第22話 箱の指示を出したのは?

 翌朝もエリリカとアリアの捜査は続く。今日も真っ青な快晴。鳩は気持ちよさそうに空を飛んでいる。

 たった一晩で様々な疲れが取れるはずもなく、アリアの気持ちは沈んでいた。体が鉛のように重い。

 いつものように、大広間でメイドを集めて仕事の割り振りを行う。

「アリアさ~ん、犯人は見つかりましたか」

「あら、ローラ。あなたに聞きたいことがあったのよ」

「あたしにですか」

 声をかけてきたローラは、左の人差し指で自分の顔を指差す。心当たりがないのも当然。イレーナ大臣から箱の話を聞いたことは、ローラにまだ言っていない。

「イレーナ大臣に聞いたのよ。ライ大臣の部屋にある赤い箱、あれはあなた達が運んだのよね」

「えっ」

 ローラは笑顔のまま固まった。その顔が見る見る真っ青になっていく。

「あの箱はどうして運ぶ必要があったの。中身は何?」

「それは・・・・・・。その、あたしは本当に何も知らないんです。頼まれたことをしただけで」

「誰に頼まれたの」

「ごめんなさい。『その箱をライ大臣の元へ運んで』って声が聞こえて、振り向いたら誰もいなかったんです」

 ローラは申し訳なさそうに眉を寄せる。両手を握りしめて俯いてしまった。アリアは彼女のために優しい声色に変える。

「誰に言われたのか確認しなかったのね」

「使用人は全員忙しくしてたからなんです。あの日の私は、アスミさんと一緒に大広間や墓地周辺の見回りをしてました。声をかけられたのは、大広間周辺の見回りをしている時です。使用人は全員忙しく動き回ってたし、『あれやっといて』みたいな頼み事もよく聞こえてたんです。だから、手を離せない使用人が、後ろを通りながらお願いしたんだと思いました。それで、仕事だし、運ばなきゃって、思って」

「そう」

 アリアの返事を呆れと取ったのか、ローラは顔を上げて縋るようにこちらを見た。行動の理由を伝えようと必死に口を動かす。

「本当にそれだけなんです。まさかあんなことになるなんて、思わないですよ。中身はライ大臣への届け物だから、見ませんでした。失礼にあたりますし」

「分かったわ、ありがとうね」

「あたし、後悔してるんです。あたしの運んだ箱がライ大臣を、その、殺すのに使ったのかは分かりません。でも、罪悪感はありますよ。どうしよう」

 ローラは不安そうに紫色の瞳を揺らしている。本当にローラの中に罪悪感があるのなら、自分が適当なことを言っても慰めにならない、とアリアは思った。

「今は仕事に集中しましょう。私達でエリリカ様をお支えすれば、完全に元通りとはいかなくても大丈夫よ。ね」

「そう、ですよね。ありがとうございます」

 少し元気になったみたいで、ローラはいつもの笑顔に戻った。アリアはほっと胸を撫でおろす。彼女にだって、笑顔でいてもらいたい。

「あの、アリアさん」

「何かしら」

「えっと、このことであたしを嫌いになったり、しませんか」

 ローラはまたしても不安そうな顔を向けている。アリアは小さく微笑んだ。右手をローラの頭に乗せて優しく撫でる。

「嫌いに? どうして? 絶対ないわよ、そんなこと」

 ローラは満足したらしく、大きく手を振って大広間を出ていった。アリアは彼女を責めてしまったような気がして、一層気分が沈んだ。

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