大変だ。それは恐怖に打ち勝つってことだ。簡単に勝てるもんじゃない。戦術とかそりゃあいろいろあるけど、最後は目の前の脅威に立ち向かう精神力だろう。自分が繰り出したものが相手にヒットするなんてわからない。でもやるしかないんだ。


 何かを守るために戦うかっこいい存在っていう条件さえあれば誰だってヒーローだって思うんだよ。医者だって弁護士だって見守り隊のおじいさんだってそうだろ?


 そうだ、だからヒーローなんだよ、自宅警備員は!!



「あんた、また家でゴロゴロしてるの!」

 母親がドアをこじ開けた。バリケード代わりの漫画の山は踏みつぶされた。母親は憤怒の形相で息子と彼の机に置いてあるスマホを見比べた。

「これは?」

「配信だよ」

 息子がむすっとした顔で答えた。

「何を?」

 母がスマホを覗くと、

『母親登場は草』

『ピンチじゃんw』

『お前のクソみたいな配信見てると逆に安心できるわ』

 などとコメントが流れていた。母は化粧を落とした自分の顔が流れていることに気づき、慌ててスマホをひったくって投げた。スマホは見事な放物線を描く。着地点は漫画の残骸だった。

「ちょ、何してんだよ」

 もはや鉄の塊。息子は母を睨んだ。

「こっちのセリフでしょ。まさかユーなんとかにでもなろうとしてるの?」

 母も手を腰にやって睨み返す。

「ま、まあ」

 息子が左手を顔に押しやった。

「クソみたいな配信で?」

「んまあ、褒められてるし」

 母は漫画の山と息子の頭を見比べた。大きな溜息、一つ。


 漫画のタイトルは「ポジティブヒーロー」だった。

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Anyone Is Hero ケーエス @ks_bazz

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