第5話 反響


初配信を終えゲームで徹夜し時刻は翌日昼過ぎの今日この頃。いつも通りオンラインで注文した弁当(配達員はいつも俺に弁当を届けてくれる綺麗な女性だった)を片付けた彼――カズヤが一体何をしているかと言うと、ツブヤキで昨日の配信のエゴサーチをしていた。


昨日の初配信を終えた後、無性にゲームがやりたくなったのか直ぐにいつもの『オンラインフード注文・配達サービス』で弁当やらお菓子を注文し、それを食べながら朝日が昇るまでの間カズヤはずっとゲームをしていた。

そのため配信を終えてからの彼は、一度もエゴサーチをしていなかったのだ。


「……あ、そういえばまだアカウント作ってなかったな」


ツブヤキを開いたものの、未だアカウントを作成していなかったことに気付いたカズヤ。

そんな彼を注意するか如く、画面には『アカウントが作成されていません。アカウントを作成してください』とポップが浮かび上がってきた。


「配信中にアカウント作ろうと思ってたけど……結局昨日はゲームして寝ちゃったからなぁ。名前は……うん、普通に"カズヤ"でいいか」


アカウントを登録するために情報を打ち込んでいくカズヤ。

しかし何故だか上手くいかない。


「あれ? 『既に使用されているユーザー名です』ってどういうことだ? もしかしてこの世界で俺と同名の男性がツブヤキを使ってるってことか? 意外だな。…………DMでも送ってみるか? 男性の趣味を聞ける良い機会かもしれないし。何なら男性ファンだって出来るかも?」


そう彼はいるはずも無い同性に想いを馳せていた。

現実とはそう都合よく行くわけでもなく甘くもないのだ。



カズヤは知らない。昨日の配信で"カズヤ"がどれほど世界に影響を与えたのかを。


カズヤは知らない。今世の中では"カズヤ"と言う名前を使おうと躍起になっている人々が存在することを。


カズヤは知らない。今やファンの間で"カズヤ"という名前のアカウントがさまざまな場所で作られたせいで、ほぼ全てのアプリで"カズヤ"と言う名前が使用済みになっていることを。



「……その前にエゴサだな。 うーん……ユーザー名ってアカウント固有だったな。じゃあもう本名で良いか? うん。それでいいや。 "@kazuya_naruse"っと。名前は確か重複しても大丈夫だから……普通に"カズヤ"でいいかな。――よしアカウント作成完了! 早速エゴサするぞー!!」


ネットリテラシー。この男にはそれが非常に欠けていた。

とても現在18歳の立派な男性とは思えない迂闊な行動だ。まだ小学生の方がマシかもしれない。


そして案の定、この事が後にさらなる動乱を生み出すことになる。

――もちろん彼がその事に気付くはずが無い。




#########################################




「う、うわ……すげぇ……」


アカウントを作成し、早速【#カズヤの奇跡】でエゴサをし始めたカズヤは、その投稿されている膨大な数のツブヤキに言葉を失っていた。


「何だよ50万件のツブヤキって……。それにトレンド一位とか……」


トレンド一位。それも二位に約20万件以上もの差を付けての一位だ。

どれほど圧倒的であるかは一目瞭然だろう。この世界が如何に男性に飢えているか、それがカズヤにはハッキリと理解できた。


さらには――



「トレンド二位は【#祝!男性配信者!】って……つまり俺のことだよな? てことは一位と二位独占じゃないか! 」



トレンド一位だけで無くトレンド二位まで獲得するという快挙だった。

トレンド上位二つを独占するのは前世の有名人であってもかなり難しいと言えるため、カズヤ自身嬉しく同時に満足しているが、未だ自分の存在を軽視していたようで――


「――はぁ?! 俺……ネットニュースになってるじゃんか!!」


続けざまにトレンドタブの隣にあるニュースタブを開いたカズヤは、ニューストレンドに自分の配信時の画像が載っているに気付いた。それもほぼ全ての記事によって。


「……なるほど、俺は今本当の意味でアイドルや芸能人の気持ちを理解できたのかもな。嬉しいけど……それ以上に注目がプレッシャーになるのか……。」


カズヤからすれば、ネットニュースを飾るアイドルや芸能人は別世界の住人のようだった。

彼等はいつもキラキラしていたし楽しそうに日々を過ごしているように見えたからだろう。

そしてそんな彼等をカズヤは羨ましいと思っていた。それに比べて自分は……、と卑下する事もあったほどに。

――しかし今のカズヤならきっと誰よりも彼等のことを理解できるだろう。彼等の見えない所での苦労を。


「………」


何故配信者を始めたのか。プレッシャーで弱気になったカズヤはそれを思い出していた。



憧れだったから。

羨ましかったから。

みんなに喜んでほしいから。



さまざまな理由が彼の脳内に浮かび上がっていた。

そして――


「――そう、一番は自分のためだ。俺が女性といっぱいイチャイチャするためだ。……はは、何だよ。プレッシャーのせいか変なこと考えちゃったな、らしくない。 配信者になったのはみんなの為じゃなくて俺のためだ! やりたい事をやるって決めたじゃ無いか! 自分の人生は自分で決めるものだ!」


「……うん。そうだ。プレッシャーとか自重とか関係無い。せっかく貰った2度目のチャンスなんだ。気負うのは辞めて後悔しないように好きに生きよう!…………警察の世話にならない程度に」


そう言い放つ彼の顔にはつい先ほどまで浮かんでいた暗い表情は消え去り、代わりに小学生男子のような無邪気な笑顔が浮かんでいた。そしてその顔はどこか吹っ切れたようにも見えた。


「………よし! ならいっちょやりますか!」


彼は自身の双眸そうぼうを宝石のようにキラキラと輝かせながら、次に何をしたら楽しくなるのかについて考えていく。

そして――


「――まずはファンにリプを返そう! うん!! 良いアイデアだ!  俺も前世でリプを貰ったことがあったけど嬉しさのあまり布団から飛び起きたからな! 折角だからこの世界の女性にも俺と同じ事、いやそれ以上の反応をして貰おうじゃないか! ……グヘヘヘ……べ、別に女性をいじめて喜んでいる訳じゃないんだからね!!前世の俺みたいな反応をするだろう女性を笑うためでもないんだからね!! 勘違いしないでよね! 」


  


        彼――カズヤの自重のない配信者人生はここから始まった。




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