第53話 質問:鳩

 エリリカは最後、挑発するかのようにローラを見た。当のローラは悔しがるどころか、面白そうという顔でエリリカを見ている。完璧な推理で負かされているのに、それが態度に現れていない。

「他にも質問したいことがあるんですけど~」

「え、一つって言ったじゃない」

「鳩に気づいたのはどうしてですか」

「全然聞いてないし」

 エリリカは諦めて溜息を吐いた。ローラは自分の罪が暴かれているというのに、目を輝かせて説明を待っている。完全にいつものローラのペースだ。

 ぶつくさ文句を言いながらも、エリリカはきちんと質問に答える。

「鳩だと気づいたきっかけは、『イレーナ大臣の行動タイミング』と『殺人の起きるタイミング』が、合いすぎたからよ。

 最初の事件の時、イレーナ大臣は毒が盛られた大広間前の廊下にいたわ。パーティーが開始しても入って来なかった。次の事件では、何者かに頼まれて箱を持っていき、そのまま四階の書斎にいた。ああ、ちょっと待ってよ。これは後で説明するわ。彼女自身の事件の時は、手紙を待っていたという考えに辿り着いてないから、省くわよ。ほら、三人の時、どの現場にもイレーナ大臣はいたのよ。こんなにタイミングが合っているのに、偶然では片付けられないわ。そして、彼女は自殺に見せかけて殺されたのかもしれない。

 そこで、一つの仮説を立てたの。犯人は何かしらの手段でイレーナ大臣と接触し、毎回犯行現場に呼び出した。彼女が犯人だと誤認させるために」

 やはり、何人かはイレーナ大臣を疑っていたらしい。申し訳なさそうな表情がチラホラ見える。かく言うアリアもイレーナ大臣を疑っていた。

 アリアが他の人の表情を見ていると、やはりアクア夫妻だけ明らかにおかしい。青ざめているように見える。

「ライ大臣の時、誰かに箱を頼まれたって言ったわね。この誰かっていうのは、犯人のことで間違いないわ。箱の運搬は計画の要だから、その指示を第三者に頼むことはしないはず。

 城の中で堂々とイレーナ大臣に声をかけ、箱の運搬をお願いしたとしましょ。そのすぐ後に殺人が起こり、部屋には箱がある。声をかけたローラが、真っ先に疑われるわ。それなら、周りに気づかれない方法で運搬を頼むしかない。しかも、イレーナ大臣に怪しまれない、自然な理由を添えてね。じゃないと、彼女にも疑われるからよ。この自然な理由とは何か、書斎にいた理由と併せて、後で説明するわね。

 二人は住んでる国が違うから、お互いがどちらかの国に行き来しない限り、会うことはできない。しかし、それだと関所に記録が残ってしまう。そこで、会わずに連絡を取る方法がないか考えたの」

 エリリカは横にある机からハンカチを取った。そのハンカチを開けると、中から羽が現れた。真っ白で綺麗な鳥の羽が一枚。アリアも見たことがある羽。ライ大臣の部屋で、あのメモを開いた時だ。

「これは、ライ大臣の部屋にあった『お前たちは罪を犯した』というメモに挟まっていたわ。最初は、窓から羽が入り込んだんだと思った。でも、二人が会わずに連絡を取る方法が思いつかなかったから、羽から鳥を連想して、推理に取り入れてみたの。

 鳩なら、手紙を運ばせて連絡が取れる。つまり、伝書鳩ね。鳩を通して事前に連絡すれば、その場で声をかけなくても、箱を運んでもらえる。パーティーの日に、大広間の前へ呼んだ方法も伝書鳩ね。

 もう分かると思うけど、二人が証言してた怪しい人物なんて、最初からいなかったの。箱について聞かれた時にどう答えるか、予め決めておいたんでしょうね」

 これでおしまいとばかりに、エリリカはローラの方を見た。ローラは両手を合わせて拍手している。静かな空間の中に、ローラの拍手だけが響く。エリリカはハンカチを机の上に戻した。

 ダビィとミネルヴァは、青ざめたまま完全に黙ってしまった。セルタは二人の表情に全く気づいていない。

「あの、イレーナ大臣は、ローラさんが連絡してきたことを不審に思わなかったのでしょうか。二人に接点はありませんよね。住んでる国も違いますし」

「それがあるのよ。大きな接点がね」

 エリリカは不敵に笑ってみせた。ミネルヴァの方は限界に達したようで、唇まで真っ青になっている。今にも悲鳴を上げて、倒れそうになっていた。

 イレーナ大臣とローラ。二人の接点がアクア夫妻にどのような影響を及ぼすのか。アリアには想像がつかなかった。

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