第5話 1975年
1975年になっても永井豪氏の勢いは凄まじく、新作として「ゲッターロボG」に「鋼鉄ジーグ」、そして「UFOロボ グレンダイザー」を送り出している。ただアニメ界の永井豪ブームはここで一旦収束した。ダイナミック企画関連では翌年「グロイザーX」が放映され、同年特撮で「プロレスの星 アステカイザー」を円谷プロとタッグを組んで送り出したものの、どちらも評判はさほど高くない。永井豪ブームとしては、1975年までだったと考えるべきだろう。
とは言え、1972年の「デビルマン」から始まり4年近くに渡るこの期間に発表した作品の数々は、世紀を超え2022年のいまでも日本のアニメ界に影響を与え続けている。創作者の端くれの片隅に勝手に身を置いている者の一人としては、とんでもないなとしか思えない。グレンダイザーはかつてフランスでアホみたいな視聴率を叩き出したことがあるし、鋼鉄ジーグはいまでもイタリアの国民的アニメらしい。ならば世界の創作史に名を刻んだといっても過言ではないのかも知れない。
なお虫けらが数あるアニメの登場人物で一番好きな女性は、グレンダイザーの(できれば荒木伸吾氏作画の)マリアちゃんである。グレース・マリア・フリードなどと呼んだりはしない。いまでもマリアちゃんである。なのでグレンダイザーのOPアニメはマリアちゃんがドリルスペイザーを操縦する後期が大好きだ。自分で言うのもアレだが気持ち悪いな。
しかしこの年、気を吐いていたのは永井豪氏だけではない。タツノコプロも元気だった。もはや伝説的なアニメとなった2作品「宇宙の騎士テッカマン」と「タイムボカン」の放映が開始されている。このテッカマンと、後の「宇宙の騎士テッカマンブレード」(1992年)とは物語上のつながりはないので、シリーズと呼んでいいのかは微妙である。まあそんなこと言いだしたら、タイムボカンシリーズも物語上のつながりはないのだけれど。そもそもヤッターマンシリーズと言った方が正確なのではないか、とは昔から言われていたことなのだが。
昨今のアニメではとんと見かけなくなったのだが、昔は「冒険物」というジャンルがあった。何故なくなったのだろうな。この年、「アラビアンナイト シンドバットの冒険」「アンデス少年ペペロの冒険」「みつばちマーヤの冒険」、そして悪役ノロイがいまも語り草となっている「ガンバの冒険」が放送開始となっている。ペペロは主題歌しか覚えていない。見たことはあるはずなのだが内容は記憶から消えている。
シンドバットの冒険は、シンドバットと九官鳥に姿を変えられたシェーラ姫との会話が楽しかった記憶がある。マーヤはそれなりに面白かったのだが、イマイチ熱中はできなかった。後に「新みつばちマーヤの冒険」(1982年)が放送されたとき、「え、そんなに人気あったの?」と思ったことを覚えている。ガンバはもう、言わずと知れた名作。日本の冒険アニメ史上1、2を争う作品だ。ちなみにガンバのライバルとなるのは「宝島」(1978年)だろう。どっちも出崎統監督だが。
巨大ロボット物としては「勇者ライディーン」も始まった。日曜夜7時半のいわゆる名作劇場の第一作「フランダースの犬」、この先1982年までの長期シリーズとなる「一休さん」、ロボット物じゃない富野アニメ「ラ・セーヌの星」、安彦良和氏のオリジナルアニメ「わんぱく大昔クムクム」、アニメというジャンルに入れるよりも「昔話」というジャンルを作りたいほどの「まんが日本昔ばなし」などなど、全部で23本の新作アニメが放送開始となった。
一方この1975年、特撮の新番組は7本となっている。数的にはこぢんまりしたかに見えるが、内容は濃い。まず川内康範氏原作の、怪作と言ってもいいのかも知れない「正義のシンボル コンドールマン」が始まっている。虫けらは観ていないが。いや、見た目がな。「月光仮面」(1958年)の時代ならいざ知らず、この頃の子供はもう仮面ライダーやウルトラマンのデザインすら当たり前に慣れきってしまっていたのだ。そこにあのコンドールマンの姿を持ってきても、そりゃあ観ないだろう。ただ主題歌の素朴でストレートな文明批判は、一聴の価値はあると思う。
3月にウルトラマンレオが終了し、ウルトラシリーズは1979年までしばらく休眠に入った。一方の仮面ライダーシリーズは4月より「仮面ライダーストロンガー」が始まったものの、こちらも苦戦、年内に終了した。仮面ライダーも1979年の「仮面ライダー」(いわゆるスカイライダー)まで休眠となる。
特撮のビッグシリーズが相次いでテレビから姿を消し、当時の特撮ファンは意気消沈、したかとお思いの向きもあるかも知れない。しかし、さにあらず。何故なら「彼ら」がやって来たからだ。現代の特撮と言えばライダー、ウルトラ、そして戦隊の三本柱。そう、東映スーパー戦隊の元祖、「秘密戦隊ゴレンジャー」がこの年に始まったのである。
もうゴレンジャーという文字を打ち込んだだけで、頭の中にあのイントロが流れてくる。ささきいさお氏と堀江美都子氏の声が聞こえてくる。それくらい強烈なインパクトがあったのだ。無論、戦隊的な作品がゴレンジャー以前になかった訳ではない。たとえば「科学忍者隊ガッチャマン」「トリプルファイター」(共に1972年)があったし、見ようによっては「仮面の忍者 赤影」(1967年)だって赤青白の戦隊だ。白黒テレビ時代には――虫けらは未見だが――「忍者部隊 月光」(1964年)もあった。
しかしゴレンジャーには、それらすべての作品の美味しいところを凝縮したような魅力があったのだ。当時の子供たちの集団的遊びの定番には「怪獣ごっこ」があったが、それとは別に「ゴレンジャーごっこ」が生まれるくらいに。モモレンジャー役をやりたがる男子はあまりいなかったが、ボールがあればゴレンジャーストームはできたし、何より主役が1人じゃないのが、ごっこ遊びをする側には好評だった。まあ、怪人役は嫌な顔をしていたが。
虫けら個人としては、上記のように主題歌「進め!ゴレンジャー」が大好きだ。何せ、作詞:石森章太郎、作曲:渡辺宙明である。悪い曲のはずがない。もしかしたらご存じない方もおられるかも知れないが、石ノ森章太郎氏は漫画家として天才であったのはもちろん、作詞家としても凄かったのだ。「レッツゴー!!ライダーキック」とか「アマゾンライダーここにあり」とか「嵐よ叫べ」とか「誰がために」とか。「ドラゴン・ロード」みたいにちょっと「ん?」と思うのもあるが、基本的に石ノ森氏の作詞は安定しているし、上手い。言葉の引き出しが凄かったのだろうな、と思わせる。天は二物を与えるのである。
余談だが、ゴレンジャーで見せた歌詞の中に色を織り込む手法は、「仮面ライダースーパー1」(1980年)の主題歌でも見ることができる。こちらの作曲は菊池俊輔氏である。これもいい歌なんだ。いい歌なのに、何故主演俳優に歌わせようとするかなあ。
石ノ森作品としては、この年「アクマイザー3」も始まっている。虫けらは好きだったのだが、周囲でアクマイザー3が好きという声を聞いたことがない。何故だろうな、面白かったのに。言うまでもなく主題歌「勝利だ!アクマイザー3」の作詞も石ノ森章太郎氏だ。アクマイザー3は2012年の仮面ライダーの映画にゲスト出演しているそうだが、未見である。
その他の特撮としては、「冒険ロックバット」「少年探偵団」「それ行け!カッチン」がある。カッチンはその存在自体ついさっきまで知らなかった。ロックバットと少年探偵団はうっすら記憶に残っているが……ほぼ知らないレベルだなあ。
まあこんな感じで、1975年は終わってみれば、ゴレンジャーが席巻した年である。1971年から1975年までの5年間、子供たちは毎年テレビの中で「これまでと違う、新しい何か」に出会うことができた。この期間は日本のアニメ・特撮の歴史において、もっとも濃厚な時代だったのかも知れない。これから先はアニメも特撮も、目新しさより品質を向上させる方向に進む。良くも悪くも落ち着いた時代に向かうのだ。もちろん、新しさを求める動きが急になくなる訳ではないのだが。続きは次回。
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